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第三十話:決行の夜

 ルアンリル達は一端外した枷をまるで外れてないかのように装いつつ、夜を待った。

 食事を運ぶ侍女たちはあまりこういう仕事に慣れていないために、枷で繋がれている人物を見ないようにしてその場を去っていく。その行動も誤魔化すのに一役買ってくれた。

 体力をつけるために食事をきっちりと食べ、ただ只管ひたすら夜を待つ。

 夜のとばりがすっかりと窓を・・・城を・・・世界を覆い尽くした頃、ルアンリルは手の枷をもう一度外した。

 隣の牢でもそれを外す音が聞こえる。

 自由を何より愛する龍族が拘束されていることはよっぽど苦痛だったのだろう。前哨戦ともいえる魔術のオーラが牢屋の中から洩れてきた。

 二人は揃って牢の外に出ると階段の方に走る。

 ルアンリルはそこで一端足を止めた。

 昼間、サイラスが見ていた鏡。

 あの王の間やその他の通路に通じていた鏡と似ている。

 もしかして、と思いルアンリルはソルディスがしていたように順番に鏡の淵を押した。

「おい、何やって・・・」

 突然のルアンリルの行動に文句を言おうとしたケイシュンの耳にカチリ・・・と鍵が開くような音がした。

「秘密の通路です・・・こんな牢にも通じてるとは思いませんでしたが・・・」

 ルアンリルはそういうと鏡の裏の部屋を確認する。適当に整理されたそこには数本の剣と路銀が用意されていた。

「少し拝借しましょう」

 お金を借りたことはソルディスには後から断りを入れればいいだろう。

 ケイシュンもそれに習って部屋に入る。立てかけてあった剣の中から自分が使えそうなものを取り出すと、腰に携える。

 ルアンリルは近くの松明に明かりを灯してから入り口を閉め、これもソルディスがやっていたのを思い出しながらきちんと閉める。

 それから反対側の扉に向かいその横の壁にかかった鍵を取る。鏡の扉とは違い重たい構造の扉を開けると上りの階段が目に入った。

 ルアンリルはケイシュンを促して階段の方へ移動すると思い扉を閉め、施錠した。

「とりあえず、下りましょう。どこか適当な部屋に辿りつける筈です」

 その言葉にケイシュンは肯くとルアンリルから松明を受け取りどこまでも続く階段を下り始めた。


 牢からの道は全く分岐もなく一つの部屋へと通じていた。鏡の中から覗いてみるとどうやらどこぞの倉庫の一角のようだった。

 ルアンリルは先ほどの鏡の扉のように開けようとしたが、押すボタンがない。

「その鍵じゃないのか?」

 先ほどの部屋を出るときに使った鍵を示されたルアンリルは今度は鍵に対応する穴を見つけようとしっかりと扉を探り始める。

 鍵穴は扉の下のほうにあった。この通路に入るときに使用した鍵を差し込みまわすと少しの反動で扉は開いた。

 倉庫に人がいないのを確認した後、ルアンリル達はすぐに倉庫の中に忍び込み、鏡の扉を閉めた。 ついでに自分の持っていた鍵を使用して施錠も済ませる。

 鏡は倉庫の入り口からは見えにくい位置にあったが、念のために細心の注意を図る。

 今、見つかってしまったら危険を冒してまで鍵を盗み、鍵を届けてくれた二人への恩義に反する。

「あ、これ」

 ケイシュンはその倉庫の隅に数振りの剣を見つけた。それは宝石で飾られてはいないが名剣呼んでも過言でないものばかりが無造作に置いてあった。

「やった俺の剣だ」

 取り上げたのは一本の質素な剣だった。

 つばの両側に水色のアクアマリンが嵌め込まれその淵を黄金で飾ってはいるがそれ以外の装飾がない普通の剣だった。

「今、族長をやっている伯父さんがくれた剣・・・『ライル聖剣ヴェーダ』だ」

 こんな剣が無造作に放ってあるということはこの剣を見た人は『宝剣』という飾り様の剣しか目に入っていなかったようだ。

 それならば、と自分の剣をその中で探してみたが、あいにく『サーラ聖剣ヴェーダ』はここにはなかった。

 ルアンリルがウィルフレッドと対峙したときに携えていた剣をあの男がそうそう見逃すはずはない・・・

「聖長殿・・・これ、炎の剣?」

 自らの剣に導かれるようにケイシュンが壁の高い所に飾られていた、質素な一振りの剣を持ってきた。

 装飾は雷の聖剣と然程変わりがないが、淵の部分に真っ赤なルビーが飾り付けられ、その周りは黒曜石で彩られていた。まさしく、ルアンリルが求めていた炎の聖剣だった。

「ありがとう・・・」

「ど、どういたしまして」

 素直に礼を言うルアンリルにケイシュンは少しだけ顔を赤らめながら、照れたように笑って見せた。薄暗い牢の中では気付かなかったが、何処から見ても遜色のない美少女だ。

(そういえば、クラウス王子と恋仲だっけ)

 恋をする女の子はやっぱり可愛いのだろうか。

 だが、その恋が試練の恋であることをケイシュンは知っていた。もちろん目の前の少女だって理解しているだろう。

 王族と精霊族が結ばれるのは『禁忌タブー』とされている。自分とかつての恋人が引き裂かれたように目の前の少女と王子も引き離されるだろう。

「どうかしましたか?」

 首をかしげてこちらを見上げてくるルアンリルに、彼はなんでもない様に振舞ってみせる。

「いや、あの・・・いつぐらいに決行するのかなぁと」

 ケイシュンの言葉にルアンリルは唯一ある窓の傍に移動した。

 息を潜めて、そこから見える兵たちの様子を観察する。彼らは取りあえずの仕事を終えた安心感からかどうもだらけているみたいだ。

 今度は扉の傍に移動し、外の様子を耳で確かめた。

「今すぐに始めても大丈夫そうですね。今私たちがいる場所もだいたいわかりましたし・・・中庭に出て大きな炎の柱でも上げてみますか」

 にっこり笑うルアンリルに彼は「おう」と答えた。

とうとうルアンリルたちの王都脱出大作戦が始まります。

ちなみにフィアソード(炎剣)は魔法の名前、サーラ・ヴェーダが剣の名前です。サーラがエレメントを示し、ヴェーダが聖剣を示します。


修正でケイシュンがルアンリルを狙っている場面は外しました。

後々考えると、必要ないし、ケイシュンの性格にちょっと矛盾が出てくるので・・・その代わり少しだけケイシュンの設定をはやだししています。

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