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第六十八話:宿場町での諍い

 ソルディスはただ一人、街道を駆け抜けていた。

 目指す街・ベネシェンドは南方のレナルドバードとの防衛ラインとともに、交易地としても栄える豊かな都市だ。

 南に下るとともに王都から批難してきたと思われる商人たちが、徐々に街道を埋めてきていた。

 商人たちはだいたいソルディスぐらいの年齢になれば一人で行動することが多く、彼が一人で馬を走らせていても誰も見咎める人間はいない。いるとすれば、彼らが主人から預かっているだろうお金を巻き上げてやろうとする悪徳商人や、見目よい子供をレナルドバードまで連れ帰り、奴隷として好事家に売ってやろうと考える違法な奴隷商人だ。

 特にソルディスが警戒したのは奴隷商人だった。

 彼らにとり、たった一人で旅をしている『見目麗しい少年ソルディス』は絶好の獲物として映るらしく、何度も捕獲されそうになった。

 もちろん、彼はそれをすべて撃退してきたが、撃退すればするほど用意される人数が増えてきて、彼は正直辟易としていた。

(地図からすると、後3日は砦まで掛かる。町に入れば今ほど治安は悪くないはずだし、兵として志願さえすれば『騎士団』としての名前が僕を守ってくれる)

 南方から滅多に出てこないオージェニック卿とは全く面識が無いから、王子としての庇護もないだろうが今はそれのほうがありがたい。

(問題はレナルドバードからの交易人の方か・・・商人は顔を覚えるのが得意だから気をつけないといけない)

 自分の特徴である父親譲りの水色の瞳を隠すために、彼は王都を抜けてから伸ばし始めた前髪をできるだけ顔の前に垂らして外を歩くようにしている。

(いつまでも、悩んでいても仕方ないか)

 ソルディスは地図を荷物の中にしまうと、階下にある宿屋の経営する食堂へと降りていった。




 食堂では宿に止まっている人間は勿論、地元に住む村人やベネシェンドから派遣されたこの地を統括する兵隊も居た。

 彼らは一様に酒盃を傾けており、適度にできあがっている状態だった。

 ソルディスは酔っ払いを避け、カウンタに向かうと宿屋の主人の前に腰をおろした。

「すみません、何か食べるものを」

「あいよ」

 宿屋の返事は景気のいい返事をすると鍋の中でぐつぐつと煮えているシチューと、焼いたばかりの肉、それに固焼きのパンをソルディスの前に出してくれた。どうやらこれがこの宿のメインメニューのようだ。

 彼は木のスプーンでとりあえず始めてみる。トマトと数種類の野菜をブイヨンベースで煮込んだそれは初めて食べる味だったがソルディスの舌を満足させる出来栄えだった。

「おいしい」

「あったりまえだ、坊主」

 ソルディスの呟きを聞きとがめた主人が胸を張って自慢する。

 ついで出された肉も一切れ食べる。これもおいしい。北部では貴重なスパイスも、産地であるここでは日常使いでふんだんに使われている。それなのに肉の味を損ねないとは、驚きの限りだ。

 ソルディスはそれらの料理を勢いよく食べ始める。

「坊主は食べ方が上品だな」

 宿屋の主人の指摘に、ソルディスは顔を引きつらせながら「そ・・・そう?」と問い返す。自分では気付かなかったが、彼の食べ方は市井の少年のそれと異なっているらしい。

(そういえば、スターリングの食べ方は少しワイルドだったよな)

 ああいうのが、普通の少年の食べ方なのだろうか。

 今まで、一座の人間にも将軍にも指摘を受けなかったので気付かなかったが、これは気をつけないと自分で自分の首を絞めてしまいかねないと、改めて実感した。

 とりあえず、ソルディスはスターリングの食べ方を思い出し、食器の持ち方から替えてみた。それからがつがつと食事を食べ始める。

と、そのときだった。

「きゃあっ!!」

 後ろで少女の悲鳴があがった。振り返ると給仕をしている少女の腕を兵隊が掴んでいた。

「また、あいつらか」

 宿屋の主人は一言呟いて、カウンターを出る。ソルディスは一旦、食事を止めると騒ぎが始まったほうへと視線を向ける。

 兵隊は宿屋の主人にいちゃもんをつけながらも、少女の身体にいやらしく手を這わしている。少女は顔を真っ赤にさせながら、涙を流していた。

「とりあえず、手を離してやってください」

「ああ!?こいつは俺の服に水を掛けたんだ、俺が連れて行っても構わんだろう」

 兵隊のがなる声が店の中に響いた。

 彼はしこたま酔っているようで周りの目など関係無しに少女へといやらしい行為を再開する。

 宿屋の主人が慌てて止めようとすると、いたずらをしている兵士の取り巻きと思しき兵士が彼に向かって剣を抜いた。

「その手、放したら?」

 ふいに少女を捕らえていた兵士の後ろで声がした。宿にいた全員の目がそちらを向く。

 そこには先程までカウンタで食事をしていた少年・ソルディスが抜き身の剣を兵士の首元に当てている姿があった。

「いい大人が、少女を撫でまわす趣味とは最悪だな」

 怒りに満ちたソルディスの声に、兵士は少女から手を離す。少女は少し乱れた衣服を治すと宿屋の主人の後ろに隠れた。慰めている姿からして彼らは親子のようだ。

「貴様っ!俺を誰だと思ってるんだっ!!」

 剣を首元に当てられた兵士は自分にそれをしているのがかなり年下の少年と知ると大きな声で恫喝する。

 しかし彼はそれに全く臆する様子もなく、冷めた瞳で「誰?」と訊ねかえした。

ソルディス、なかなか砦につけません。足踏み状態です。

その上、ロリコン兵士に喧嘩を売ってます。襲われている少女は15歳ぐらいの女の子を想像しながら書いています。

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