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第四十四話:引き裂かれた過去

 ナリファは居住まいを正すとゆっくりとした口調で過去を語り始めた。

「あれの父親・・・・私の弟は私と同等以上の力を持つ龍族だった。もちろん聖体にも変化でき、長となるべき人物として育てられてきました。いずれは龍族か他の聖司族から嫁を取り、結婚させようとした矢先に彼は一人の女性を自分の妻として連れてきたのです」

 その当時、ナリファはすでに一族の一人と結婚をしており、副長としての責務を果たしていた。将来は弟のことを支えられる存在になろうとしっかり学び、その日を待っていた。

 しかし、弟が連れてきたのは普通の、本当に普通の人間の女性だった。顔は確かに綺麗ではあり朗らかな性格はナリファの妻ですら「いい女性ひとね」と言わしめるほどだった。

 しかし、普通の人間である彼女を前にして、龍族の殆どは嫌悪を示した。

 単なる人と気高き龍が結ばれるなど、きっと不吉な事が起こるに違いないと口々に言った。

「旅芸人の踊子の一人であるその女性に我々の父は大激怒し弟を閉じ込め、その女性とその一座を自分たちの支配する土地から追い出しました」

 彼女たちを見送ったのはナリファ夫婦だけだった。泣いて泣いて、それでも『彼を好きになった自分が悪いのだ』と彼女は自分を責めながら龍族の村から去っていった。

「弟は閉じ込められた場所から抜け出すと、その女性の一座を追いかけて飛んでいった。自分を閉じ込め、彼女を侮辱した龍族を棄てて」

 弟の牢の扉を開けたのはナリファだった。彼は自分を助けてくれた兄のことを心配しつつも、聖体となって大空を掛けていった。

 牢を開けたことでナリファは謂れのない批難に遭う。

 自分が族長になりたいが故に弟を解放したのだ・・・いやあの女自体をけしかけたのはナリファではないのか、と。

 そんな中でナリファの妻は第一子であるベーシェンを産み落とした。当時の族長はその子供を夫妻から取り上げ、自らの手で教育を始めた。二度と龍族の輪を乱す子供に成長させないように。

「やがて弟が死に、自らの死を悟った女性は唯一自分の存在に理解をしてくれた我々のもとに現れ弟の息子・ケイシュンを託していった」

 やがて時が経ち、あの女性が一人の少年を連れて龍族の村を訪れた。

 彼女は弟が死んだことと、自分の命がもう残り少ないことを注げると弟の遺児であるケイシュンを夫妻に託した。子供を奪われ気落ちしていた夫妻は、彼を自分の子供のように育てた。

「一族の誰もが弟を逃がした我々の代わりにベーシェンが一族を継ぎ、合いの子でもあるケイシュンは成人とともに村を出て行くだろうと予測していた。

 しかし、そうはいかなかった。成長したベーシェンには一向に聖体になる兆しが現れなかった」

 普通、族長クラスの力を持つ者の額に常に浮き出ているはずの鱗が、彼の額には現れなかった。

 逆にケイシュンの額にはくっきりとした鱗が生えてきた。試しに聖体になる術を教えてみると彼の父親よりもずっと立派な龍の姿へと変体した。

「私の父である前長は急遽、私を次期長に指名し、その副長としてケイシュンを指名した。もちろんそれはケイシュンへと長の座を引き継ぐための布石だ」

 そうなると今まで彼らを腫物でも扱うかの様に接してきた周りの態度が激変した。

 ナリファ達を側にも寄せなかった前族長は掌を返し、ナリファを次期族長に任命した上で今まで接する事すら赦さなかったベーシェンを夫妻の元に返した。

 程なくして前長は病に倒れこの世を去った。ナリファは宣言どおりに次の長に任命された。そしてケイシュンを自分の後継ぎとして選定しようとしたところで問題は起きた。

「私が長になった後、ケイシュンが恋人の話をしてきた・・・・あの子の話では彼女は自分が母親と旅芸人として過ごしていた時、同じ一座に居たと言っていた。私は弟のことがあり反対はしなかった。だが回りは2代連続して人間の血が入ることに懸念を感じた」

 ケイシュンの恋人と会ったナリファの妻は彼女はとても美しく気立てもよく頭のいい少女だと言っていた。黒い髪は腰までウエーブし、穏やかな紫色の瞳は不思議な力を持っているように見えたらしい。

 ケイシュンの母親に対しても好印象を持っていた彼女は、いいお嬢さんを選んだとケイシュンの見る目を誉めていた。

 妻の目を信じているナリファはそれならばケイシュンの妻に相応しいだろうと思い、彼を伴い彼女を里に迎え入れるために彼女が済む村に出向いた。

 しかし、そこで知らされたのは自分達よりも先に『龍族』からの使者が来て彼女に罵声を浴びせ、金を突きつけて村から追い出してしまったという事実だった。

「彼女の住む村に龍族の誰かが赴き、彼女へケイシュンと別れるように強制し、村から追い出した。それを知ったケイシュンは・・・・あの子は私たち夫婦しか信じないようになった」

 あれ以来、ケイシュンは里の人間を信じない。今回王都から逃げる過程でこの村によったのもナリファとその妻に自分の無事を知らせるためだろう。

「あの子がルアンリル殿に禁忌を犯す前に引き返せというのは自分と同じ傷を貴方に負わせたくないからでしょう」

 あの子の不器用な優しさは幼い頃から彼を育ててきた自分だから察することができる。話を黙って聴いていたルアンリルも「そうですか・・・」と呟いた。

今回はずっと龍族の昔話でした。

ケイシュンはクラウスとルアンリルに自分と恋人を重ね合わせているようです。

ベーシェンが人のいいナリファの実の息子なのに性格が悪いのは幼い頃、親から引き離され讒言・諌言・暴言の中で生きてきたためだと思われます。

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