初めての王宮2
お城は大きかったです。
人も多いです。
金と銀色ばかりで、目がチカチカします。
はっきり、言います。
「お家に帰りたいです」
「今、着いたばかりでしょ……」
旦那様が
「またかい…」
と、呆れています。
お城は外から見るだけでいいです。
中はつまらないのです。
広いだけで、走れないですし探検も出来ないのなら、お城に意味などありません。
旦那様が夜会が始まる前に王様と会う約束をしているので、今は王さまの執務室に向かって歩いています。
私は別に会わなくていいと思います。
それより、お菓子が食べたいです。
夜会では食べるの禁止(持ち帰り自由)にされたので、今お菓子が食べたいのです。
「王様はお菓子だしますか?」
「茶菓子くらいださせるよ」
王様がださなくても、旦那様が用意させてくれるので安心です。
執務室の扉の前には騎士がいました。
「開けて」
旦那様を見るなりお辞儀、私を見て驚いてます。
(何故でしょうか?)
旦那様は騎士に扉を開けさせて、中に入ります。
私も続きますが騎士に止められました。
「そちらの方は?」
「その子が陛下に呼ばれた子だよ。首輪してるのだから身分証明になるでしょ」
騎士が私の首をガン見します。
「…………!!申し訳ありません!アレストファ公爵夫人であられましたか……お通り下さい」
私はリンですよ!!
でも、マァムに言われた通りに笑って、喋らず、小さく会釈。
ふぅ!!完璧です!
旦那様がジトーとっ見ています。
何故か、またしても溜め息。
可笑しいです。
褒めてくれません。
「どこか間違えましたか?」
「正しいけど、淑女の挨拶が似合わないね。君……」
普段が普段だからね。似合わないけど、様にはなってるよ。
旦那様が難しいこと言ってますが、上手く挨拶が出来た様です。
私、やれば出来る子です!
ただ、ここからが本番です。
王様に挨拶します。
淑女は王様が話し掛けるまで話し掛けてはいけません。
ドレスを軽くつまみ上げ、頭を下げたまま膝を深く曲げる。
脚がプルプルです。
王様、早く話してください!
「遠路遥々、良く来た。道中不便なく来れたであろうか?アレストファ公爵夫人」
………馬は嫌でした。
私、挨拶の仕方しか覚えてません!
何て応えればいいのですか?
正直に言っていいですか?
笑って頷くのですか!?
旦那様!!
それより、脚が限界です。
「どうされた?」
返答がないリンに訝しげに声を掛ける陛下。
馬車での事を思い出して笑いを噛み締めるアレス。
脚がプルプルのリン。
「………もう、駄目です」
体勢維持も立つことも脚が疲れて出来ず、そのまま座り込んだ。
しかも、そのままの姿勢で陛下の質問に応えずにマァム習った挨拶をした。
「お初に御目にかかります。リン=アレストファと申します。この度は夜会に招待させて戴きお礼申し上げます」
座って早口の挨拶になりましたが挨拶は挨拶です。
「………………」
「……ニコッ」
秘技!!
笑って誤魔化せです。
「ぶっ!!!」
王様は肘おきに手を叩きながら爆笑です。
何とか誤魔化せました。
「なんだ、これは!アレスお前の婚約者最高!何これ!あ~っ!!腹が痛いっ!これ以上腹筋を割らせてどうするつもりだ!?」
「そんな柔な腹なんて勝手に崩壊すればいいよ」
「ぶははははは!とんだ隠し球だな。しかも女に興味の欠片もないお前が、年端もいかぬ少女を婚約者にかっ!」
「貴方は騒がしいね。少し黙りなよ」
「騒がぬはずなかろう!私と同い年のくせに少しは年の差を考えろよ、この中年若作りが!」
旦那様と王様は仲良しです。
旦那様が座っていた私を抱えます。
「脚は?」
「まだ、プルプルします」
淑女には、まだ程遠い努力が必要です。
淑女の挨拶は苦痛ですし、失敗しました。
項垂れてたら、旦那様が背中をポンポンして慰めてくれました。
本当は頭を撫でて欲しいですが髪型が崩れるから仕方がありません。
「こちらに座るといい。今は淑女らしさはいらんよ。公の場では困るが普段のアレスもこんな感じだしな」
ソファーを薦められたので座らして貰いました。
馬車と違ってフカフカです。
「ちぃ姫は馬車はお気に召さなかったか?」
声に出していました。
ちぃ姫とは私ですか ?
