夏祭り4
服対決の結果は見ればあきらかであったが、一応判定する。
「では観客の皆様に判定をお願いします!ハリス男爵様の服が良かった方は拍手をどうぞっ!!」
パチパチパチパチ………
まばらだが拍手をする者は居た。
拍手をする者を見れば分かる。
全員ハリス男爵の関係者である。
「有り難う御座います。ではイチさんの服が良かった方は拍手をっ!」
パチパチパチパチ!!!!
「良かったぞー!」
「ヒューッ!!」
「いいぞっ!」
「兄ちゃん頑張ったなっ!」
盛大な拍手だ。
会場中の観客が立ち上がり拍手を贈る。
中には声援を贈る言葉まで聞こえた。
「勝ちなのです!」
これで喉を潰せます。
キンピカはプルプル震えています。
「なっ!?どうせヤラセだろっ!いくらだっ!?お前が金で観客を買収したのだろう!!卑怯なっ!!」
キンピカがイッちゃんを指差して喚きます。
「煩いのです!キンピカは負けたのですよ。大人しく潰させるのです」
「僕に観客を買収する時間も金もないっ!言い掛かりをつけんなよ」
「見苦しいね」
「いいやっ!何か小細工をしたのだっ!!私の服がお前なんかに負けるわけがっ!!」
負けを認めないのです。
認めなくても負けは変わりません。
馬鹿なのです。
「貴方の負けです。ハリス男爵殿」
舞台におじさんが来ました。
「ハンソン………」
「勝敗はあきらかですよ。確か………負けた者は店を閉めるのでしたね?」
「あっ、あれは無効だっ!こんな卑劣な催し程度で………」
「では管理人として通告します。この領から速やかに退去しなさい」
「私は男爵であるぞっ!庶民ごときが私に命ずるなっ!」
ハンソンは懐から手紙を出し、ハリス男爵に差し出した。
「なんだ、これはっ?」
「国王陛下の護衛騎士カリフ伯爵様よりハリス男爵殿に苦情の鷹文が今朝がた届きました」
「カリフ伯爵だとっ!?」
手紙をハンソンから奪い取り読む。
我が長子、イチ=アイリス=カリフがハリス男爵による侮辱、妨害行為受けたとの報告があった。
ハリス男爵家にアイリスの称号を持つ息子を貶められるいわれない。
我が伯爵家に仇なす者とする。
「!!!!」
「えっ、親父から手紙っ!僕、勘当されたのにっ!?」
「勘当ですか?失礼ですがイチ=アイリス=カリフ様でお間違いはございませんよね?」
「イッちゃんはアイリスちゃんなのです?」
「呼ばないでっ!そんな女みたいなミドルネーム嫌だっ!!」
「アイリスは称号だよ」
「「称号?」」
リンと当の本人であるイチが首を傾げる。
カリフ伯爵家は王家の騎士。
王家の者を護る。
王家は国を守る。
なら民は………?
カリフ伯爵家の者は一番の強者にアイリスの称号を与える。
強者に民を護らせる為に……
民あっての国。
国あっての王。
民を知り、民を護り、自由に動ける、強き者。
戦になれば民を護る為に敵を始末する。
それゆえにイチは長男であっても跡継ぎ、王家の騎士にはなれない。
それがアイリスの称号。
「称号持ちは家長と同等の権力があるよ」
「何それっ!?僕、知らないっ!」
「イッちゃんはお家で一番強かったのですか?」
「いや、弟達のが強いだろ。僕は何度も殺されかけた………思い出したくもない。小さい頃は可愛かったのにな………」
イチは知らない。
弟達がブラコンなのを………
父母が親バカであることも………
イチは知らなかった。
弟達はイチが出ていくのが嫌で称号を奪おうと攻撃した。称号を奪えばイチが家督を継がなくてはいけないから………だがイチのが強かった。
イチには天武の才があった。
体術、武器の扱い、特にイチは武器で無い物をも武器に出来る
。
布、紙、枝、石等そこらにある物をだ。
不意討ちさえ避けられ丸腰でも、その辺にある物を何でも使う為、攻撃が詠めない。
弟達はそれぞれ腕には自信があったが完敗であった。
父親はイチのデザイナー発言に勘当したわけではない。ただ親父らしく勘当だっ!と、言う台詞を言ってみたかっただけである。
本当に家出され、泣きながらイチの行方を探していた。
