子育ては大変2(アレスside)
アレスは書類部屋にてリンが何かを拾って帰って来たとマァムから報告されていた。
「リュックが動いていましたので、生き物だと思うのですが………」
猫や犬なら仕方がないが、あの森には魔物しかいないはず。
生存競争に動物、ましてリュックに入れられる大きさしかない小動物が魔物に勝てる訳がない。
考えられる生き物は一つしかなかった。
「…………魔物」
「生きてる魔物ですわよね………」
もはや溜め息しか出ない。
自分の所へ顔も出さずに、自室への入室禁止。
「…………飼うつもりかな」
「遊ぶ玩具では?」
「玩具なら隠さずに見せるよ」
楽しい玩具なら土産として差し出す。
だが土産は聖花のみ。
コンコンコン
ドアをノックされ、入室を許可すると使用人全員が中へと入って来た。
「あー今、大丈夫か?」
医者が部屋の何やら重い空気を感じ取り、アレスに話し掛けた。
「何?」
「いやさっ、お嬢の事なんだが………」
どうやらリンは使用人達に会いに行ったらしい。
医者には'大きくなる薬'
何処を大きくするのかにもよるが、そんな薬は医者は持っていない。
リンは薬は諦め、注射器を所望した。
「危なねぇから針なしの注射器を渡したが、医者ごっこでもするのか?」
「僕の所には木箱と土を持って行ったから園芸じゃないの?」
医者の後に庭師が続ける。
「アンタ等とこにも来たのか?僕の所からは布を持って行ったぜ。女らしく裁縫するんだと思ったんだけど…………な訳ないよな………うん……」
イチの所にも………
「いや、分かりませんよ。私の所では料理について聞きに来ましたし………ああ、ミルクとシュークリームを欲しがっていたのであげましたね。まだ作るより、食べる方みたいですが料理に興味を持たれた様でしたよ」
「おや、私の方には珍しく装飾品がないか聞きに来ましたので、以前からお嬢様にお似合いになると思い、用意して置いた腕輪を持って行かれましたが……」
「…………」
可笑しい。
リンは病院が嫌いだ。
特に注射はかなり嫌がっていた。
しかも、あの子がガーデニングやら裁縫、料理、装飾品に興味を示すはずがない。
ただの少女なら不思議ではないが、あのリンがだ。
「…………リンの部屋に行くよ」
使用人達もリンの有り得ない行動を訝しげに思い相談したのだろう。
リンに女らしさなど皆無である。
アレスは書類作業を一時止め、椅子から立ち上がるとリンの部屋に向かった。
その後をぞろぞろとついて来る使用人達。
「いいですか、ここがトイレですよ。と、い、れ」
部屋からはリンの声がする。
いつもなら気配や匂いで気付くはずが、夢中に排泄場所を教えている為か此方に気付く気配はない。
やっぱり何か飼っている様だね。
元猫のくせに何故飼おうと思うかな………
そういえば、前も似た様な事があったね。
あの時は罪人を森で飼うつもりだった。
あんなのは要らないよ。
今回も捨てる様かな。
魔物なら森で飼ってもいいけど………
アレスはノックなしに扉を開けた。
アレスに扉の鍵など関係ない。
アレス自身が鍵なのだ。
アレストファ公爵家の扉はアレスの魔力に反応し、鍵が掛けてあっても、アレスがドアに触れば勝手に解錠される仕組みになっていた。
扉を開けたその先には…………
赤ん坊を土の入った木箱に入れて、トイレだと指導するリンの姿であった。
………………魔物じゃなかったね………
リン…………赤ん坊の排泄の仕方は猫と違うよ………
リンに子供が出来たら絶対に面倒は見させない方が無難だと、アレスは将来を愁いた。




