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第六十九話:南の町の暗雲

 自分が誰なのかを知らない少年を、彼は鼻先で馬鹿にする。

「なんだ、貴様、旅人か?行商人か?それとも、この容姿だからレナルドバードの奴隷商人から逃げ出した商品かぁ?」

 明らかに馬鹿にした口調でものを言う中心的な存在の兵士に、周りの兵隊たちも一斉に嘲る笑いをばら撒いた。

 そんな兵士たちの行動などどうでもいいかのように、ソルディスは感情の無い声で自分の目的を述べる。

「今からベネシェンドに行って兵役志願をする剣士だ。ガイフィード将軍の紹介状を持ってる」

 彼は自分の懐に手を当てると、悠然と笑ってみせる。

 周りを威圧するかのような笑みに、周りの兵は少し怯んだ。

「オージェニック卿の元に入るつもりできたけど、あなたがたのような人間と同じ『兵』と見られるなら別個の砦に志願するほうがいいのかもね」

 自分の意見を述べたソルディスは、とりあえず彼の首に当てていた刃を下ろした。

 首元に刃を当てられていた兵はその甘さにほくそ笑みながら、自分よりもずっと小さな少年に向き直った。

「俺はオージェニック卿の副官・ランズール伯爵の甥でフライアンテ子爵だ。

 オージェニック卿の元に行くって言うなら、俺たちの部下になるっていうわけだな。だったら雑兵に兵職の厳しさを教えてやろう」

 自分の名前に畏怖するだろうと思っていた少年は、「それが、なに?」と言わんばかりの目で彼を見ていた。

 フライアンテはそれに腹を立てると、自分の言葉どおりに力を見せつけるために自らも抜刀をしようとした。

「おやめください、子爵」

 彼の行動を嗜める声が宿屋の入り口から響いた。

 そこに現れたのは『子爵』と呼ばれた男よりも10歳ほど年上にみえる男だった。彼は大股で彼に近づくと、柄に掛かっていた子爵の手を外す。

 それから飄々としているソルディスに向き直り、

「ガイフィード将軍の紹介状を持っていると言ったな?本物か?」

と、確かめた。

 ソルディスは当たり前だとばかりに懐にしまっておいた紹介状を示し鷹揚おうように頷いてみせる。

 ソルディスの返事に彼は深く頷くと、不貞腐れた顔をした子爵に耳打ちした。

「ガイフィード将軍の推薦状を持つ者に手を出せば、いかなランズール伯といえどフォローできませんよ」

「・・・・・・ちっ」

 お目付け役とも思える男の言葉に忠告され、舌打ちしたフライアンテは興が削がれたとばかりに取り巻きの兵隊をつれて宿屋を出て行った。

 お目付け役の男は迷惑料とばかりに多目の金額の金貨を机に置くと一礼してその場を去った。

 後に残された宿屋の主人は剣を鞘に収めた少年に向き直る。

「君も無茶をするねぇ」

「・・・勝算はありました。僕もあいつらみたいに威を借るところがあったから」

 彼はそういうと少しだけ苦笑して見せた。

「あ・・・あ・・・ありがとうございますっ!」

 先程まで恐怖に震えていた少女は父親である宿屋の主人の影から姿を現すと自分を救ってくれた少年に深々と頭を下げた。

「あの人たち、この町でいつも問題を起こしているんです。オージェニック卿はすごくいい人なんですけど・・・」

 どうやらオージェニック卿には問題は無いが、組織の内部には問題が蓄積しているようだ。

 ソルディスはそれだけ頭に入れると再び食事をするためにカウンタに戻った。宿屋の主人はソルディスのクールな態度に少しだけ肩をおどけたようにすくめてから自分の持ち位置であるカウンタの中に戻る。

「ほい、これはお礼だ」

 宿屋の精進はソルディスの食べかけの皿の上に更に焼いた肉を乗せてやる。ついでにこの地方では有名なデザートもおまけにつける。

 ソルディスはきょとんとした顔でそれを見ていたが、すぐに「ありがとう」とぽそりと呟いた。

ソルディスは案外、いろんなところで女の子を守っては惚れられています。

彼は女の子には優しいですから。


随分と日にちを空けてのupとなってしまいました。

とりあえず、今は『完結』と銘打ってある作品を修正する作業をしていますので、それが終わればもう少し早くupできると思います。


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