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第六十五話:王子の旅立ち

 ソルディスは道が里まで達したことを感じ、ほうっと息を吐いた。

 もう一度、通路の精度を確認してから強大な精霊魔法を使った所為ために元に戻ってしまった金髪を再び黒へと変化させる。

 彼は一度だけ森を眺めてから、傍に繋いでおいた馬に跨り森に背を向けた。

 本来なら時守の里に顔を出していくべきだろうが、今はまだロシキスの王子たちと再会するときではないという判断が彼の中で働いた。

「後はあいつがなんとかするよな」

 定まった時しか見えない自分には現在のひとの位置がはっきり確認できる訳ではないが、あの森の中での惨事の後、ロシキスの王子たちが里に入った過去すがたは見える。

 ならば里の中に幼馴染みの王女がいる可能性は高いだろう。

 もしも竜で出かけていたとしても義姉弟きょうだいが残っているのだからすぐに戻って来るはずだ。

 ソルディスは最後にもう一度だけ道が安定したのを確かめるとベネシェンドの砦へと向けて出発したのだった。




 星見である時守の里の長は去ってゆく『時見』の星に小さく溜息を漏らした。

 この里の者でも『時見あのかた』と『星替そのあに』の素性を知っているものは少ない。

 だが逆にバルガス王が行った虐殺の記憶を持つ者は多く居る。

 その里に彼が気軽に顔を出してくれるなどと甘い考えは持ち合わせていなかったが、実際、去っていくその星を見ると悲しい気分になってしまう。

「里長殿・・・」

 同じく星見の者が『時見かれ』が去っていくのに気付き、不思議そうに彼を見つめてきた。

「あの方はすべきことをして、去られた。あの方の中では今はまだこの里に立ち寄る時期ではないのだろう」

 里長はそれだけ告げると開いたばかりの道に向かって歩き出す。

 森に近寄ってみると時の精霊たちが少しでは有るが正気を取り戻し、こちらにぎこちない笑みを向けてきた。彼らは彼らなりに閉じ込めてしまったことを反省しているようだ。

 開放された道には前に森全体に仕掛けられていた霧の結界よりも、もっと緻密でもっと強力な『結界』が張られている。

 運が良ければ辿り着けてしまうという間違いが起こらないように通り抜けれる者を限定してある。

「これで外に出られるようになりましたが、王子たちはどうなされますか」

 彼らにとり自分たちが異質な異邦人でしかないことをヘンリーも理解していた。

  だが記憶を無くした状態の姉を連れて内乱勃発で混乱しているリディアで潜伏することも貴族達の悪意が渦巻くロシキスに戻ることもできない。

「今しばらく、ここに置いて下さい。出て行く時は、義姉の判断を仰ぎます」

 幼い王子の判断に里長も「それがいいでしょう」と答えてくれたため、彼らは一時的とはいえそのまま滞在する権利を得たのだった。




 時守の里で魔法を掛けてもらい茶色の髪を得たレティアは近隣の村でいろいろな情報を仕入れていた。

 長い髪を無造作に後ろで縛り、薄汚い格好をしている彼女を王女だとわかる人は居ない。誰もが王都から戦火を逃れてきた一般階級の少年だと勘違いしてくれた。

 そんな彼が買い物しながら話を聞けば、大抵の人間は訝しむことなく喋ってくれる。そのお陰で普通の役人では聞けないようないろいろな情報を得ることが出来た。

(王子たちのうち、捕まったのはサイラス王子のみ・・・その王子は『光姫』とよばれるウィルフレッドの妹を連れて逃亡、その折にルアンリル殿と龍が逃げ出している)

 どういう経緯で光姫がサイラス王子と逃げることになったのかは判明しないが、同日にルアンリルと龍族の青年が暴れたのは王子達を逃がすための陽動に違いない。

「それじゃ、一旦、時守の里に戻ろうか」

 レティアはそういうと傍にいた馬の背中をぽんと叩いた。少年のみすぼらしい格好とは対照的な立派な白馬はその言葉に一度だけ嘶きをあげた。

『買い物はすんだのか?』

 義姉弟を匿ってくれている里の人たちへの生活物資を大量に背中に積んだ馬は、彼女の脳に直接質問を投げかけた。

「ああ、馬に化けてもらってすまないな、ルシル」

 馬はその言葉に構わないとでも言うように鼻を鳴らす。かのじょに取ってみれば大切な王女きじょうしゃの頼みなど苦痛ではないようだ。

『それよりも、私を狙っている一団がいる』

「ああ、村の傍のあの茂みですべてどうにかしよう」

 注意を勧告する国竜ルシルヴィリアに王女は残酷な笑みを浮かべてみせた。

この後が本当の意味でのソルディスの旅立ちになります。

レティア姫は買出しのために時守の里にいなかったようです。

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