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第三十六話:新たなる出発

ギィンッ!ギィィッ!


 剣戟は暫く続いた。

 当初、自分の賭けたほうだけを応援していた人たちも、二人の素晴らしい試合に息を呑み込んでいた。

 どちらも素晴らしい剣の腕だ。多少力任せに打ってくることのあるクラウスとそれを受け流しながら、自らも鋭い切っ先で切り込んでいくスターリング。

 なかなか終わりそうにない試合は、やがてスターリングのスタミナが切れてくることにより状況が変わってきた。

 持ち前のスピードで避けていたのが、いまでは少し受けてしまっている。このままでは惜敗を得てしまう。

 スターリングは一計を案じると、残りすべての気力を篭めてクラウスの胸元へと跳躍する。

 クラウスは寸でのところで何とかその攻撃を避けると、彼の首もとに自分の刃先を突きつけた。

「それまでっ!」

 試合終了を告げるソルディスの声が山村に響いた。

 暫し沈黙の後、クラウスの雄姿とスターリングの敢闘を称えて彼らは声をあげようとした。

「両者、引き分け」

 しかしその行動に水を挿すようにソルディスの試合結果を告げる声が彼らの耳を打つ。

 見るとスターリングは避けられると同時に自らの身をひねり、自分の刃先をクラウスの胸元に突きつけていた。

 一瞬の沈黙の後、割れんばかりの喝采が村中に響いた。

「いい、試合だったね・・・」

 ソルディスの横で見ていたグランテが感慨深げに呟いた。

 それから、横に居る少年王子に視線を落とすとどうするんだい?と目線で訊いて来る。

「・・・・やはり、連れて行く方がいいのかもしれませんね」

 彼はそう言うとゆっくりと隣に居るグランテを見上げた。その瞳にはどことなく遣る瀬無さが秘められている風に見える。

「反対なのかい?」

「僕の運命にあまり人を巻き込みたくないんです」

 自身が騒乱の星であることは自分が一番よく理解している。これから自分が選択していくだろう運命が自分と同じ年の少年の未来にどのように影を落とすのか・・・その未来が怖かった。

「私たちはいいのかい?」

 片方の眉を器用に上げて揶揄してくるグランテにソルディスは静かに目を閉じた。

「あなた方とももうすぐ別れるつもりです。次の街道の別れ道が来たら僕たちだけでガイフィード将軍の下へ行きます」

 予測していた言葉にグランテは一つだけ息を吐いた。

 時守の里への道を止めたときから、この王子は常に独りになることを画策していた。その一歩目がこの一座と別れることなのだろう。

 そしてガイフィード卿の下についたら、彼は兄弟たちとも別れるつもりなのかもしれない。

 今更、グランテが何かを言ったところで彼はこの決意を改めることはないだろう。

「それじゃ、4人分の食料をそちらの馬車に分けて乗せなきゃいけないね」

 彼女は諦めたように肩を竦めて、食荷を管理している男にそれを分けるように指示を出しに行こうとする。

「4人分?」

 自分たち兄弟は3人しかいないのに、どうして言い間違うのだろうと不思議に思って問い返してきた。

 グランテは何がおかしいのだろうかと、指を出して確認をする。

「連れて行くんだろう?スターリングっていう坊やを・・・。だったらあんたら兄弟とその子の分で4人分だろう?」

 まるでそれが決定事項であるかのように宣う彼女に、ソルディスは冷や汗を垂らしながら彼女に質問し返す。

「連れて行くって、僕、言いましたっけ?」

「連れて行ったほうがいいのかもしれないっていっただろう?」

 試合が終わった後に感想のように呟いた一言でそんなことを確定しないで欲しい。ソルディスは反論するように声をあげる。

「あれはっ!」

「あんたが直感で『連れて行ったほうがいい』と言ったんだ・・・自らに降りた予言だと思って、さっさと受け止めな」

 グランテはそれだけ言うとソルディスに背を向け、荷駄馬車の方に歩いていってしまった。

 彼は何とか止めようと考えたが、丁度いい反論の言葉も見つからず、自分たちの馬車に運ばれる4人分の食料を眺めることしかできなかった。




 すべての荷駄を積み終えると、グランテは手伝ってくれた村人たちに礼をいった。

「それじゃ、食料とか金子きんすとかありがとう、恩に着るよ」

 最後に長老と村長にも礼を言う。二人はそれ以上に丁寧に礼を述べるとグランテの傍にいるスターリングとソルディスを見た。

「わがまま言ってすまないが、この子を無事に送り届けて下され」

 ソルディスは丁寧な申し出に渋々「はい」と頷いた。

 自分たちの馬車に彼が乗ることを聞いたシェリルファーナは嬉しそうにこちらを見ていた。クラウスも剣を交わしたことで彼のことを気に入ったのか、同行には不満がないようだ。

 ソルディスはふぅと息を吐くと、今度はしっかりと村長に向き直り、

「それではスターリングの村まで連絡のほうお願いします」

と、頭をさげた。

 彼らがにっこりと笑って承諾するのを確認すると、ソルディスは自分の馬車にスターリングと共に乗り込んだ。

「行くよっ!みんなっ!!」

 グランテの声があたりに響いた。

 村を出る一座を、村人は温かい目で送り出した。

グランテは案外、何でもお見通しです。

一応、やっと長逗留(?)していた村から出ることができました。

実際には1週間も居ないのに長く感じたのは、途中で2章分の話があったからでしょうか。


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