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第五十九話:別離の宣言

 砦の中では宴の準備が始まっていた。

 砦の人間たちは誰が到着したのかわからない状況だったが、将軍自ら出迎えに向かったことで到着したのが位の高い人間であろうと判断したのだ。

 実際、馬車に乗り現れたのは王都から脱出したばかりの聖長と龍族の次期長という話を聴きつけ、砦やそれを取り囲む城塞の町は活気に湧いた。

 砦の中に連れてこられた客人はそのままガイフィードの執務室へと移動した。そこは多きなテラスから砦の町・ブロージェカが一望できる場所にあった。

 ソルディスは部屋に入ると適当な椅子を引っ張り窓際に陣取った。その瞳は町から、外へ・・・自分たちが最初にいた場所・王都に向けられている。

 部屋の中にはソルディスを始め、部屋の主人たるガイフィードと補佐のストラウム、聖長・ルアンリル、龍族のケイシュンというメンバーが揃っていた。重傷を負ったクラウスはシェリルファーナとスターリングの付き添いのもと、砦内の医療施設に運ばれている。

 外から聖長と龍族の来訪を祝う声が引っ切り無しに聞こえてきた。その声は王子の耳にも届いているだろうが、彼は僅かの反応を示さなかった。

「よろしいのですか?ソルディス王子がここにいると知れればもっと士気はあがりましょうに」

 ストラウムは当然湧き上がってくる疑問を思い切ってソルディスに進言してみた。ソルディスは椅子に座ったままの状態で彼を見上げると、どこか面倒くさそうに説明をする。

「僕がここにいるということはここが重点的に攻撃されることの証明みたいなものだ・・・それよりも聖長と龍・・・砦の守りを強固にする二人の登場のほうが民衆も受け入れやすいだろう」

 いずれ此処から蜂起ほうきするにしても、今はまだその時ではない。

「即座にディナラーデ卿に対して攻撃はなさらないつもりですか」

 ソルディスの言葉を受けてガイフィードはそう結論づけた。

 すぐに戦を始めるというのならここにソルディスがいることを当然民衆に知らせるはず。それをしないのはこの内乱を暫く静観するということになる。

「時期がまだ満ちていない。今のまま内乱を鎮めたところで、また同じような事件が起こるだけだ。せめて王族としての成人・・・18歳になるその日まで僕はこの国を取り返すべきではない」

 森の中に閉じ込められている父親バルガスのこともある。

 自分が王座に継いた反動で森の結界が解かれれば、あの男は自分の権利を主張しソルディスの補佐となりあの誕生日の前夜に計画していたことを行うだろう。それでは王国を取り戻す意味は無い。

「民衆に長く内乱の苦しみを与えるおつもりか?」

 ストラウムは鼻白みながら王子に問いただす。

 やはりこの王子もあの国王の息子なのだ。民衆のことを考えていない。彼には目の前の無表情の王子に不満を持ち始めていた。

「父上の治世があの人が死ぬまで続くのを民衆が望むのなら今すぐにでも兵を立てるけど?」

 王子の言葉にストラウムはぐっと言葉を詰まらせた。

 確かにそんなことを民衆は望まないだろう。特に謂れの無い理由でこの辺境の最前線まで送られたガイフィードとその部下たちはそれを一番実感させられていた。

 ソルディスはそれだけ言うと椅子から立ち上がった。それから二人の遣り取りを黙ってみていたガイフィードの傍まで歩みを進めた。

「でも僕がこのままここに留まればそれも出来ない。僕はここから一人で離れようと想っている」

「そうですな、その方がよろしいでしょう」

 ソルディスの言葉にガイフィードも頷いて見せた。

 前々から聡明だとは想ってみたがここに来て本来の彼の姿が明らかになったようだ。

「何を言ってるんですか!?」

 しかしその言葉にルアンリルが異論を唱えた。

 折角安全な場所まで辿りつけたのに何故この王子はそれを放棄しようとするのだろうか。

「もともと王都を出る時から決めていたんだ。ルアンリルが間に合ってよかった。これで二人のことを任せて、僕は旅立てる」

 ゆるぎない決意の言葉にルアンリルは瞠目した。

 もう王子の心を動かすことはできない。自分の不甲斐なさに下唇を噛みながら、ルアンリルは視線を床へと落とした。

もともとソルディスは一人で行動する予定だったので、兄と妹を信用できる人の元に届けたら姿を消します。

勝手な発想ですが、彼が傍に居ることで彼らが王子・王女とばれることを少なくするための措置でもあります。

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