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子育ては大変7

リンは苛々していた。


目の前にはアレスと見知らぬ女がいちゃついていた。


今日はシュークの素性調査の為、アレストファ公爵家に王宮の精霊術師がやって来ていた。

精霊術師のマデリーンは絶世の美女であった。


マデリーンはアレストファ公爵家に来てそうそう、挨拶もなしにアレスに抱きつき、今現在も同じソファーに隣同士で腰掛けていた。


「公爵様は相変わらず麗しいですわ」

「触らないでよ」


ベタベタと触れてくるマデリーンの手をはたき落とす。


「いやん、そんな冷たいところもス、テ、キ」


それでも懲りずに、うっとりと頬を赤く染めてアレスの腕に抱きついた。


「…………なんで君が来てるの?」

「そんなの会いたかったからではありませんか。他の奴になんか譲りませんわ」


精霊術師マデリーンは王宮の精霊術師達を纏める精霊術師長であった。

マデリーンは部下に王宮を任せ、アレストファ公爵家に来ていた。


普通は逆である。


勿論、部下からの反論はあった。


その反論も長が王宮を離れ行くべきではない、と言う正論ではなく一人だけ狡い、自分も行きたい、闇の精霊が見たい、つーかアレストファ公爵家に住みたい等と、とてつもなく感情優先の反論であったが、そこは部下を束ねる長、実力行使で反論を捩じ伏せた。


おかげで王宮の精霊術師の部署が破壊、負傷者続出した為に王宮の精霊術師の部署は機能停止、マデリーンと軽傷者のみで仕事をやる破目になり、マデリーンがアレストファ公爵家にやっとこ来れたのは要請から1ヶ月後であった。


「相変わらず精霊術師は煩わしいね」


だから一人だけ貸せと陛下に要請したが、まさか一番煩いマデリーンが来るとは…………


「だって興奮するのは仕方がありませんわ。ここは精霊の宝庫なんですもの。見渡す限りに精霊達が居りますのよ。種別問わず色々な精霊達が居る場所はここくらいですわ」


シューク以外のアレストファ公爵家の住人には見えないが、精霊術師であるマデリーンには精霊の姿がくっきりと見えていた。


料理長には火の精霊、庭師には緑の精霊、医者には雷の精霊、執事には風の精霊、マァムには氷の精霊、そしてアレスには闇の精霊が見守る様に傍らに居た。


全てが高位精霊。


それだけでなく至るところ精霊が棲んでいた。


まさに精霊術師にとってはここは天国。


これだけの様々な精霊が棲む場所はここしかない。


「それにしてもまた増えましたわね。その子が例の赤ん坊ですわね…………まさかこの目で光の精霊が見れるとは…………」


マデリーンがリンに抱かれたシュークを恍惚と見る。

その瞳にはリンやシュークではなくシュークの傍に居る光の精霊を見ていた。


「光の精霊?火の精霊ではなく?」


「ええ、光と闇が四大精霊の生みの親ですもの。四大精霊の力も遣えるのは当然ですわ」


それからマデリーンは光の精霊と話した。


生憎、精霊を見えない者はマデリーンが一人で話している姿しか見えない。


話が終わり、マデリーンがアレスにシュークの素性を話始めた。


シュークの母は結婚していた。ただ母親は浮気をしていた。妊娠に気付かず気付いた時には、腹の中の赤子が育ち過ぎておろせなかった。父親はどちらの子だか母親には分からなかった。


