魔獣召喚師はお爺ちゃん2
リンはボールを抱え持ち邸内を走り回っていた。
マルクスの叫び声がリンの後を追うが、姿は捉えれずにいた。
状況さえ知らなければ、ただの祖父と孫の微笑ましい追い掛けっこをしている光景だ。
ボールがドラゴンの卵で、マルクスの悲痛な叫び声がなければだが……。
こうなったのには、時間を遡ること数十分前………………
「御願いじゃ!!返してくれっ!!」
「嫌なのです!」
「儂の大切な孫なんじゃ!!」
「私のボールなのですよ!」
お客様が突然、私に話かけてきました。
一緒に遊びたいのだと思いましたが、違いました。
私のボールが欲しいそうです。
きっと私のボールが羨ましくなったのです。
私のです。私が貰ったボールなのです。お客様にはあげません。
お客様にはお茶もお菓子もあげました。
私のボールまで欲しがるのは我儘です。
「我儘は駄目なのです。悪い子です!」
お客様を指差し断言します。
「違うのじゃ!ちぃ姫のボールは儂の子供の卵なのじゃよ。それに儂は良い子じゃ」
「卵違う、ボールなのです。卵は白くて小さいのです」
「それは鶏の卵だよ。リンのボールはドラゴンの卵だから大きいし、色も違うみたいだよ」
「………ボール、卵なのですか?」
「そうじゃ!アレスの言う通り卵なのじゃ。それでもって儂の孫なんじゃ!だからちぃ姫、返してくれんかの?」
「………………嫌です!私の卵です!」
ボールは卵でしたが私のです。
私の卵です。
お客様の手が私から卵を取り上げようとします。
ゲシッ!
「痛っ!!!」
なので卵を抱えた両手の代わりに、足でお客様の手を蹴ります。お客様なので手加減したつもりでしたが、蹴った掌は赤く腫れ上がってます。
………骨は折ってないので手加減は出来た様です。良かったのです。
痛がるお客様を置いて、応接室から抜け出しました。
ちなみに旦那様はずっとソファーに座ってお茶を飲んでいました。
で冒頭に戻る………………
しつこいお客様なのです。
あの場所を目指しながら卵を抱えて走ります。
卵が大きくて走りづらいです。
立ち止まり考えます。
「……………はっ!思い付きました!」
卵を床に置いて蹴ります。
これなら楽です!
時々壁に卵をぶつけながらも蹴り進みます。
「………到着で~す」
目的地のドアを開けてから、卵を拾い上げまた両手で抱えます。
そこは台所…………
フライパンをコンロの上に置き、コンロの横の台に卵を置きます。
ガンガンガンッ
両手で卵を台に叩き付けるリン。
料理などやったことのないリンが唯一出来そうな卵料理。
「め、だ、ま、焼き~♪」
これだけ大きい卵です。
きっと大きな目玉焼きが出来ます。
ガンガンガンッ
ガンガンガンッ
「……………割れないのです」
ガツン、ガツン、ガツン!
フライパンで叩き出すリン。
それでも割れない卵。
「何をやっとるんじゃーーー!!!???」
音を聞き付けてやって来たマルクス。
フライパンを持ち上げたまま今にも降り下ろそうとしているリン。
「何してるの?リン」
「目玉焼きを作ります!」
マルクスの後からアレスもゆっくりとした足取りで台所に入って来た。
「「…………………目玉焼き?」」
「目玉焼きです」
「…………………………」
「ドラゴンの卵だし一応、完熟にしてね」
火はきちんと通して焼いてよ。
「お任せ下さいです」
初めての恋人の手料理はドラゴンの目玉焼き。
ガツン!ガンッ!ガンガン!
料理中の音ではなく、まるで工事中の音がまたしても台所に響き渡る。
「っっっっっ!止めてくれ~!!!儂の孫がっ!!!!」
「料理中に手を出しては駄目なのです!」
卵に触ろうとした手を容赦なく叩き落とすリン。
その時……………
パキ…………パキパキパキ…………
「…………ピッ………………キューキュー」
あれほど頑丈であった卵が割れ、小さな蒼白のドラゴンが産まれた。
「「………………………」」
「キユッ……キュー」
「目玉焼き…………」
ドラゴン孵化の奇跡の瞬間であった。




