前夜祭9(アレスside)
宿に戻るとアレスはリンをベットに寝かせた。
起きる気配はない。
リンは翁ほど人間嫌いではないがその気はある。
区別はするが名前を呼ばない。
イチの事は珍しく気に入っていたようだが、リンはこの世界に来てから覚えた名前は使用人、翁、魔獣、イチだけであった。
しかもメェ以外はアレスが名前を呼ばない限り、その者を呼ばない。
興味がない。
いつもは家で昼寝をするが、それさえなかった。
宿に帰るとは言わず'行く''戻る'と表現する。
リンの帰る場所はアレストファ公爵家。
そこがリンの縄張り。
ソレ以外は落ち着けない。
宿の部屋は最初に訪れてすぐに、リンが自分の匂いをつけた為少しはマシであったが、アレスがいないと寝なかったであろう。
アレスはリンの頭を撫でると魔道具を出した。
「持てば良いけど………」
媚薬を魔力で分解する。
飴玉は包装紙を残し粒子となった。
粒子は結合分解を始め、さらに細かくなり、それそぞれの成分に纏まった。
パキンッ
魔力遮断結界の魔道具に亀裂が入る。
アレスにとっては僅かな魔力でも、魔道具には耐えきれなかった。
「やっぱり壊れたね………解毒剤構築までは無理かな」
亀裂の入った魔道具を持ち上げ思案すると、アレスは窓を開けて指笛を鳴らした。
一羽の烏が窓の縁に止まる。
普通の烏ではない。
紅眼に三本足の烏。
「これをハンソンに渡して…………それから陛下に…………」
粒子を小分けにした袋に入れて烏の脚に括りつけてから、嘴を撫で手紙を挟むと、烏はカァーと一声鳴いて飛び立って行った。