だが産まれればどちらの子だか分かる。


母親も結婚相手も髪も瞳も茶色であった。


母親は結婚相手に妊娠報告し、実家で産むと告げた。


もし産まれた子が結婚相手の子なら育て、浮気相手の子なら孤児院へ。その時は結婚相手に死産したと伝えるつもりでいた。


子は無事に産まれた。

茶髪の赤子。


母親は結婚相手に報告した。


結婚相手はすぐに駆け付け母親を労り、産まれたばかりの我が子を大事に抱いた。


何事もなく幸せな家庭が築ける。

そう思った。


………………赤子が瞼を開けるまでは……


赤子の瞳は茶色ではなく紫色であった。


浮気相手の瞳の色。


赤子は浮気相手の子供であった。


「ここからは分かるわよね?」


二人は離婚。


浮気相手とも妊娠が発覚したと同時に音沙汰なく途絶えた。


しかも赤子は異質であった。


孤児院に預けるには母親の実家はそれなりに豊かで経済状況から見て預かってくれなかった。


なら捨てようと実家から遠く離れた森へやって来たわけである。


「現状を見ればね。で、父親は誰だい?」


「ランスロット侯爵」


「………そう」


まさかシュークが光の精霊術師であのランスロット侯爵の子ね。


思案するアレスに未だ抱きついたままのマデリーン。

そう、リンはそんな二人に苛々していた。


「…………きです」


「「???」」


「浮気なのです!」


リンはアレスとマデリーンを睨み付けた。


「浮気じゃないよ」

「浮気です!さっき撫でてました!」


「払いはしたけど撫でてないよ」

「撫でてました!」


私は見たのです。現に今も旦那様の隣に居ます。

私が居るのにあんな女なんかに!


「はぁマデリーンなら大丈夫だよ」


「大丈夫じゃないのです!そこは私の場所なのです!なんですか!?シュークを口実に旦那様を誘惑する気ですか!旦那様も旦那様です!そんなにその女がいいのですか!?」


「誤解だよ。この人、男だよ」


「マデリーン様の本当の、お名前はガイド様です」


「いやん、マデリーンって呼んでちょうだい。体は男でも心は乙女なのよ」


「通りで女にしては骨格が太いと………」

「イッちゃん良く分かったね。さすがデザイナー」

「俺も骨格ぐらい分かるぞ」

「貴方は医者だから当たり前です」

「私は王宮の料理長もしていたので知ってますが、お嬢様は知りませんでしたね」


「お嬢様。マデリーン様は正真正銘の殿方ですわ。それにマデリーン様は精霊中毒ですので人間には興味はありませんし安全です」


絶世の美女は女装趣味のオカマであった。


しかも精霊大好きっ子。


現実の人間に興味の欠片もない程に精霊をこよなく愛する変態。


マデリーンはアレスにベタベタするのは闇の精霊が居るからであり、アレスは闇の精霊の付属品。むしろアレスが邪魔であった。


本命は闇の精霊+光の精霊+α


「そんなの匂いで分かるのですよ!私が言ってるのはソレですっ!」


リンが指差すそこにはマデリーンではなく、マデリーンの膝に乗った愛犬(小型犬・雌)であった。


アレスとマデリーンが話している間に、犬はアレスの手をペロペロ嘗めたり、前足をアレスの膝に乗せたりしていた。アレスもマデリーンの手は払ったが犬には追い払うどころか、頭や耳を撫でながら会話をしていたのである。


リンはマデリーンではなく犬に嫉妬していた。


「人間と猫なら浮気も許します。旦那様は強いから仕方がありません。でも、犬は駄目なのです!さっきから尻尾を振ってご機嫌気取りですか?これだから雌犬は嫌なのです。シェリーを見習うのですよ!」


「「「「「「……………………」」」」」」


「………リン、シェリーは魔獣だから」

「兄さん、突っ込みどころが違うからっ」


イチがアレスに突っ込みを入れるも勿論スルー。


アレスはソファーから立ち上がるとリンに手を伸ばし宥めようとしたが、その手は避けられた。


これにはアレスも瞠目する。


いつもなら喉がゴロゴロと聞こえるのではないかと思うくらい機嫌が良くなる程、撫でられる事が好きなリンがアレスの手を初めて拒絶した。


「私にその女を触った手で触るなですよ!犬臭いのです!不潔です!」


「手を洗えばいいんでしょ?」


魔力で水を出して洗浄するも、リンはさらに嫌がる。


「そう言う問題ではないのです!浮気なのですよ!?もう、旦那様なんか知りません。その女と子作りでもしてればいいのです!」


リンはシュークを抱えたまま、部屋から出ようと扉に向かった。


「じょ、嬢ちゃん?」

「お嬢?」

「どちらに………」


「実家に帰ります!」


バタンッ!


扉が荒々しく閉められた。


「…………実家って何処?」


イチがポツリと呟く。


部屋は静寂に包まれたのであった。




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