表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/72

第三十四話:大空への脱出

 死に物狂いでこちらに向かってくる雑兵を相手にしながら、ルアンリルは逃げるための頃合を見計らっていた。

 あまり早すぎるとサイラス達の逃げ出すための布石にならないだろうし、遅すぎれば彼が・・・・

(やはり・・・・・・来る、か)

 ある程度離れていても判る強い理力。

 それを隠そうともしないウィルフレッドの気配がこちらに向かってくる。ケイシュンもそれに気付いたのかどうするのかと視線で訊ねてきた。

「これ以上の長居はまずそうですね・・・」

 ルアンリルが近くにいるケイシュンにのみ聞こえるように呟くと、彼はそうだなと同意する。

 本来なら光姫が光の精霊を使用して連絡をくれるのを待ちたいところだが、そんな悠長なことは言っていられない。

 それにこの夜の闇の中では彼女の光の精霊は割る目立ちしてしまう可能性もある。

 だが、もう限界だ。目立つためのパフォーマンスのための炎の柱を作ったルアンリルはまともに彼とは戦えないだろうし、理力魔法を使うのに少し支障がある自分でもあの魔術師ウィルフレッドには勝てない。

「それじゃあ俺が聖体になるから、そしたら首のところに乗ってくれ」

 ケイシュンの言葉にルアンリルは素直に了承した。

 彼はほんの少しだけその事に苦笑すると、静かに自分の額に輝く3枚の鱗に指をつける。

 それと同時に彼の身体が大きな光に包まれ、辺りに突き刺すような魔法が散り始めた。

 ギシギシ・・・という何かが軋む音と、ギッギギギギ・・・・と城が軋む音が重なった。光はすぐに収まり、そこにはケイシュンの変わりに一体の巨大な白龍が現れた。

 その手には剣が変化したものだろうか、電解石アクアマリンの宝玉が握られている。

『さあ、乗れ』

 白銀のたてがみがたなびくその巨体の頭部がルアンリルの前に下ろされた。

 ルアンリルは何の躊躇もせず、龍の傍に寄ると、持ち前の身軽さを生かして鎌首の後ろ辺りの位置に上った。裸馬に乗るときのようにしっかりと内腿を絞め、鬣を手綱代わりに両の手に巻きつける。

「準備できました」

 ルアンリルの言葉と同時に龍は雄たけびを上げてその身をくねり上げた。

 黒い夜の闇、雷を纏った雲、いきり立つ炎の柱、そしてその中で一際輝く白き鱗を持つ身・・・

「あれが、あの臥龍か・・・」

 丁度その場に現れた漆黒の髪の魔術師の声に龍は反応し、その翡翠のような目を彼に向けた。『臥龍』とは面白い名で呼んでくれるものだ。

「行くのか・・・従妹弟殿ルフィーナ

「ええ、私はソルディス王子の臣民ですから・・・」

 ケイシュンに跨った状態でルアンリルは従兄ウィルフレッドを見下ろした。

 優しい・・・『従兄あに』だった。それは今でも変わっていないのかもしれない。

 しかし、道はすでに別ってしまった。自分は彼と共にソルディス王子に・・・何よりもクラウス王子に剣を向けることなど出来ない。

「次に逢うときは戦場だな・・・?」

 ウィルフレッドの決別の言葉にルアンリルは視線を落とした。

「それまでに、貴方に一矢報えるぐらいに強くなります」

 今のままでは決して彼に勝てないだろう。すべてを棄てるぐらいの覚悟で彼に臨まなければ彼に勝つための道は開けないのかもしれない。

「楽しみにしている」

 まるで自分の心を見越したみたいに告げられた言葉に、ルアンリルは静かに目を閉じ「行きましょう」とケイシュンに告げた。

 龍は大きな咆哮をあげ、ずずずっと天空へと駆け上がる。

 ケイシュンの力に呼び寄せられた精霊達が彼の身体に纏わりつくように踊り、風と雨と雷の洗礼を王宮に与える。

 その姿を見送りながら、ウィルフレッドは周りを見渡した。中庭はすでに酷いありさまだった。焼け焦げ、崩れ、そちらこちらに死体や怪我人が転がっていた。

「魔術師たち、降りてきて負傷兵の治療を・・・それからアーシアとサイラス王子、ソフィア王妃がきちんと部屋にいるかどうか誰か確かめてきてくれ。

 自らの手で逃がした二人の不在をもうそろそろ明らかにすべきだろう。

 ウィルフレッドは人に見えないように寂しそうな笑みを浮かべると、自分の現在の居室である王の間へと戻っていった。




 ルアンリルは夜の風の中、ただ静かに遠ざかる王都を見ていた。

 本来の聖長の役目なら命を落としてでも・・・・ウィルフレッドと相討ちなっても彼を止めなければならなかったのだろう。

 だが、それではいけないような気がした。未来が見えるわけではないのに、そんな予兆がルアンリルを逃亡へと駆り立てた。

 王都を脱出した自分を精霊族の長老たちはどう思うだろう。

 彼らはいつだってルアンリルにだけすべての責任を与えるが、ルアンリル自身が出した決断は聞く耳など持たなかった。

 唯一、意見を聞いてくれるのは父親とあの従兄だけだった。

 いろいろと頭の痛いことは山積している。そして自分自身のことだって・・・

『とりあえず、龍族の里でいいのか・・・?』

 考え事をしていたルアンリルにケイシュンが訊ねてきた。ルアンリルはすぐに気を取り戻すと、「はい、お願いします」と答えた。


ルアンリル、辰●子太郎状態です。逃げる二人のバックには「ぼ●や〜よ●こだねんねしな〜」という能動的な音楽が流れていることでしょう。

これでやっと第三章的な王都脱出リターンが終わったので次回からはやっと本来の主人公、ソルディスの話に戻れます。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