小さいお姫様でちぃ姫らしいです。
小さいは余計ですが絵本のお姫様と同じなのです。
「馬は遅いです」
「到着時刻には早かったと思うが」
「この子が馬に殺気を向けて脅したからね」
「馬が悪いです。私のが速いのです」
「はははははっ、それは悪い事をした。詫びに菓子はいかがかな?」
王様が侍女を呼ぶとお茶と菓子のタルトを持って来てくれました。
タルトはお家でも食べたことがあります。
タルトはクッキーのような皿にクリームと果物が乗った菓子で美味しいのです。
さそっく食べます。
「ちぃ姫は可愛いな……おいっ、アレ……」
「あげないよ」
「……ええいっ、遮るな!まだ何も言っとらんだろう」
「どうせ、養女にでしょう?貴方には王女がいるだろ」
「娘は何人いてもいいだろ?」
「貴方はね。俺はよくない」
「なら、侍女か娘の遊び相手にだな……」
「淑女の礼も儘ならないのに侍女なんか出来るわけないだろ。それに1歳の王女に、遊びが魔物狩りの猫を与える気?」
「………ちぃ姫は魔物が倒せるのか?」
「鼠だと思ってたようだからね」
「城の鼠(間者)も狩って欲しいものだな」
王に仕える貴族は沢山いるが、信頼出来る臣下は極僅か。未だに横領、偽造、暗殺など汚職があるのが現状だ。
「害虫駆除くらい自分でやりなよ。外の畑も荒らされてたよ」
とある伯爵家が管理する領は納める税額が多いのに対し国にはその半分以下も納められていなかった。
領民は痩せ細り、子供が物を盗み、見目の良い女は伯爵家に奉公に連れて行かれ、民は苦しんでいた。
「駆除は?」
「餌がないし、巣が見つからないからね」
領民からの上申(餌)がないうえ、証拠品(巣)がなければ捕縛は出来ない。
「だけど今夜、罠にかけるつもりだよ」
「なら今夜、片付くな」
「そうだね…………リン、食べ方汚ないよ」
お話は終わりですか?
難しい話は分かりませんが、タルトは美味しいです。
タルトの果物と中のクリームだけ食べたら駄目ですか?
「生地も食べなよ」
「変な匂いがするので嫌です」
旦那様がタルトの乗った皿を取り上げます。
まだ、クリームが残ってるのです。
クリーム食べますから待って下さい!
「毒味は?」
王様に呼ばれ慌てて入室した侍女に旦那様が問いかけます。
「私がしております。遅効性の毒に配慮して1時間前とお出しする前にに毒味済みです」
侍女が青ざめていますよ。
私も2つ食べたいです。
「リン、変な匂いは何処からするの?」
食べないでね。
食べちゃ駄目ですか。
再び皿を渡されます。
タルトの下に敷いてあった白い飾り紙から変な匂いがして、それに置いてあったタルトの皿に匂いが移っています。
もったいないです。
「この紙です」
「これは、毒味した時にあったかい?」
「申し訳ありません!ありませんでした」
「出所は?」
「そちらはロデオ伯爵様より寄贈された物です」
「今日この子に出す菓子だと知って、これを薦めた者は?」
「王宮で淑女教育を受けて居られる、ロデオ伯爵令嬢のメディア様です。細工が素晴らしく、菓子の彩りをより引き立てるのようにと………」
報告を終えた侍女を下がらさせ、代わりに医師を呼ぶ。
医師が紙を分析すると毒が見付かった。
分析結果の書類をアレスは見て笑った。
「麻薬だね。餌がないわけだよ」
領民は麻薬中毒者になっていたから上申してこない。
依存性が強い麻薬は止めるのが困難だ。
麻薬は国法で大罪だ。
わざわざ殺される事を知りながら自首してくる者などいない。
「思いがけずに巣はあっさり見付かったね。夜会が楽しみだよ」
食べれない紙の何が楽しいのですか?
「王様、お菓子」
「君、まだ食べるの?」
「クリーム残ってるのに持っていかれました」
「変な匂いがしたら食べないの」
「果物とクリームだけだから平気です」
「それでもだよ。異変があったらすぐに言いなよ」
「旦那様も王様も私だけ仲間外れにして、お話しするのがいけないのです」
「はぁ、陛下………」
「分かった、菓子だな?普通は毒入り菓子と知って食べる輩はいないし、その後に菓子は食べないぞ……」
「タルト、悪くないです。食べられない紙が悪いのです」
「そうだが………して、ちぃ姫は何の菓子を所望かな?」
「紙がないタルトがいいです!」
「「…………………」」
今度こそ全部食べます。
「アレス……苦労するな」
「本当にね……」
食べられない紙がないタルトは美味しかったです。




