銀貨一枚の運命
私はある店先で運命の出会いを果たしました。
それは甘い誘惑です。
私の目を釘付けにして離さない存在。
胸が高鳴り、顔は興奮で絶対赤くなってます。
私が探して、探して、探していた理想が今、目の前にあるのです。
「駄目です!」
私には旦那様を、皆を裏切る訳にはいかないのです。
こんな所で見惚れていては駄目です。
でもその存在に、駄目だと頭では分かっているのに無意識に手を伸ばしてしまいまいました。
触れた質感はどっしりと固く、分厚いです。
旦那様のと同じ。
私のとは全然違うのです。
少しだけ、少しだけなら………
その存在は私に分かりやすく、とても優しく、丁寧に教えてくれました。
ピーさえ知らないことや、旦那様さえ教えてくれないことまで……
旦那様のよりドキドキになって夢中になってしまいました。
私は一体どうすればいいのでしょう……
旦那様や皆が許してくれる行為ではありません。
きっと失望されます。
でも別れたくもないのです。もう私の一部になってしまったものと離れたくありません。
離したら次に会える保障はないのです。
だから、私は……………
「これ、下さい!」
「毎度。銀貨一枚ね」
リンは本屋の店先に一日限定在庫一掃all銀貨一枚セールワゴンから『悪女の条件』という題名の分厚い本を掴み取ると、兎財布から銀貨を取りだし購入してしまった。
リンの絵本と違い、絵はまったく書かれていない本はアレスが所持している書物並みに紙が何枚も重なり厚く、固くなっている。
色んな葛藤があったが誘惑に負けた。
タマゴより、おやつより、悪女マニュアルに比重が傾いてしまったリン。
『悪女の条件』=悪女マニュアル本。
しかも在庫一掃セール品だけあって内容がかなり古い。それはもう、とてつもなく。
まず悪女の笑い方が定番の「おっーほっほっほっ」から始まり、金髪縦ロール、扇は常備、ドレスは赤色などの設定まである。
確かにリンにとっては読みやすい本であった。
だからこそ売れてしまう前に購入しようと踏み切った。
だがリンは知らない。
売れ残り本だと。
リンの初めてのお使いは、初っぱなから頓挫したことに、残されたアレストファ公爵家共々は知るよしもなかった。




