初めての王宮7
執務室から旦那様と王様と豚の匂いがするので、ダンスホールには戻らず執務室へ行きます。
二人は仲良しなので、旦那様が王様をグルグルして遊んでいるかもです。
私が先に約束したのに王様は偉いからといって狡いのです。
仲間外れは嫌です!
私も一緒に遊びます!
執務室に行く途中、騎士に声を掛けられました。
「アレストファ公爵夫人。陛下並びにアレストファ公爵様より、執務室まで案内するよう承りました。こちらへ、どうぞ……」
私は執務室の場所くらい匂いで分かります。
急いで執務室に行かないとグルグルに、まぜてくれないかもです!
でも、走るのは駄目です。
だから我慢して、お姫様対応で騎士に執務室まで案内してもらいました。
お姫様は本当に面倒で、大変です。
コンコン
「失礼いたします。アレストファ公爵夫人をお連れ致しました」
「入れ」
「失礼いたします。どうぞ………」
騎士が扉を開けて、私が入るのを見届けてから退出しました。
旦那様と王様はテーブルを間に挟んでソファーに向かい合わせで座っています。
……………もしかして、遊び終わった後なのですか!?
それとも、まだですか!?
「王様とグルグルしたのですか!?」
旦那様に問い詰めます。
「いきなり、どうしたの?陛下になんかするわけないよ」
「………良かったです……先を越されたと思いました」
安心しました。
王様はグルグルは嫌いなのでしょうか?
「………それより、あの女は?」
「女?どの女ですか?」
「私の娘はっ!?メディアはどうした!?」
豚もいました。
豚は床に這いつくばってます。
「子豚と同じで汚いです」
ボロボロのヨレヨレです。
子豚ほどではないですが、臭いです。
「ぶっふ!ぶっ、豚………しかも、汚いかっ………普通は思っていても面と向かって言わないだろうよ。ちぃ姫は正直者だな」
「私は綺麗好きなのです。今も毛ずくろいの代わりに旦那様が毎日、お風呂に入れてくれます」
旦那様が頭がない帽子を作ってくれたので、泡はもう、痛くありません。
耳に水も入らない優れものです。
「……………一緒に入浴しているのか?えっ!?本当に!?しかも毎日かっ!!」
驚いた顔の王様が身を乗り出して、確認してきます。
何をそんなに、驚いているのでしょうか?
とりあえず、本当のことなので頷いておきます。
「………陛下、論点がずれてるよ。今はあの女の話だろ」
「いやっ、由々しき事態だ!こんな、おもしっ……不埒なこと聞き逃せぬ!」
「言い直さなくても顔が笑ってるよ。余所の家庭事情に首をつっこむな、面白がるな………話を戻すよ……」
「でもな……」
「へ、い、か………」
「わ、分かっておる!あーと、なんだ?………おおっ!そうであった!娘だ、娘!ちぃ姫、ロデオ伯爵家令嬢のメディア嬢はどうした?」
「………誰ですか?それは??」
名前なんて知らないから分からないのです。
自分の名前と旦那様とマァムと使用人達しか名前は覚えてません。
「リン曰く子豚だよ、陛下」
「子豚か……ちぃ姫、子豚はどうした?」
「子豚なら洗いました」
「「……………………洗った?」」
「子豚達は臭かったのです!だから洗ってあげました」
「………子豚'達'?」
「リン、何人いたの?」
「男5人と女3人だから………8人ですっ」
指を数えながら旦那様に教えます。
計算は合っているはずです。
5+3=8です。
指が足りて良かったです。
「どんな人達か分かるかい?」
「女二人はダンスの時、遊んだ人です」
自分から言っていたので間違いないのです。
「男は知らないですが子豚と仲良しでしたよ。でも、最後は喧嘩してました」
「俺みたいな格好してた?」
「してないです。汚かったのです」
質問は終わりですか?
グルグルしましょうよ~
「伯爵、どういうことかな?」
「夜会に招待したのは貴殿と令嬢のみだったはずだが?」
「………………」
「確か個人の護衛、使用人は使用人宿舎にて待機するよう通達があったはずだけど」
「メディア嬢と仲の良い、貴族以外の男性に心当たりは?父親なのだから娘の交遊関係くらい把握済みであろう」
「………………」
「もしかして、君の家の者かい?」
「………………」
「黙秘は許さない、沈黙は肯定ととるよ」
「ッ!……そのような者、知りません!何かの間違いでしょう……娘はっ、メディアは関係ありません!その娘の見間違いです!!」
私、嘘つき、違う
豚、嘘つき、臭い
豚嫌いです。
子豚も嫌いです。
豚のせいで旦那様がグルグルしてくれません。
「……………そう……子豚は何処にいるの?リン」
「あっちの池」
指で窓から見える庭をさします。
「「……………池?」」
「池です」
「「……………………」」
「臭いから洗ってあげたのです。男は魚を捕まえるのに入ってもらいました」
「なぁっ!!すぐに南の庭園の池を捜索しろ!?ちぃ姫、何やらかしたんだ!?池の魚をどうする気だ!?」
王様が慌てて騎士に捜索を命じます。
王様、怒鳴らないで下さい。
遊んだだけなのに、なんで怒るのですか?
遊びに誘われたから遊んだのです。
「魚は食べるのです。それに、旦那様が遊んでいいって言ってました」
「アレス!」
「…………言ったね…………まぁ、俺の婚約者だから諦めてよ。リン、池の魚は食べないでよ」
「駄目ですか?」
「池の魚は生臭いから美味しくないよ」
「不味いですか………残念です」
「…………お前達こそ話がずれているぞ」