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子育ては大変13(番外編)

シュークの父親<カニカマ作り編






リンが実家探し(迷子)中。


アレスは入浴を済ませると、イチと料理長を呼び出し、台所でひたすら料理長が蟹を剥き、アレスが蟹を魔力加工、イチが試食していた。


男三人が真剣な表情で蟹を見つめる。


「なぁ、何で蟹なんだよ?こんなことより、嬢ちゃんを探しに行かなくていいのか?」


邸にある蟹の身を全て剥く。

蟹は全部で三匹。


生蟹、茹で蟹、焼き蟹。


それらを、ひたすら料理長が剥いては、アレスが魔力で蟹の水分だけを取り除き干からびさせ、イチがそれを食べる。


「居場所は分かってるよ。それより、いつまで噛んでるの?早く食べなよ。次がまだあるんだから」


「固すぎて食べれるかっ!何で僕まで…………僕はデザイナーだよね?何で蟹!?嬢ちゃんと全然関係ないよなっ!」


「イチ、アレス様の不可解な行動はいつもの事です。慣れなさい。それにアレス様は仕事か、お嬢様為にしか動きません。これはお嬢様の為です」


「それもどうなの!?蟹が何で嬢ちゃんの為になる!?ささっと謝れば済む話だろっ!!」


「それで許してくれなかったら、どう責任を取ってもらうの?まさか、嫉妬されるとは思わなかったよ……………可愛かったけどね」


「犬だけどな」

「犬でしたがね」


「仲直りには貢物が必需品でしょ?」


今までアレスは仲直りしたいと思った事さえない。

そもそも喧嘩=一方的な殺ししか、した事がないアレスは思考がズレていた。

仲直りの仕方など分かるはずがないし、仲直りしてまで付き合いたいと思う人間さえいなかった。


それだけリンに拒絶されそれだけショックであった。


可愛かったが………


「だからって何で蟹!?ご機嫌とりの貢物なら他にもあるだろ?」

「お嬢様は確かに蟹はお好きですが、菓子のがよろしいのでは?」


「しかも態々固くしなくても、そのままでいいだろ。そのままのが断然旨い」

「蟹の水分には蟹の旨味がありますし、それを取り除いたら味がしませんよ」


「そのままじゃ、ただの蟹でしょ。俺が作りたいのはカニカマだよ」


「「カニカマ?」」


「むこうの世界での猫の餌だよ」


リン曰く、茹でた蟹はカニカマではないらしい。


「贅沢な猫だな……」

「蟹が猫の食事ですか……」


蟹は高価な食物だ。

それこそ、貴族しか食べられないほどである。

しかも今ここにある蟹はさすがアレストファ公爵家の蟹であって形、鮮度、味も最高級品であった。


アレスに全て魔力加工(乾燥)されているが……


「あのさ今更だけど、僕が食べてもカニカマの味を知らないんだから意味ないよな?だから兄さんがこの、固くて味なしの蟹を食べろよ!」


「何言ってるの?俺も食べた事がないからイチに食べて貰っているんでしょ。はい、次は焼いたのだよ」


「焼いて干したやつなっ!食べた事がないのかよ!それでどうして作ろうとするの!?作れるわけないだろ!」


「俺のはリンにあげてたからね。嬉しそうに食べてたよ」

「そんな感想はいらんわっ。今求めてんのは味の感想だからっ!嬢ちゃんを甘やかすだけ甘やかして、どうする!だから作れないんだよっ!!」


「……………アレス様、そのカニカマの特長はないのですか?本当に材料は蟹ですか?」


「…………蟹の匂いはしたよ。あと赤くて白かったし、乾燥してたよ」

「匂いだけですか……因みにその、そちらの世界では人間にとって蟹は高価な食材ではないのですか?」


猫の餌されるほどである。


「贅沢品と、言っていたから価値は此方と一緒だと思うけど…………そうだね。猫の餌にするには高価過ぎるね」


「それってさ………蟹は蟹でも蟹風味なんじゃ……」

「それなら分かります。蟹のエキスのみでしたら香りは蟹ですしね。そもそもお嬢様は蟹を食べられてもカニカマの味とは言われた事がありませんから」


「風味?何それ?蟹は蟹でしょ」


「「…………………」」


(そうだよな。兄さんは貴族で公爵だから風味なんていう紛い物なんか食べたことないよな)


(そうでした。この方は食に関心がまったくありませんでしたね)



((作れるわけない!!))



