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第五十七話:意味を持つ眞名

 ケイシュンの表情をいぶかしむ王女を他所よそに彼は黙り込んだ。

 クラウス王子の『グレイ』もシェリルファーナ姫の『シェリル』も名前として問題はない。極一般的ごくいっぱんてきな庶民が使う名前だ。

 だが、ソルディス王子が使用している『ソリュード』は違う。それは特定の『意味を持つ名』で役目に準じる者以外が使用すること事態、非常に危ぶまれる。

 直に接した印象で、『わきまえた頭のいい王子』だと思ったのだが、彼はこのことを知らなかったのだろうか。

「シェリル、移動が開始するからルシェラーラに乗ってくれ。スターリング、馬車の手綱は頼んだ」

 ケイシュンが何かを言おうとした瞬間を見計らってソルディスが馬車の中の妹に呼びかけた。

 彼女は兄からの指示に二つ返事で応えると、ケイシュンに向け一礼してからその場を去った。代わりにルアンリルを伴ったソルディスが馬車に乗込んで来る。

「ちょっといいですか」

 年若き王子はクラウスの傍で逡巡しているケイシュンを手招いた。

 動き出した馬車の、それも誰からも一番離れた場所まで誘ったということは自分たち以外に聞かれたくない内容なのだろう。

「まずは、ルアンリルの件、そして兄上の治癒の件、礼を言わせてください」

 王宮の噂とは違い、優雅でその上何処か言い知れない迫力を持っている・・・それがケイシュンがソルディスを見たときの所見だった。

「いや、別にルアンリルの脱出の件は俺も便乗させて貰っただけだし、グレイの治癒の件は本人に礼を言って貰う予定だからな」

 砕けたケイシュンの物言いにソルディスは少し目を細める。

 常に笑っている王子だと聞いていたのだが、今の彼は上手く笑えないようだ。これも内乱のせいなのか、それとも笑う必要がなくなったからなのだろうか。

 そのどちらでも、王としての資質を感じさせるのだが、だからこそ、あの『名前』をわざわざ使う理由が判別できない。

「それよりも、王子に言いたいことがある。何故あんな『偽名なまえ』を使っているんだ?」

 あの『名前』は時守の中でも特定の役目を持つ者のための名前だ。かの一族はそれを『役目』を持たないものが使うのを許さない。

 まして今は王族と時守の一族との間には修復するのが難しいほど深い亀裂が入っている。彼が『名前ソリュード』を使用していることを時守側むこうに知られれば、取り返しのつかない火種になる事は必至だろう。

「名前、ですか?」

 そういえば偽名を聞いていなかった、とルアンリルはソルディスに視線を向けた。

「サディア、グレイ、ソリュード、シェリル・・・ってつけた。今後呼ぶときは間違えないようにして欲しい」

 順番に偽名を告げたソルディスの言葉に、ルアンリルも彼の危惧を理解した。

 確かにこれはまずい名前だ。それを王子も知らないはずは無いのに、なぜ、敢えてその名前を名乗るのか。

「王子、『ソリュード』という名前は・・・」

 困惑する二人にソルディスは小さく「大丈夫」だ、と呟いた。

「ソリュードは僕の眞名の一部だ。正式にはリル・ソリュード・ソルディス・・・・・・解かっているだろうけど、許可しないうちは口にしないで欲しい。その名をどんな形で呼ばれても僕は相手を切らなくてはいけないから」

 リル・ソリュード・・・『時を定めし者』の名前。

 その名を持つ者が無限の時を支配すると言われ、彼の見た未来は『必ず』その通りに動く。それは人に関わらず、物や国や世界までに影響を及ぼすといわれ、時守の中でも『特別』な力として知られている。

『人の未来を操る悪魔・・・』

 ルアンリルは今この時になり、やっとバルガス王の罵しりの意味が理解できた。

 しかしバルガスとは違い、自分は彼を理解している。

 あの王はソルディスが能力を使い人間の運命を自由自在に変えるのだと信じていたが、ルアンリルは絶対にそんなことをしない知っていた。

 むしろ、彼は出来る限り運命を見ないように心がけていたようだった。

「とりあえず、『リル』の位置にある僕の存在では偽名を使用することはできない。

 だから、眞名の一部でもある『ソリュード』を利用しようと思う。そこだけならあまり制約も無いし、誰が呼んでも大丈夫だからね」

 本来ならば眞名など他の人に使われないように隠し続けるのが定番だ。

 しかし稀にそのそんざい自体が強大すぎて『偽名』をつけられない者もいる。目の前の王子やルアンリル、ケイシュンのような存在だ。だがそれは本当に稀な存在である。

 普通の人やある程度の役目しか持たないものは勿論、『ラル』や『ディル』のみたいに変質の位置に居る者ならばいくらでも偽名を利用つかえる。

 その辺りの普遍のことわりは複雑な上に覆すことなど出来ない厄介なものである。

 衝撃的な告白に顔色を変えている二人にソルディスは何の感情も映さない瞳を向けた。

「それよりも頼みたいことがある」

 自分の名前のことなどどうでもいい。魔術に関わる者や占術を行うものが聞けば簡単に判ってしまうことだ。

 それよりも大切なことがある。

 彼はそのために二人をクラウスやスターリングに声が届かない後ろの方まで呼んだのだから。

 二人の視線が自分のほうに向くと彼は一つ息を吐いてから、年長の二人に頭を下げた。

この世界では実名(本名)と眞名二つの名前を持っています。

実名は親がつけた名前、眞名は魂に刻み付けられた名前です。

ソルディスの持つ『リル・ソリュード』やフェルスリュートのもつ『ラル・ソリュード』は眞名になります。

この眞名を自分と同等レベルの魂の規模の人間に使われるとその人は運命を握られたと同然の状態になります。

だが、逆に下位のものが上位者の眞名を口に出して言うと本人あるいはその場に居る精霊に殺される可能性を秘めています。(本文中ソルディスが切ると言ったのはこのせいです)

もちろん、本人が許可すればそれを呼ぶことも出来ますが、普通はあまり許可しません。

また、眞名の中には実名と眞名以外の名前を排除するものもあります。

ソルディスやルアンリル、ケイシュンは実はそれに該当します。

ゆえに『ルアン』は略称のぐらいしか偽名として使えません。

ちなみにウィルフレッドがルアンリルを呼んでいた『ルフィーナ』はルアンリルの眞名の一部です。

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