第四十六話:龍長の思いと、次期長への軋轢
ルアンリルは深々と頭を下げると「ありがとうございます」と礼を述べた。
これで一つの問題と悩みが少し解決した。次はこの村を出て、自分が仕える相手の元に合流するだけだ。
決意も新たにするルアンリルにナリファは静かに言葉を発した。
「そうだ、ルアンリル殿。私からも頼みたいことがあります」
ナリファの申し出にルアンリルは不思議そうな顔をした。
だがこちらの勝手な申し出を受けてもらった挙句に私用まで頼んであるルアンリルとしては無碍にはできない。
「なんでしょう」
目の前の龍長に向け、ルアンリルは静かに微笑んで見せた。
「ソルディス王子の元にケイシュンを連れて行ってくれませんか・・・今、この状態の村にあの子だけを置いておくのは危険かもしれませんから」
これは龍長としての頼みではなく、彼をずっと養ってきた養父としての頼みだった。
現在、ベーシェンとケイシュンの周りは自分と弟の時よりも酷い状態になっている。
前長の意思により次期長はケイシュンに決まっているが、それでも人間の血が入っている彼を認めないものも居る。
それらは無駄に竜族の精神を培ったベーシェンを祭り上げ、内乱の際に王都へケイシュンを置いてくるという暴挙を行った。それもあまりに手際がいいほどの実行力で、だ。
つまり、ベーシェン自身が直接ではないにしろディナラーデ卿の陣営と通じている可能性を示唆している。
それなのにケイシュンは助かり、更には花嫁を乗せるようにして聖長を連れてきた。それを目の当たりにしてベーシェン側が何か仕掛けないとは考え難い。
先ほどの説明でそこの辺りをすべて察知したのか、ルアンリルは僅かに微笑んだ。
「私が行く先はガイフィード将軍の砦です。それでよろしければ」
「お願いします」
ナリファがそう返したことで、二人の会談は終わった。
ケイシュンは屋敷の外で少しだけ頭を冷やしていた。
あれほど酷いことを言うつもりなど無かった。ただルアンリルのいたいけな心と、その容姿がかつての自分の恋人と重なり、何もしらずにのうのうと迎えに行った自分の間抜けさを思い出させた。
「はあ・・・・」
「気の抜けたものだな」
大きなため息と共に自らに与えられた家へと戻ろうとしたケイシュンの前に苦々しい顔をしたベーシェンが現れた。彼はいつも連れている取り巻きを背後に控えさせ威圧的な視線でケイシュンを睨み上げていた。
「・・・・・・あんたか。・・・何か用か?」
ケイシュンは不快さを隠しもせずに、自分よりも背の低いベーシェンの顔を見下ろした。
「上手くやったものだな・・・聖長を連れてくるなんて。わざと捕まえられたのはそのためか?」
ベーシェンの言葉に後ろの男たちはくすくすと笑っている。確か自分を置き去りにして逃げた従者だったような気がする。
「わざと捕まえさせた・・・の間違いだろ?変体のために繭化していた俺を起こそうともしなかった奴を連れているだけで事が知れるぞ?
ケイシュンの言葉にベーシェンの後ろに控えていた中の二人がぎくりと顔色を変える。案外、わかりやすい奴らだ。
「ディナラーデ卿とつながりがあるんだったら早めに切っておくことだな。長殿はルアンリルに付くことを決めたぞ」
ケイシュンはそれだけ告げると、これ以上の不愉快な接触を避けるために彼らの横を抜けようとした。
しかしその腕をベーシェンが掴んで止める。
「聖長殿はお前が人間の女にうつつを抜かしていたものだと、その前におまえ自身に貴い龍の血が半分しか入っていないことを知っているのか」
嘲る顔は彼がケイシュンを格下だと思っている証だ。
実際、彼らの祖父である前長にそう言われながら彼は育ったはずだ。考えてみるとある意味、彼が哀れな存在にも思えた。
サブタイトルはもう、内容そのままでつけました。
もともとタイトルつけるのは得意ではないですが、これだけつけると、語彙のストックがなくなっていきます。
本当はルアンリルだけを旅立たせようと思ったのですが、どうも伏兵が勝手についてきました。
クラウスと合流したらどうなるのか、自分でも予見つきません。