第二十五話:つき付けられた真実
サイラスが目を覚ますと部屋の外はすでに闇に包まれていた。
どうやら大分寝ていたようだ。
辺りを見回すと部屋の隅で邪魔にならないようにアーシアが本を読んでいた。表紙から察するに小難しい兵法書のようだ。たおやかな容姿からは考えつかない本を彼女は真剣に読みふけっている。
「あの・・・」
「あ、目が覚められましたか」
声を掛けられてようやくサイラスが目覚めたことに気付いたアーシアは読みかけの本をテーブルに伏せ、彼の元に来てくれた。
「つい先程、夕餉が届いたところです。温かい内に召し上がりませんか?」
確かにベッドの脇には料理の乗ったワゴンがあり、まだ湯気がたっていた。それに正直な腹がグゥゥと鳴って答えた。
途端に彼は顔を赤らめる。視界の端でアーシアを確認すると彼女はサイラスに顔を見せない様、そっぽを向いていた。
しかし、その肩が笑いを堪える為に震えていてる。
「・・・いただきます」
彼が伐の悪そうな顔で返事をすると、彼女はなんとか笑いを治めてサイラスに給仕する。
アーシア自身も食事はしてなかったようで、一通りの給仕を終えると、ベッドの脇の椅子に座りながら食事を始める。
同一の目的を持っているためか、然程気負いせず話が出来る。その事実に互いに少しだけ不思議に感じる。
「地下にはルアンリルも捕らえられています。いずれはあの子も開放し、私はこの城を去るつもりです」
アーシアの情報にサイラスは少しだけ憂いのある顔をした。
やはりルアンリルは自分たちと別れた後、無謀にも単身でウィルフレッドに向かっていったのだろう。そして自分たちとは違う待遇で捕らえられている。
場所を聞くと、そこは魔術師専用の牢獄で、その上精霊との交信を封じる手かせを嵌められているという。
それにしても、何故自分は牢に入れられないのだろうか。サイラスは再び疑問に思った。
幽閉されてもおかしくない立場であるというのに思った以上に拘束らしい拘束はされていない。
「母は?」
「王妃さまは御自室での軟禁だと聞いてます。一応、あんな兄でも王族には経緯を払うみたいです」
アーシアはサイラスの質問に出来る限り的確に答えをくれた。
城内を自由に動けるようになったものの、彼女自身、常に監視されている状態だ。その中で知りえた情報を元に、彼らは次の行動をどうすべきか考えていた。
「ほう、仲良くなったみたいだな」
アーシアの思考を遮るように、からかうような声が響いた。
食事を殆ど終えたところでノックもなくウィルフレッドが入ってきたのだ。
「部屋の住人の許可を得ず入ってくるとは失礼ですよ。兄上」
アーシアは先ほどまでのにこやかな雰囲気を潜め、まるで天敵にあったように威嚇した。
「叔母と甥が仲良くしている姿などこれぐらいのことをしないと見せてくれないだろうからな」
ウィルフレッドはそういうと二人で同じテーブルから食事をしている二人を観察した。
彼女たちは彼が発した言葉の意味が掴めないようで、きょとんとした風貌で彼を見上げていた。
やがてサイラスの顔が少しずつ青ざめ始める。自分が聞いた時見と星見の予言を出来る限り思い出そうと頭の中の引出しを拘束で展開する。
彼らが言ったのは『王妃の生んだこの一人だけが王の子ではない』・・・『クラウスは第二王子』の二つだ。
自分自身、自分の出生を疑ったことはなかったので、ソルディスがあの狂った王の血を受け継がないと思っていた。
しかし、もし、あの王に他に第一王子がいたら・・・それを、あの男が知らないとしたらどうなるのだろう。
「ぼくが・・・ソルディスの・・・不幸の、原因・・・?」
考えていると吐き気がしてきた。胃がせり上がり先ほど食べた食事が逆流しそうになる。
「兄様・・・いったい、何を仰りたいのです?」
一言呟いて青ざめきったサイラスにアーシアも言葉の意味を察し、急に突拍子もないことを言い出した兄に問いただした。
「ソフィア王妃は、結婚する前に一度だけ私と関係を持った。その時の子供がサイラスだよ」
突きつけられた現実にサイラスは悲鳴に似た叫び声を挙げ、机の上に残っていた料理を床に投げつけた。
ウィルフレッドがサイラスを仲間に入れようと画策しています。
しかし、あまり重大な真実だったため妹と息子はパニックを起こしています。