「コホンッ、猫の餌は蟹以外に何がありますか?」

「キャットフード(ガラガラ)と猫缶。どちらも見かけは魚ではないのに魚味だったね」


「魚ですか。なら白身魚に蟹のエキスを加えてはどうでしょう?」

「ああ、それなら蟹風味になるな」


「カニカマになるなら何でもいいよ」


料理長はアレスのカニカマ情報を元に再現しようと奮闘した。


まず色は赤と白。

蟹の身の、表面の赤色のみ使用。

代表的な猫餌の魚は白身魚を使用。


匂いにはアレスが魔力で取り除いた、蟹エキスを使用。


彼方の世界では魚は魚に在らず。

なので魚の原型が分からぬ様に磨り潰し、ペースト状にする。


繋ぎに卵白を混ぜ、食べやすい様に一口サイズに丸めて、蒸す。






料理長が一人奮闘している傍ら、イチはアレスのカニカマ失敗作の残骸処理をしていた。


これが高級蟹とは………勿体ない。


もはや食事ではなく、蟹で顎を鍛える訓練だ。


「嬢ちゃんと蟹繋がりはどうにか理解したけど、そもそも問題はシュークだったよ。どうすんの?」


マデリーン(自称)のおかげでシュークの精霊や素性、父親まで分かった。

父親が存命なら親元に返し、育てて貰うのが普通である。


「どうもしないよ。シュークはリンのペットだし」

「人間だからっ!じゃなくてっ!!父親に知らせないとだな………」


「ランスロット侯爵に知らせたところで認知するわけないでしょ。醜聞を公表するはずないよ。それに、利用されても困るしね」


愛人、しかも庶民に生ませた子など社交界で醜聞にしかならない。

しかもシュークは精霊術師だ。

悪用されては困る。


「モノの判断が出来るまで育ててから、シュークがどうするか決めればいいよ。精霊術師として王宮で勤めようが、侯爵の地位を狙うもシュークの自由だよ」

「そうだけど、やっぱり親と住むほうのがさ………」


「イチはランスロット侯爵家を知らないでしょ?ランスロット侯爵家といえば悪い意味で子沢山として有名だよ」


ランスロット侯爵家。


元はただの庶民。

成り上がりの貴族。


子を女に生ませ、子を洗脳し、他家に送られる駒。


愛人の子であろうと子爵、男爵くらいなら嫁や婿にする事が出来るし、先の見込みがある商人や騎士などの人材へ送り込むにはうってつけであった。


子を教育と名の洗脳を行い、他家を支配する。


そうやって今の地位まで上り詰めたのがランスロット侯爵家。



次に狙うは王族。


愛人の子は必要ない。


今ある地位に相応しい貴族だけを求めるハイエナ。


「浮気は古来血筋の悪癖だね。ランスロット侯爵家は寄生虫だから。シュークが精霊術師と知れば引き取るし、俺とも繋がりは出来るから醜聞なんか構わず、喜んでシュークを洗脳するだろうね。まぁ、母親の二の舞になるのがオチだろうけど」


「…………罪にならないのか?」

「ならないね」


犯罪ではない。

薬で洗脳するのではなく、偽りの愛情で洗脳する。


愛人も醜聞にはなるが罪ではない。

陛下に側室はいないが、他国の王には正妻、側室もいる。王太子には後宮まであるのだ。

意味合いは違うが、罪になるはずがない。


「イチは潰したいの?」

「そんな家が貴族であってたまるかよ!!」


「そう、なら潰せば?アイリスなら可能だよ」


民を護る騎士であるアイリスの称号を持つ者なら。

シュークの母親は国民。

護るべき民。

そしてシュークも今はまだ貴族ではなく、護るべき民。


「………………」


外だけでなく、内の敵でさえ、民を護る為なら力を行使出来る。

それがアイリスの称号。


(もし、民に害があるなら…………僕は……)









「出来ましたっ!」


料理長の渾身の出来。

カニカマ擬きが完成した。


「それより、まずはカニカマだね。早く食べなよ」


「僕のシリアスシーンをカニカマでぶっ壊さないでっ!」


出来立てホヤホヤのカニカマを前にイチの葛藤は強制的に霧散された。

しかもアレスがこりずにカニカマ擬きを乾燥させようとする為、料理長と二人で阻止するのに思考は奪われ、イチの中ではすでにシューク<カニカマ乾燥阻止に天秤が傾いてしまった。


高級蟹3匹、シュークの今後、イチの葛藤を犠牲にカニカマ擬きが誕生した。




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