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第三十七話:時森への思い

 時守の里は悲しみに暮れていた。

 星見ほしみの頂点に立つ星替ラル・ソリュードの死を悼む声がそこら始終でしていた。

「もうそろそろ、義父殿ちちうえの所に報告に窺わないといけないな」

 本来なら、フェルスリュートが死んだその日にレティアは竜王国ロシキスに戻ろうとしていた。

 しかし意識を取り戻したルミエールが何かに怯えるように悲鳴をあげ、レティアの腕にぎゅうっとしがみつき離れなかった。彼女の腕から離そうと成人した男が近づくと、彼女は更に悲鳴をあげた。記憶が無くても、体が恐怖を覚えているようだ。

 それ以降もずっと彼女はレティアの傍を離れず、おかげで国に戻るのが延期されていた。

「姉上しかあの竜は乗れませんから・・・」

 竜を従わせるという『竜緋石りゅうひせき』と呼ばれる血を持ってしても国竜の背中に乗ることは易々と許されない。

 逆にこれが普通の竜ならば宥めすかして乗ることもできるのだが・・・・

「いかなきゃ、だめ?」

 記憶を失うと同時に少し幼児退行をしたルミエールはレティアの傍でじぃっと見つめてくる。

「ああ、行かなきゃだめだから・・・・、待ってられますか?」

「う・・・・・?」

 逆に問い返されて彼女は青い瞳をさ迷わせた。

 行かせてあげたい・・・だが彼女がいないことが怖い。

「ヘンリーはここに置いていきます」

 ヘンリーは置いていってくれる・・・そのことに頷いて見せるが、不安は払拭されない。

「必ず、帰ってきますから・・・」

「かならず?かえる?」

 必ずと言う言葉は怖い。それが崩れるときを自分は知っている気がする。

 でもそれが優しく包んでくれたことがあった気もする。

「かならず・・・・ね、かならず・・・・もどって、ね?」

 ルミエールは震える声でレティアに告げると彼女は優しく彼女の頭を撫で、今度こそ義父の元に参じるために国竜を呼び寄せた。




 グランテの一座はそのまま北の街道を目指して馬車を進めた。王子の捜索隊も一段楽したのか、不穏な空気はまだ感じない。

「街道は後3日もすれば北東と南に分かれる。そこでグランテ達と別れる」

 おおよその予測をしていたのかクラウスは静かに弟の言葉を聞いていた。シェリルファーナは仲良くなった踊子たちとの別れを寂しがったが、だからと言ってわがままが言える状況でないことをしっかりと把握していた。

 ソルディス達の馬車に同乗しているスターリングはクラウスの代わりに手綱を操りながらも、後ろの話の内容に興味があるようだ。

「俺は大将軍のところへ向かう中に入れてもらえる?」

 とりあえず確認のためスターリングが出した質問に、ソルディスは苦笑してみせた。

「そこまで、無責任じゃないよ」

 あの村から最終的に連れ出すのを決めたのは自分だ。

 ならば自分が責任を持って彼を大将軍あのひとの元に連れて行かなければならないだろう。

 馬車の扱いに慣れているスターリングは、巧みに馬車を扱いながら空の一角を飛んでいく光るものを見つけた。

「あ、珍しいものが飛んでる・・・」

「なに?」

 彼の言葉にクラウスが御者台の方に顔を出す。その背中にはシェリルファーナが張り付いていた。

 その微笑ましい情景にスターリングは目を細めながら、先ほど自分が見つけた方向を指差した。

「ロシキスの竜です。それも少し大きめの銀色の竜」

 ロシキス王がリディア国王に謁見するときにしかリディア国土に入ってこないその竜が空を飛んでいた。それにあの大きさ、銀色に輝く鱗は、伝説で語られている国竜・ルシル=ヴィリアの可能性だってある。

 ソルディスはその言葉を聞きながら静かに目を閉じた。国竜がロシキスに戻った・・・ということは帰郷したのはレティアだけなのだろう。

 星替フェルスが自分たちの父親バルガスに殺害されたということはその現場近くにはロシキスの王子ヘンリー王女ルミエールがいたはずだ。彼らがその騒動に巻き込まれていないはずが無い。

 王城で敵に襲われたとき、自分にしがみ付いて震えていた少女。ソルディスに対する純粋な思慕がどことなくくすぐったくて、気になる存在ではあった。

(あの素直さ、純粋さが、あの王女レティアに有ったら・・・少しはましな性格になっただろうに)

 ふと自分と似ていて異なる境遇を持つ友人を思い出し、暫し感慨に耽る。

 自分と同じ剣の師匠に学んだ彼女の剣の腕は自分が一番把握している。命を嫁して異母兄フェルスが守った『命』を彼女はきっと守り通してくれるだろう。

 まだ続く、この内乱の日々の中でも。

(時の森は閉鎖されている・・・・でも、通路は作らなくちゃ・・・・)

 遠くからでも解かる厚い、厚い霧を用いた『ソリュード』の結界。

 その中に閉じ込められた獲物バルガスを逃がさないようにしながら、里と外界との通路を開けてあげなければならない。

 遠方からの行う作業は苦難を極めることが解かっていたが、自分の父が原因した状況を改善するためにソルディスはその作業のために集中し始めた。

主人公に戻ってきたと思ったら、レティアたちです。

旅立ったと思ったらどうやら足止め食っていたようで、書いている自分でも脳内の彼らに少し面食らってます。

でも、確かに記憶消されたところで恐怖は消されていませんから・・・幼児退行は一時的なもの・・・のはずです。


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