初めてのお使い
「ああー、何て事だ。これではケーキが作れない」
「困りましたわね」
「仕事が忙しくて買いに行くにもな?」
「そうだよね。忙しいよね」
「誰かが買いに行ってくれませんかね」
「ぼ、僕も忙しいからな、ぁー………そうだ。嬢ちゃんに頼むのはどうだ?」
変な使用人達がさらに変になってしまいました。
危ない病気ですか?
マァムまで感染してます。かなり危ない病気なのです。
「頭の病気ですか?」
「………下手な演技だね」
「「「「「「シーッ!!」」」」」」
使用人達が皆一斉に人差し指を口元の前に立てます。
何が内緒なのですか?
「危ない頭の病気になったフリですか?」
「そんなフリをするか!」
「じゃあ何ですか?」
「遠回しに言ってもリンに伝わるわけないよ。だから直球で言えば良かったのに。馬鹿だね」
危ない頭の病気ではありませんでした。
良かったです。私は馬鹿にはならないのです。あと旦那様も。
イッちゃんは既に馬鹿です。旦那様が言いました。
どうやら私にお使いに行って欲しいらしいのです。
面倒です。
私だって忙しいのです。
さっきまでシュークで遊んであげてましたし、旦那様に撫でて貰ったり、お昼寝したり、森の巡回にも行かなければなりません。
私は大忙しなのです。
暇ではありません。
「シュークが行けばいいのです」
シュークは今はお昼寝中で暇なのです。
それにやっとこシュークも首がダランダランにならなくなったと、医者が言ってました。
最近では歩いています。
食べては寝てばかりのシュークに運動させなければ牛になってしまいます。
「首が据わって、ハイハイを始めたばかりの赤ん坊にお使いが出来るか!第一、まだ話せないだろっ」
「何の為に文字があるのですか。喋れないなら字を覚えるのですよ。メモでも持たせればシュークでも出来るのです」
「さらに難易度を上げてどうする!」
「高みを目指すのが男です」
「高すぎるわっ」
イッちゃんはやっぱり煩いのです。
シュークばかりに楽をさせるのは良くないのです。将来、ろくな男になりません。
今からの英才教育は大事です。
「しかし困りましたな。卵がなければ今日のおやつはなしになりますが…………」
「な、何ですって!?」
「嬢ちゃん、キャラ、キャラが違う。そんなに衝撃的な程か………」
「イッちゃんは黙るのです!由々しき事態なのです!おやつがない3時など3時ではありません。卵ですね!?すぐに持って来ます!」
「いや、あの、持って来るって………何処から?それよりお使い……」
「ピーに産ませるのです!ああ、メェちゃんでもいいのです。メェーちゃんー!!!」
もっと早く言ってくれれば良かったのに。メェちゃんはもうマル爺のお家に帰ってしまいました。
今から追えば3時までに間に合いますかね。
おやつの時間には一刻の猶予も許されません。
急いで窓から飛び出そうとしましたが、イッちゃんに後ろから羽交い締めにされました。
「何ですかっ!?離すのです!!」
「離すかっ!誰もドラゴンの卵なんざ喰いたくもないわっ。卵は卵でも鳥!鳥のタ、マ、ゴ!!」
「なら森で狩って来ますから離すのですよ!」
「魔物の卵なんざもっといるか!!鳥は鳥でも鶏!!分かるか?コケコッコの鶏!!」
「鶏は森には居ませんよ?」
「狩りから離れてっ。だから町に行って、卵を買ってこいって言ってるの!」
「それならそうと言って下さい」
「さっきからそう言ってたわっ!!」
「だから直球で言いなよって言ったでしょ?」
「「「「「「そうですね………」」」」」」
使用人達が何故か肩をガックリさせていますが、今は卵です。
おやつの為にお使いに行きます!
マァムから買った卵を入れる篭を渡されました。
卵は10個買ってくればいいようです。
割れやすいから気をつける様に言われました。
旦那様からもお小遣いを貰いましたがイッちゃんに取り上げられました。
私の兎財布を開けて中身を出します。
チャリチャリチャリチャリチャリン
金貨が五枚出てきました。
お小遣いUPです。
「やっぱりな………しかも増えてるし……これは没収します。卵を買いに行くだけにこんな大金は要りません!」
イッちゃんは金貨の代わりに銀貨を一枚入れて兎財布を渡してきました。
「卵は銀貨一枚でお釣りが出る位の値段だから、釣りで好きなのを買ってこいよ。勘定の仕方は教えたから大丈夫だな?」
「はいです」
「リン、知らない人には?」
「ついて行きません」
「暗い路地には?」
「入りません」
「馬車には?」
「殺気をとばさない」
「難癖つけられたら?」
「喉を潰します」
「男に声を掛けられたら?」
「殺します」
「うん。行ってらっしゃい」
「行って来ます」
「後半、可笑しいからっ!何その条約!?しかも男は問答無用で死あるのみとか、厳しすぎるからっ!!」
イッちゃんが何か言ってますが、そんなことよりおやつが大事です。早く卵を買って来ましょう。
今度こそ窓から飛び出して町に向かいます。
待ってるのです。
私の卵!




