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第三十九話:戦回避への提言

 その場には国王と王妃、竜神殿の神官長、侍従長、有力貴族の内数名と将軍職を持つ貴族数名のみしか入ることを許されず、扉の前では人型となったルシル=ヴィリアが立って人払いをした。

「なにが、あった?」

 先ほどとは違う断定的な問いにレティアは意を決した。

「時守の里にて、ルミエール王女は記憶を封じられました。

 封じたのは星替ほしかえ・・・おそらく、リディア王国内に彼女を留めようとしたのだと思います」

 彼女の衝撃的な発言にその場にいた全員が息を飲んだ。

 記憶が封じられた事も勿論憂慮すべきことだが、もっと彼らにとり重要な内容がその言葉には含まれていた。

「星替、ですと?そんなものまで現れていたのですか・・・」

 ロシキスの地にルシル=ヴィリアが復活した時も、彼らはそういって驚いていた。

 あの時は自分がこれで開放されるという喜びから深く考えなかったが、今、思えばそれも変調の序曲とも捕らえることはできる。

「ただし、星替は殺されました・・・殺したのは、バルガス王です」

 更なる証言に、貴族の口から「そんな・・・」と畏怖する声が零れる。

 次々に知らされる懸案にライアンは頭を掻きながら、執務をするときに使用する椅子にどっかりと腰をおろした。

 有力貴族の一人が王の前に跪くと鼻息を荒くしながら、ライアンに進言する。

「これで、リディア国王家と時守の里との決別は確定ですな・・・上手くすれば、彼らを使い内側からリディアを崩すことも・・・」

「できませんよ」

 その言葉を遮ったのはレティアだった。

 非難の視線を投げかける貴族に彼女は大きく首を振る。

「星替の死により、時守の里の周りには強大な結界が張られています。そこを通り抜けることは如何な時守の民とはいえ不可能だと彼らは言っていました。

 私はルシル=ヴィリアがいたからここまで来ることも可能だっただけで、彼らは結界により里に囚われた状態になったと言って過言ではないでしょう」

 王に進言した貴族はぐぅっと言葉を飲み込む。反論したいのだが、伝えられる状況を知るに連れて自分の案がどれだけ不完全なものか証明されてしまう。

「更に言えば、もし結界を越えることが出来たとして彼らが『王家われわれ』に協力してくれるか怪しいものです」

 彼らはすでに『権力を持つ者』を警戒している。自分たちがあの村に居られるのは一重にフェルスリュートの護符を持っていたから・・・彼の同行者であったからだ。

 そうでなければ、彼らは自分たちを村に入れるなど・・・自国リディアと対立する立場を明確につくることなどしないだろう。

「もし、彼らが従うとすれば・・・伝説で語られている残り二人の兄弟・・・時変ときかえ時見ときみだけでしょう」

 そう締め括った彼女に全員が口を噤んだ。

 星替ほしかえが出ただけで異変だというのに、他の者までこの世に生まれている可能性はあるのだろうか。

 そしてそれが誰であるのか、どの国で生まれるのかわからない状況では探し様もない。

「それは置いておいても・・・現在のリディアは内乱の渦。攻め込むのには絶好ではありませんか」

 先ほどとは違う貴族が会議の中心となっている王と王女に進言した。

「言ったと思うが、全く無傷のガイフィードの騎士団とどう戦うつもりか?」

 国王は冷静に言葉を紡ぐ。

 将軍職を持つ貴族達もそのことを理解しているので勝手に述べている有力貴族に冷たい視線を送った。

「ルミエール姫とヘンリー王子はどうしますか?」

 レティアはライアンとその王妃に視線を送る。

 内乱が激化すれば、この国の貴族たちはこぞって先ほどの案を押してくるだろう。そしてリディアとロシキスとの戦が始まれば、火種の元となる王子王女を里の者たちが匿ってくれるか怪しい。

 ゆえに彼女レティアは状況が悪化する前に指示を仰ぎにきたのだ。

「そうだな・・・せめてルミエール姫が普通に行動できるまでは里に書く待て貰うほうがいいだろう。それもまではロシキス国王の名前において、戦を起こす真似はしないと誓う」

 レティアの望む答えを述べてくれた王に貴族達は全員色めきだった。

 今すぐではないにしろ、内乱が長引いたらその時には戦を起こそうと考えていた将軍職の者たちも王の意見には反対だった。

「そうだ、せめて・・・二人を国に連れ帰ることは・・・」

「国竜に私以外の者を乗せろと?・・・そして飛べと命令するのか?」

 冷たいナイフのような切り替えしで答えたレティアに彼ら全員が言い返すことなどできなかった。

「それでは、私は義姉上たちの元へ戻ります」

「頼んだぞ・・・」

「頼みましたよ」

 国王夫妻の懇願をレティアは一礼で受け止めると、王の執務室から去っていった。

 後に残された貴族達は彼女が去ったのを確認すると口々に王女への疑惑を口にした。

「本当は、彼女が国の主権を得る為の芝居では有りませんか」

 王の猜疑心をくすぐる言葉を選んだはずの貴族にライアンは傍にあった剣を抜いた。

「聞き苦しいぞ、諸兄ら・・・あの子がそのようなことをしないことは王である私が知っている。それ以上言葉を紡げば、王族への不敬として取るが・・・よいか?」

 国王の言葉に随意するように王妃もきつい瞳を貴族達に向けていた。

 彼らはその迫力に押され、それ以上の讒言を打ち切ったのだった。

ロシキスでのレティアの肩書きは王女兼竜姫将軍です。

ロシキスでは国防の要たる竜騎士は特別で、いろんな意味での優遇と自分の意志による将来の選択が許されます。

ちなみにガイフィードが率いる軍はリディア内で最高の騎士団です。

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