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前夜祭3

お腹がいっぱいなのです。

おばちゃんのスープは美味しいのです。


でも全部食べられずに、売り切れました。

旦那様に譲るよう言われたので、仕方なく譲ってあげたのですよ。


な、の、に、全部が無くなっちゃったのですよ!


おばちゃんには何故かお礼を言われましたが、私は少ししかあげないつもりが…………


「…………私のスープが!!」


「どうせそれ以上食べれないのだから、いいでしょ?」

「そういう問題ではないのですよ!?」


イライラするのです。


でもスープはもう無いのです。

朝までお預けです。


「………………ちょっと、遊んで来ます」


チラリと後を見ます。

3人組の男が宿からずっと、つけているのです。


「もう少し泳がせたら?」

「食後の運動は大事なのです」


私は今、遊びたいのです。


「………………少しだけだよ?」

「はいです!」


旦那様と人気のない場所に行きます。

町は広場を中心に騒がしいのです。

そこから離れれば人間はいません。

人間は祭りに夢中なので、態々こんな所まで来ないのです。


民家が並ぶ路地。


普段は誰かしら家に居るが、今日は前夜祭だ。

住民は居ない。


アレスとリンは路地を進むと、其処は洗濯場らしく井戸を中心に円形に広がっていた。


洗濯物が風で揺れ、石鹸の香りがする。

井戸には洗濯板に大きなタライ。


「今日は天気が良いので、ふかふかになるのです」


「汚さないでね?」

「私は汚しません!」


こんなに洗濯物があるのです。

汚したら洗うのが大変です。

勿論、服も汚さないのです。


「……………へっへっへ、態々人気のない場所に行ってくれて、ありがとよ」

「こんなトコロで何をするんだい、兄ちゃんよ?昼から盛んだね」

「俺等もまぜてくんねぇか?嬢ちゃんにはちと、辛いかもしんねぇけどな」


下品な男達がアレスとリンが逃げられないように、道に立ち塞がる。


「……………こんなのと遊ぶの?」


アレスが心底、嫌そうに眉間にシワを寄せる。


「……………やっぱり、やめます」


リンも考え直した様だ。


「汚いので触りたくないのです」

「洗えば?洗濯場みたいだし」


「服もですが、顔が汚いのですよ」

「顔は仕方ないよ。顔は」


美醜に拘らないリンも男達の顔は受け付けなかった。


まばらにチクチク黒髭が伸び放題の男に、手入れはしているが毛根が太い青髭男、最後に揉み上げと髭が繋がった男。


旦那様に髭はないのです。

ツルピカなのです。


使用人達はありますが綺麗なのです。


汚い髭は嫌なのです!


生理的に受け付けないリン。


そこに嫌悪はあっても闘争心はなかった。


「何をごちゃごちゃ言ってる?」


近付いて来る男達から逃げるように、リンはアレスに張り付いた。


「嫌です!来ないで下さい!!」


男達に恐がる、か弱い美少女。


ではなく、ただ汚い髭が嫌なだけだ。


「君ねぇ……………」


アレスは呆れながらもリンを背に庇い、懐から少し大きめの針を三本取り出した。


ナイフでも出すのかと警戒していた男達は、なんの殺傷力もないただの針に笑った。


「なんだ?裁縫が趣味の女男か」

「女を置いて逃げれば良かったのにな?」


「それで、繕い物でもするつもり……………へぇっ?」


男の眉間に針が刺さっていた。


男は何がおきたのか理解出来ず、ただ体から力が抜けたように後へ倒れた。


アレスの手に針は2本。


「ちっ!毒か!?」


アレスに殴り掛かろうと前に拳を出したが、その二の腕にもいつの間にか針が突き刺さり、前に倒れた。


針を抜くことも出来ず、力が抜ける。


立つことさえ出来ない。


即効性の毒でも、ここまですぐには効かない。針を抜く事くらいは出来る。


「毒なわけないよ」


最後の一本は唯一茫然と立つ、男の太股に投げ刺した。


男は膝から崩れ落ち倒れた。


「なんで動かないのです?」

「ツボを刺したからね」


「ツボです?」

「………ここだよ」


リンの手を掴み、薬指と中指の付け根の間を軽く指で押す。


「???気持ちいのですよ?」

「そこはね」


魔導師は己の魔力をコントールする。


魔力は血の流れまたは気の流れのように、体の中をまわる。


己の魔力を強弱調節することが可能なアレスは、他者の気の巡りも調節可能だ。


気の弱い場所を針で刺して遮断すれば力は抜ける。逆に流れを良くすれば、リンのように気持ちが良くなる。


「どうする、コレ?」

「…………洗濯してみます。髭が落ちるかもです」


アレスは倒れた髭3人組の手足を洗濯物を干す紐で縛り、リンはタライに井戸水を入れて、置かれていた洗濯板と石鹸を準備する。


縛った髭3人組から針を抜き、干されていた手袋をリンに渡した。


「これなら素手で触らないよ」

「ありがとなのです!」


手袋を装着したリンがまずは、まばら髭男の髪を掴みタライまで引き摺る。


他二人は青ざめて、その様子を見守るしかない。


まばら髭男をタライの水に顔を押し付けてから、石鹸をつける。


そして…………………


「ぎゃあああぁぁぁぁ…………!!!!」


絶叫。


ゴリッゴリッゴリッ


バシャッ


リンは洗濯板で、まばら髭男の顔を洗った。


タライの水は瞬く間に赤くなる。


痛みに悲鳴をあげるも、すぐ水に顔を浸けられ、悲鳴は途切れた。


「落ちないのです」


リンに髭の剃り方など分かるはずがない。

髭が生えていないのだ。


汚い髭=汚れ。

汚れは洗えば落ちる。


しかも、洗濯も見よう見まねだ。

タライの水を交換するどころか、まばら髭男をタライに浸したまま、再び水を足す。


まばら髭男に意識はない。

リンの仕出かした事に堪えきれず、気絶していた。


気絶していても、洗濯は繰り返し続けられた。


次は自分の番だと怯える髭二人組。


「誰に頼まれたの?言わないと、ああなるよ」


アレスが指差す方向には、悪戦苦闘しながらも一生懸命に洗濯するリンの姿があった。


微笑ましい光景だ。


洗濯物はアレだが…………


「ハリス男爵に頼まれたんだ!!」

「アンタ等が旦那の店で買わないで他の店で服を買ったから!だから、その、痛め付けやれと言われたんだよ………」


「………イチも?」


「イチ?ああ、あの男のデザイナーか?」

「そいつの店には違う奴が行ってるよ」


「……………リン、イチの店に行くよ」


「まだ、夕方ではないのですよ?」


服はまだ出来てないのです。

洗濯も終わってません。


「コレの仲間が店に行ったみたいだからね」

「まだ汚いのが居るのですか!?」


私の服が汚されるのです!


「すぐに行くのです!」


洗濯はやめです。


「……次はないから」


見逃すのは………


アレスが髭二人組に宣告する。


髭二人組は頷き決心する。


街から逃げる。ここに居ると、死ぬより辛い目に合う。ああは、なりたくない。


チラリと洗濯物を見る。


赤い、紅い、朱い、緋い、アカイ…………


水も洗濯板も仲間も………


……………洗濯がトラウマになった。


アレスはそんな髭男達を放置して街に戻り、アレスの後に続くリンは、イチの店にも汚い髭男が居ると思い、赤くなった手袋をそのまま装着した状態で向かうのであった。




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