第五話:光姫からの情報
ルアンリルは拘束された自分の腕を見た。
魔術師専用の特殊な拘束具は理力魔法はもちろん精霊の召喚すらできないようになっているらしい。何度も自分と契約している炎の精霊たちの名前を呼んでも反応がない。
あれから幾日がたったのだろう。
未だに王子たちの行く先や、どうやって厳戒態勢の関所を抜けたのかを聞いてくるということは王子たちは無事に王都を出たということだ。
頭のいい彼らの事だから今頃はソルディス王子の理解者でもある大将軍・ガイフィードの元へと向かっているだろう。
それにしても捕まえられている魔術師は思ったよりも少ない。
すべて死んだのか、それともウィルフレッドに寝返ったのか・・・
(いや、寝返ったというのは少し言いすぎか・・・)
ルアンリルの部族たる精霊族を始め翔龍族、一角獣族などの聖司族はもとからバルガス王を王とは認めていない。
継ぐ者がおらず、王座を空けておくわけにはいけないという貴族達の願いからとりあえずの代理人として置いておいただけであり、あくまでも正しい嫡流はウィルフレッドの父・アルガス、そして正しい王位継承者はソルディス王子としている。
そのバルガスが自分が崩御するまでの王位を望んだことが今回の内乱の発端というのなら、これは裏切りではない。
もし彼が魔術師たちからの支持を失うとすれば、それはソルディス王子の処刑を行った時である。
(従兄上がそれほど馬鹿だとは思いたくないが・・・)
知らず知らずのうちに、また彼のことを従兄上と呼んでいる自分がおかしかった。
苦笑をしていると遠くでぎぃっと言う扉の開く音が聞こえた。
誰かが階段を下りてくる。また王子の居場所を聞くための官吏が降りてきたのだろうか。
薄暗い影しか見えない階段を睨みつけていると、明かりがゆっくりと周りを照らした。
「アーシア姫・・・」
姿を現したのはウィルフレッドの妹姫だった。ルアンリルの知っている彼女より少し痩せたように見えるが、余り変わらない容姿をこちらに向けている。
「ルアンリル=フィーナ、やっと逢えた」
彼女はルアンリルの牢に近づくと少し薄汚れたルアンリルの顔に悲しそうな表情を浮かべた。
「お兄様はどうして・・・ルアンリルは私の事でもがんばってくれていたのに・・・それにソルディス王子にまで追っ手を放つなんて」
自分の指先が汚れるのも気にせず、彼女の指がルアンリルの顔を拭い続ける。
泣きそうな顔で自分の顔の汚れを落としている彼女を、ルアンリルはただ呆然と見ていた。
が、彼女の言葉に何かを感じ、自分の顔を拭くアーシアの手首を捉えると問いただす。
「王子たちは捕まってないのですね」
「はい、今の所、王族で捕らえられているのは王妃様のみです」
アーシアは声を潜めながら、ルアンリルに現状を報告した。
「お兄様や諸侯たちは現在二手に分かれて捜索を開始しています。
陛下とサイラス王子は山を越えるルートを取っただろうとして精霊の森の北側を、そしてソルディス王子たちはロシキスの王女たちと逃げているだろうと踏んで精霊の森の南側と迂回ルートへと検問を張ったり旅芸人たちの馬車をくまなく捜索したりと、とにかく死に物ぐるいで探しています」
アーシアの報告にルアンリルは小さく北鼠笑んだ。
兄弟4人が一緒に逃げていると思われていないなら好都合だ。それだけ彼らの判別がつきにくくなるだろう。
「ただ今回の捜索から以前までバルガス王の傍に仕えていたものが参加すると・・・そうなれば王子たちがどのような格好をしていようと見つけられると息巻いていました」
続いて出てきた王子探索のための貴族の名前を聞いて、ルアンリルは眩暈を覚えた。オーランド卿を始めその面々はかつてバルガス王の取り巻きとして名をはせた人物ばかりだった。
「ルアンリル・・・私は必ずここの鍵を手にれます。そうしたら彼らを守るためにむかってくださいますか?」
「もちろんです」
言われなくてもそうするつもりだった。ルアンリルにとり、彼らは守るべき主君なのだから。
そして目の前にいる少女も自分と同じようにソルディス王子を主君と仰いでいるようにルアンリルには見えた。
「もうそろそろお時間です、アーシア姫」
階段の上のほうで焦るような牢番の声がした。
アーシアは床に置いたランプを再び手に取るとルアンリルを振り返る。
ルアンリルは無理をしてこの牢に来てくれた従姉に深く頭を下げた。
ルアンリルは拷問等は受けていません。仮にもウィルフレッドの従弟妹ですから。ただ尋問は毎日受けています。
ちなみに他の牢には数人閉じ込められている魔術師等がいるはずですが、彼らはこの会話をどのように思って聞いていたのか・・・書くことはないですけど、気になるところです。