母親もイチが可愛くて、可愛くて仕方がなく、称号剥奪を目論見、イチに武芸より裁縫をやらせたが弱くなるどころか強くなり、裁縫も職人技になってしまった。
カリフ伯爵家は、愛情表現がとても不器用であった。
「そっ、そんなカリフ伯爵家子息など………」
ハリス男爵は青ざめ茫然とするしかなかった。
男爵より伯爵のが爵位は上である。
成り上がりのハリス男爵と武家名門伯爵家。
格が違う。
その伯爵家を敵にした。
爵位を剥奪されたも同然だった。
「…………これ、返すよ」
アレスは茫然とするハリス男爵の両頬の上歯と下歯の間を、片手の親指と人差し指でおし、無理矢理、口を開かせると円形の何かを入れ、顎を上に叩き飲み込ませた。
ゴックン
「ゴホッ!ゴホッゴホッ!なっ、何を……」
「ゴミは自分で捨てなよ」
円形の粒が包装されていた物を渡す。
それは飴玉の包装紙。
ハリス男爵が娼婦に使った媚薬の包み紙であった。
「なっ!?…………ああっ!はぁはぁはぁはぁ」
顔を赤くし、荒い息を吐き、股間を押さえながら踞る。
「兄さんまさか、さっきのって…………」
「飴だけど。何、悶えてるの?変態」
「ああっ」
旦那様がキンピカを蹴りました。
キンピカは嬉しそうです。
「キンピカ、気持ち悪いのです」
「蹴られて喜ぶのが趣味かい?変態」
「痛いのが好きなのです?」
私も蹴ってあげます。
ゲシッ!ピキッ……
「はぁぁん!」
骨が折れたみたいなのです。
でもキンピカは変な声をあげます。
ゾワゾワするのです!
「気持ち悪いです!気持ち悪いのです!!」
ゲシッゲシッゲシッ
「あっ、あっ、ああっ!」
ピキッピキッボキッ
「嫌です!なんですか!?」
「嬢ちゃん!折れてるっ!骨が折れてるからっ!!」
「だって気持ち悪いのですよ!」
「それっ、兄さんのせいだからっ!どうするの!?」
観客、司会者、ハンソンの前で美少女に足蹴にされて、骨折したにもかかわらず快感の声をあげるハリス男爵。
会場中がドン引きだ。
「ただの飴だよ」
「嘘つくなっ!媚薬だろうがっ!!」
「あの媚薬ですか!?何をなさっているのですかっ、貴方様は!?」
「はぁはぁはぁ、ああっ!」
「声を出すなですっ!」
リンは堪えきれず、ハリス男爵の首を持ち上げ、喉を潰すと同時に蹴り上げた。
「はぁんっ!!!!!!!」
「げっ!!」
「うわっ!!」
「ひっー!!!」
アレス以外のイチを始めとした、男達が悲痛な叫び声をあげた。中には目を瞑る者も居る。
リンはハリス男爵の股間を蹴り上げたのだ。
喉を潰されたハリス男爵はそれでも意識を失わず、もはや快感が体を支配していた。
「静かになりました。目標達成なのです」
一仕事を終えた親父のように額の、かいてもいない汗を拭く仕草をするリン。
「急所一発だね」
「キンピカだけ飴、狡いのです。私にも下さいです!」
「はい、御苦労様」
飴を口に入れてくれました。
イチゴ味なのです。
「何あげてるの!?ペッしなさい!ペッ!!」
イッちゃんが飴を取り出そうとしますが、出さないのです。
カラコロカラコロッ
「舐めるな!出すんだよっ!!」
「りりゃしぇしゅ!」
嫌です!
「何言ってるか分かんねぇっ!!出さないと変態になるぞっ」
悶えたまま踞る、ハリス男爵を指差すイチ。
「ならないよ。ただの飴って言ったでしょ?」
「嬢ちゃんのは普通の飴なのか?」
「どちらもただの飴だよ」
「ならアレはなんだっ!?それにあの包み紙は媚薬のだったぞっ!」
「だから変態だよ。包装紙だけ返して中身は…………貴方にあげたはずだよ」
「確かに受け取りましたが………」
受け取り主のハンソンが戸惑いながらも頷く。
「えっ、じゃあ……アイツが悶えてるのは……………」
「媚薬だと思い込んで、悶える変態だね」
「「「「「「…………………………」」」」」」
会場中が唯一会話を聞いていなかった、悶えるハリス男爵を見る。
カラコロカラ…………
リンの飴を転がす音だけが、やたらと大きく響くのであった。




