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第四十一話:舞い降りた聖長

 スターリングから大体のことを聞いたグランテとクラウスは同じように「はぁ」と息を吐いた。

「無茶をしすぎる子だとは認識してたけど・・・ここまでとはねぇ」

 グランテは少々呆れたように意識を失っているソルディスの顔を覗き込む。気力を使い切っている王子はいつものように人の気配で目覚めることもできないようだ。

「少しぐらい頼ってくれてもいいのに・・・な」

 クラウスは弟に頼られないことを少し寂しく思っていた。

 サイラスが捕まった時も、今回も、結局ソルディスは他人ひとを頼らない。自分一人で全部を解決しようとする。

 まだ幼い肩に乗っている荷物を感じさせずに、ずっと我慢しつづける。

「頼りないのかな・・・俺は」

 ソルディスを支えるのに必要な力はまだ自分には何一つ備わってない。幾ら剣術を極めようとも、それでは彼を支えられない。

 それは今回の内乱で、ひしひしと実感していた。

「そんな・・・こと、ない」

 クラウスの言葉に反応するようにソルディスはうっすら目を開けた。

 馬車の振動が感じられない。どうやら自分が倒れたせいで彼らの足を止めてしまったようだ。

「兄上が頼りないなんてことは、ない・・・僕が、頼る方法すべを知らないだけだ」

 クラウスが『王子以外の場所』でいろいろと頼られていることは知っている。腕っ節だけではない、今は然程開花していないが彼には知略もある。

 そして何より、自分と少しでも関わったもの全てを守ろうとしてくれる度量の深さもある。

 頼もしい相手だと思う。だが、それに頼れるほど自分が素直でないだけだ。

「つまり、頼りないってことだろ。ほら、寝てろ・・・お前は体調が悪いんだから」

 クラウスは無理矢理起き上がろうとするソルディスの身体を寝具に戻すと、頭まで毛布をかけてやる。

 まるで汚い外界からソルディスを守ろうとするように・・・

『寝てろ・・・俺がついていてやる。お前、体調悪いんだろ?』

 自分が信頼する『異母兄フェルス』もよく、体調が悪いときにそう言っては毛布をかけてくれた。クラウスは異母兄フェルスリュートとあまり面識がないはずなのに、こういう所で血の繋がりを見せてくれる。

「ごめ・・・」

「謝るなって」

 クラウスはそういって毛布に隠れたソルディスの頭をぽんぽんと撫でてやると、みんなを促して馬車の外へと移動する。どうやらソルディスが回りに他人がいると、しっかり眠れないことを見抜いているみたいだ。

信頼たよることはできないけど、信用しんじることならずっとしている)

 クラウスにかけることの出来なかった言葉を胸に秘めながら、ソルディスは静かに目を閉じた。

 体が悲鳴をずっとあげている。気力を消耗することがこれほど身体に影響するとは思わなかった。

 目を閉じると、スゥーっと意識が遠のいた。また深い闇が彼の意識を包み込み、眠りの深淵へとソルディスを連れて行った。




 一方王都を出たルアンリルは王子たちの様子を知らずにケイシュンの背中に乗り、一路、聖龍族の里を目指していた。

 龍の飛ぶ速度は地上のどの乗り物より早い。これに勝てるのはロシキスの竜達だけだろう。

『ほら、見えてきた・・・あれが、俺の里だ』

 ケイシュンの声にルアンリルは雲の合間から里を一望した。

 ルアンリルは聖長に就任して以来殆どの時を王都で過ごしていたため、こんな大きな里は初めて目にした。

(こんな大きな姿になるから里も大きめに作っているのか)

 ルアンリルが取りとめも無いことを考えている間にも、ケイシュンは里の広場に向かって急降下を開始した。

 広場には幾人かの人だかりが出来ていた。

 その中の一つに向かって飛んでいくケイシュンに、人だかりの中心に居る人物を守ろうとする兵士たちが刀に手を書けた。

 だがその人物は兵たちを片手だけで制すると、嬉しそうに降りてくる巨体に向かって笑って見せた

『族長!ただいま、帰りました』

「ケイシュン、無事で何よりだ」

 目を細めて帰還を祝う言葉を述べてくれた聖龍族・族長:ナリファ・コウ・ロンファはケイシュンの背中で動く影を認めると興味深げにその人物を観察し始めた。

「ケイシュン、あまり遅いから、あの謀反人に寝返ったかと・・・」

 自分が嵌めて捕らえさせたはずの従弟の登場にナリファの息子・ベーシェンはイヤミ交じりに彼を迎えようとして言葉を止めた。

 ケイシュンの背中から降りてきたのは少女に見える人物だった。

 身なりはそれほど華やかではないが、それが彼女の清楚な美しさを際立たせているようにも見える。肩口で揺れる黒髪は、ややざんばらに切られていて少し痛々しさも感じさせた。

 そして、何よりもケイシュンが『聖体の際に背中へと乗せた』という事実。

「ケイシュンっ!これはっ!!」

「黙りなさい、ベーシェン」

 族長ナリファは息子を制すると降りてきた少女に頭を下げた。

「お久しぶりですね、聖長殿」

「お久しぶりです、ナリファ殿」

 ルアンリルは龍族の中でも族長という立場ゆえに面識の深いナリファの姿を認め、にっこりと笑ってみせた。

前半は主人公ソルディス。後半は聖長ルアンリル。どちらでタイトルを付けようか迷ったけど結局聖長の方でタイトルを付けました。

仮タイトルまではちゃんと主人公系のタイトルだっただけに何処か憐れです。

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