アレストファ家へようこそ!
ここはラフィテル皇国と呼ばれ、王様が一番偉い国だと旦那様が分かりやすく説明してくださいました。
今、居る場所は王都から離れた辺境の森で、魔物が出るので戦う術を持たない者はまず、森の中には入りません。
危険なので森から出て、旦那様のお家に魔力で行くことが決定しました。
「移動するから、しっかり掴まってなよ」
「はいです」
旦那様に抱っこしてもらい、首に腕をまわします。
「締めないでね……じゃあ、行くよ」
中に取り込まれ魔力の欠片が旦那様の魔力に反応したのか、ほんわかと体が温かくなったのと同時に、そこは森ではなく家の中で人間達が呆然としていました。
「湯とこの子の服、用意して。あと食事も」
「……ッ!アレス様が抱っこしているだと!?」
「幼女誘拐!?しかも美少女!!」
「メインの料理をお変えしなければ!?祝い事はやはり肉か!?……ああ、ケーキも作らねば!!」
「明日は雨……いや、魔物が押し寄せて来るかもしれん!すぐ、城に連絡を!!」
お湯よりミルクが飲みたいです。
服は着ているのでいりませんよ。旦那様。
御飯は猫缶かカニカマがいいです。
ケーキは食べます。
雨は嫌いなのです。
魔物とは何ですか?
それより、旦那様はアレス様ではないのです。名前が違います。
旦那様の名前は特別なので呼んではいけないと言っていました。
「旦那様はアレス様ではないのにアレス様なのですか?」
「「「「だっ旦那様!?」」」」
「いつの間にご婚約を!?」
「幼女趣味でしたか……」
「結婚式用の料理の準備を!食材の手配に、食器は足りるか!?招待客の人数はいかほどか確認を!?」
「すぐ結婚式の準備を!!商人を呼べ!お針こに宝石商、それに…!!王宮に手配を!!」
旦那様のお家はうるさいのです。
慌ただしく何やら訳の分からない事を言っています。
「君達、騒がしいよ………アレスはアレストファ公爵家の名前だから間違ってはないよ。名前を知らないのは不便だから家名の略称で呼ばれる事が多いね。ついでに騒がしいのは邸に遣える使用人ね…………はぁ、君達だと話しにならないよ。マァムはいないのかい?」
マァムとは誰ですか?
また、うるさくする人は嫌なのですよ。
「……出迎えが遅くなり申し訳ありません。お帰りなさいませ、アレス様」
母と同じくらい(年配)の女の人が、うるさい人間達を押し退けて現れました。
「初めましてお嬢様。私は使用人のマァムと申します」
似ていないのに、何かが母に似ています。
マァムはうるさくないし、母みたいで安心します。
「只今、お茶をお持ちしますので、少々お待ちください」
「茶の前に湯を頼むよ。この子は俺が入れるから手伝いはいらないよ」
「畏まりました。お召し物は何時もの場所に用意させて頂きます。入浴後はお茶か御食事どちらになさいますか?」
「食事で」
「お嬢様は何か苦手なものはおありで?」
「ガラガラは嫌です」
「ガラガラですか?アレス様ガラガラとは?」
「………………柔らかい魚をメインに菓子でも用意して、あとは適当でいいから」
(キャットフードはこの世界にないからね。原料は分かっていても製造法が分からないから説明できるわけないよ。缶詰めは好きみたいだから、柔らかければ魚なら食べるか…)
食事方面に意識がいっているアレス。
湯が風呂だと知って今にも逃げ出したいリン。
すでに服と食事の準備に追われ、この場にいないマァム。
アレスの入浴発言に固まる、この場に残された使用人達。
アレストファ家はかつてないほど、混沌としていた。