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第七話:もう一つの真実

 サイラスの後姿を見送った後、グランテは自分の後ろの藪へと振り返った。

「あんたは気配を消すのが上手いね、ソルディス王子」

「ソリュード、ですよ。レディ・グランテ」

 兄の気配が馬車の中に消えたのを確認してからソルディスは茂みから出てきた。

 グランテは鼻白みながら平然とした顔の王子に尋ねてみた。

「すべて聞いていたのかい?」

「すべて知っていましたから・・・」

 やはり、と思う。彼は心を読むのではなく時守の里にいる『過去見』たちと同じく過去が見えるのだ。

 そしてその瞳で兄のしたことを知り、『見透かす心』で兄の心の傷さえ見てしまった。

 ゆえに彼はいつもサイラス王子を慰めることができたのだろう。

「過去に時守の里から過去見・星見が呼ばれたのは4回・・・最初の占い師を含めて計5回も過去を見る催しが開かれた・・・それなのに王は自分の息子が誰なのか確定できなかったのはなぜか知っていますか?」

 唐突な質問にグランテは視線を険しくした。

 目の前の王子は、最初に二人だけの会談をしたときと同じく泣きそうな顔をしながら笑っている。

「すべての時守の民は、僕を見ようとした瞬間、その能力を失った・・・正確に言うと僕が見られるのがいやで彼らの時守としての目を焼いてしまったんです」

 ソルディス自身の『時を見る能力』は時守の里の人間より強い。その能力は自分を見ようとする他人の能力を奪うことさえ出来る。

「それに気づいたからこそ、あの男はクラウスの星を彼らに見させた・・・結果、あの男は僕を息子ではないと確信した」

 本当に、そうならばよかったのにと何度も思った。

 愛してくれない父親をずっと思いつづける苦痛をこんな風に味わうのなら・・・いっそ本当に父の息子でなければよかった。

 だけど誰よりも強い『時を見るの能力』が自分があの男の子供であると教えている。そして3人の王子のうち誰が彼の息子ではないのかを教えてくれる。

 グランテもバルガス王と占い師の話は知っていた。『王妃の生んだ3人の王子のうちの一人はバルガス王の子供ではない』、『クラウス王子は第二王子』この二つの宣旨は公には発表されていないものの事情通の間では有名な話だ。

 それを知る者すべての人間がソルディス王子は先代の王の子供だと思っている。

(王妃の生んだ3人のうち1人・・・?真中はバルガス王の第二王子・・・!)

 グランテはその宣旨の中にあるトリックに気が付いた。

「・・・一つ、きいていいかい?」

「はい?」

 ソルディスはグランテにその水色の瞳を向けた。

「サイラス王子の父親は誰だい?」

 本当に鋭い女性だと思う。ソルディスは一つ息を吐くと真剣な眼差しで彼女を射貫く。

「誰かに他言したら、殺してもいいと言うなら教えます」

 彼の左手が腰に携えている剣にかかっていることを確認しながら、彼女は自信を持って答える。

「かまわないよ」

 それぐらいの覚悟がないと訊けない質問だ。

 そしてこの王子がすべてを知っていると彼女は確信していた。

「サイラス兄様の父親は、ディナラーデ卿です」

 告げられた名前にグランテは目をむいた。

 今、彼らを追っている内乱の首謀者・・・バルガス王を誰よりも憎む男の名前。

 王位継承者であったアルガス王子の第一王子。クラウスやシェリルファーナと同じく王位継承権を持たない『ログア』ではあるが、その知性とカリスマ性は叔父であるバルガスよりも秀でている。

 それなのに冷遇され、妹を後宮へと無理矢理召し上げられた上に子供まで・・・

「・・・ディナラーデ卿はそのことを知っているのかい?」

「つい、先日知ったみたいですよ・・・だからこそ息子を取り戻そうとしたんじゃないですか?」

 知ったからこそ内乱を起こしてまで取り戻そうとしたのだろうか。

 ただあの王のことだソルディスを嵌めるための布石として彼を置いておかないはずがない。そうするならば・・・

 憶測だけがグランテの頭を駆け巡る。

「どちらにしろ、兄上は兄上です。俺はサイラス兄様が誰の子供だろうと守るって決めている。俺を守るために・・・」

 ソルディスはそこで言葉を切った。

 そして街道へと続く道を睨みつける。何の変化もない道だ。だがその向こうに彼は何かを感じたらしい。

 彼女はいやな予感を覚え、ソルディスに確かめる。

「どうかしたのかい?」

「後、どれぐらいで一座は出発できますか?」

 その問いに彼はこの場のいろんなところを睨みつけながら、逆に問いを返したのだった。

ソルディスの一人語りです。ソルディスの持つ能力の片鱗が少しずつ露になってきてます。

しかし彼の兄弟たちはまだ少しもその存在に気づいていません。

ちなみにサイラスが馬車に戻ってソルディスがいないことに気づかないのは彼が別の場所で眠っていると思っているからです。

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