エピローグ:辿り付く場所
オージェニックはソルディスと目線が合うように腰をかがめると掌を差し出した。
彼は慌てて自分の懐を探り、ガイフィードに作ってもらった紹介状を差し出す。受け取ったそれをオージェニックはさっと眺めると、改めて目の前の少年に笑いかけた。
「どうやら、大将軍は君のことが心配だったようだね。何度も『よろしく頼む』と書かれているよ」
「嬉しいです。僕と同時に志願した友人はブロージェカですぐに見習いに慣れたのに、僕は急にこちらのほうへと行くように言われましたので」
できるだけ真実を曲げないように話を進めながら、ソルディスは置いてきた兄妹と友人・知人の顔を思い出す。
「それは、たぶん君の剣の技術が飛びぬけていたからだろう」
オージェニックは目の前の少年の慰めるようにぐりぐりと撫で回す。
どうやら彼は自分のことを気に入ってくれたようだ。掌を通じて豪快だが温かい気持ちが伝わってくる。
「君が入隊したら、私つきの騎士団の見習として入ってもらう。君の腕があれば叙勲もすぐだ。期待しているよ、ソリュード・アドラム君」
「ありがとうございます」
あくまでも丁寧な物腰で礼を言う少年に、年長者の二人は改めて目を眇めた。
もしかしたら、この子供は名のある貴族の子弟かも知れない。すべての動作に上品さが窺えるし、頭に入っている知識は一般階級の子供よりも高い。
オージェニックがこの地に赴任して、十年近く王都には行っていなかったが、その間にデビュタントを済ませた子供の可能性は高い。
だからこその大将軍の紹介状なのだろう。
そして、この混乱した世界の中で彼を自分のところに置いておくとまずいと・・・
(・・・まさかな)
ふと、彼の脳裏にある人物の名前が浮かんだ。
しかしそれは、あまりにも目の前の少年とはかけ離れたイメージの『人物』で、その上、その人を大将軍が自分の所へよこすとは思えなかった。
「どうか、されましたか?」
副官が問う声にオージェニックは自分の思考を振り払った。見ると『ソリュート・アドラム』と名乗る少年が副官の横で心配そうにこちらを見ていた。
「いや、なんでもない」
オージェニックは自分に言い聞かすように言葉を返すと、少年を連れて自分の守るべき街へと帰路についた。
中途半端な感じですが、これで第二章『王国迷走編』は終了です。
もう少しこのまま続けようかと思いましたが、少年期のソルディスでこれ以上は必要ないかと思い、切上げました。
第三章『国土鳴動編』は第二章の修正が終り次第開始します。
舞台は3年後、ソルディスは16歳ぐらいです。