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第八話:追跡の予告

 急に出立の時間を聞かれたグランテは目を丸くすると同時に不安を覚えた。ソルディスが無駄なことを訊いてくるとは思えない。

 彼女は素早く時間を計算し始める。

「どう早くやっても1時間後だね」

「・・・やっぱり・・・・」

 ソルディスは下唇を噛むと、拳を近くの幹にぶつける。

「どうして、この能力はこうなんだ。替えられない状況になってからの未来なんて見えたってしょうがないのに」

 小さく・・・誰にも聞かれないように唸りながら彼は必死に自分が見える未来を検索する。

 だが『確定した時』しか見えない目には他の未来は決して映らない。

「いったいどうしたんだい?」

 焦っている少年王子を心配して声をかけてくるグランテに彼はまるで過去を話すように断言する。

「後、1時間後ここに王子達を探索する部隊が到着する・・・」

 その言葉を受けて当たりの気配を探ってみるが、そんな予兆はどこからも感じられない。あたりは深い闇の帳に包まれていて、時折遠くを通る馬車の音が風に運ばれて伝わってくるだけだ。

「来るのはオーランド卿・・・父上を捕まえられなかった汚名を返上するために山を越えるルートで街道を洗っている」

 いったいどういう風景が見えているのか彼女にも不明だったが、少なくとも普通の予知見さきみ星見ほしみが見るような漠然とした光景ではなく、はっきりとした記憶として喋っているように見える。

 こういう力の持ち主を彼女は伝説の予言の中で訊いたことがあった。

 すべての過去と定まった未来ときを見る『時見ときみ』・・・彼が未来や夢を見ると、定まっていない未来すらその道しか進めなくなるという。

(人の運命ときを操る・・・)

 そうか、確かに普通の人間からすればそう見えるのかも知れない。

 そしてその能力を持つと気づいたからこそバルガス王は彼を畏怖したのか・・・

 だがグランテの目の前の王子はそんな化け物ではなく、兄弟を守るために必死に未来を変えようとしている健気な少年でしかない。

「今から馬車を出したら」

「やめておいたほうがいいよ」

 ソルディスの案にグランテは強く反対した。

「逃げるとしてもあんたが指す方向の道しか逃げ場はない。森の方に逃げる手もあるが、こんな夜中じゃ昼間の盗賊よりも凶悪なのが出てくる」

 的確な反論に言い返すことも出来ないソルディスは悔しそうに下唇を噛んだ。彼自身、そのことは重々解かっていたのだろう。

「なんとか誤魔化すしかないだろうね」

 グランテはそういうと王女が眠っている踊子たちの馬車へと向かった。踊子は突然の座長の来訪に驚いていたが、寝ぼけることもなくすぐに彼女を迎え入れる。

「イレーネ、エリーザ。悪いが王女を例の衣装入れに・・・この子ぐらいの身体なら十分入るだろ」

 もともと盗賊に狙われたときに貴金属を入れておくために作った隠しの衣装入れは外から見ても解からないように上げ底になっており、小さな子供程度なら隠せるスペースがあった。

 彼女たちは健やかに寝息を立てている可愛らしい王女をその中に入れると苦しくないように注意をしながらカムフラージュをした。

 王女を踊子たちに任せたグランテは次に用心棒たちの所へ行った。

 彼らは山賊との度重なる対戦で疲れたのか、それともただ単に酒をしこたま飲んだせいなのか踊り子たちと違い緩慢な動きで眠りつづけている。

 毅然とした態度で起きているのは古参の用心棒一人だ。

「フェネック、クラウス王子は・・・・?」

「ぐっすり眠ってますぜ。こんな暗い中で地面だって言うのにたいしたもんでさ」

 普通の一般市民ですら地面で寝ることには慣れない。

 それなのに、この世界で一番大きな王国の王子は気にすることもなく普通に睡眠をむさぼっていた。こういう姿だと本当に王子には見えない。毛布をかけておいてやれば確実に見逃してくれるだろう。

「後は・・・サイラス王子か」

 そこでグランテははたと止まった。

 他の子供たちとは違い王といつも一緒にいることを強要されてきた彼の顔をオーランド卿のような元王の側近であった者が見分けられないはずがない。

 まして彼には容姿のほかに独特の雰囲気もある。

 時間は王子の言った時間に刻一刻と近づいている。ソルディスの予言どおりにこちらに向かってくるひづめの音も聞こえ始めた。

「ソルディス王子、あんたは占い師の格好のまんまだね。髪の色も大丈夫かい?」

 サイラス王子を通り越し、自分に質問が来たことでソルディスは更に悲しい顔をした。

 だがグランテの考えもわかる。サイラスを隠す処理をすれば折角隠したシェリルファーナやクラウスまで見つけられかねない。

「どうかしたのか?」

 外のざわめきにまだ眠っていなかったサイラスが馬車から姿をあらわした。

 邪魔だったのか鬘をはずしており、いつもの顔をしている。

 ソルディスとグランテは急いで彼に近づく。状況を言い淀むソルディスとは逆にグランテは早々に意を決すると彼に小声で問い掛けた。

「もうすぐ王子を探す部隊がつく、シェリルファーナ姫とクラウス王子はとりあえず隠した。ソルディス王子はこのまま占い師として押し通す・・・あんたはどうする?」

 グランテの質問にサイラスは耳を澄ます。

 確かに蹄の音が徐々にこちらに近づいている。

 ソルディスは何か言いたげに、だが言葉にならないままサイラスの右手を握り締めた。

「弟たちを頼みます」

 サイラスは再度、グランテに頭を下げた。

 そして自分の手を握るソルディスの手を外すとグランテへと渡す。

「僕は、この森を抜けた所であなたに拾われ、占い師の姫の看護を受けていたことにしてください。服装は今から着替えればなんとかなるでしょう」

 今、自分が着ていた楽師の服の上着を外すサイラスにソルディスは声をあげて止めようとする。

 しかしいつのまにか後ろに来ていた用心棒の一人が彼に当て身を食らわせ、その意識を奪った。

「この子は私の馬車へ、寝床で寝ていたふうにしておいて」

 意識をなくしたソルディスを男は軽々と持ち上げると、グランテの指示どおりに運んでゆく。サイラスはその光景を、優しい弟の顔を忘れないように見つめた後、捕まるための準備を開始した。

ソルディスの力の一番大きな部分が出てきました。

彼は『時を定める能力』を持っています。どれだけ混沌とした時でも彼が未来を見た瞬間一本の未来に変わります。

過去はすでに時が定まっているのでこの特殊な能力は未来に向けて威力を持ちます

ただし見たい未来が見れるわけでもなく、見てしまった未来は変更できないそんな能力を持つことが幸せかどうかは別個の話になります。

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