第二十三話:王都の捕囚
サイラスは自分の身体に伝わる車輪からの振動で、自分が王都に入ったことを悟った。
どういう経緯なのか、自分を捕らえたオーランドは度重なる尋問はするが拷問と思しき暴力は揮わなかった。
ただ食事は概ね少なく、1日1食・・・気が向いたときに与えられた。お陰で身体に力が入らず、少しずつ筋肉が落ちてきている。
ぼぅっとしながら考えていると、馬車が止まった。
「出ろっ!」
兵士の声に顔を上げるが、身体を起こす力が余り残っていない。
しかし声をかけた男はそれをサイラスの反抗だと思い、馬車に乗り込んで無理矢理立たせようとした。
「あ・・・」
だいぶ痩せた彼の身体に、兵士は態度を切り替えて肩を貸すような形で王子を立たせる。
もう一人入ってきた兵がサイラスの足に繋がれていた枷を外すと、彼らは「大丈夫ですか?」と小さく訊いてきた。
それにこくりと肯くと兵士達はサイラスの両脇で支え、馬車から下ろした。
「これは、どういうことだ?オーランド」
弱りきっているサイラスに出迎えに来ていたウィルフレッドが刺すような視線で部下に問う。
オーランドはどうして怒られているのか判らないという風体だ。
せっかくバルガス王への情報を持つ王子を捕らえたのだ、尋問・拷問は当たり前だし、捕囚に食事なんか与えることなど勿体無い。ウィルフレッドの命令があったから拷問は止めたのに、何が悪かったのか・・・オーランドの周りにいる者も彼と同意見のようでおろおろとしている。
「しかし、バルガス王の居場所を・・・」
「サイラス王子はそれを教えてくれたのか?」
自分の弁明を言おうとしたオーランドの声を遮り、ウィルフレッドがゆっくりと質問した。
「ええ、もちろん・・・」
食事を与えなくして3日目、サイラスは2箇所ほどの場所をオーランドに伝えていた。ウィルフレッドの許可が出たら自らその場所に出向き、偽者をつかまされたお礼をしてやろうと思っていた。
「それは嘘だな。サイラス王子が答えたとしても、いなかったとしてもだ」
ウィルフレッドはオーランドが出そうとした書類を叩き落とすと、忌々しそうにそれを踏みにじる。
「何故・・・」
喘ぐように言うオーランドにウィルフレッドはこの2,3日で得た情報を彼に教えた。
「すでにあの革命の日に王と王子たちは別のルートを通ったことが判明している。この王子は兄弟たちと逃げていたはずだ」
サイラス王子の肖像画を見せながら、絵描きに彼の女装姿を描かせて検問をしていた官吏に見せたところ数人がその顔に反応した。特に馬車の内部を検査していた兵士から、彼が他に三人の少年少女と同じ馬車に乗っていたと言っていた。
これによりバルガスは従者のみをつれて山を越えて、王子たちは4人揃って門を出たと判断された。
「しかし、そのような者は一座には・・・」
その事実に驚愕したオーランドは自分が検閲した一座を思い出してみた。
居たのは馬車の外でごろ寝していた用心棒とサイラスに気を使っていた占い師の娘、後は踊子とそれを取り仕切る女主のみ。
確かに用心棒の顔を全部見たわけでもないし、荷物の中はざっとしか探っていない。
しかしどう考えてもシェリルファーナ姫が隠れる場所はありそうだが、他の二王子が隠れる場所などなかった。
「先に出立したか・・・一座の中、上手く隠れたんだろう」
『隠れた』の言葉に、サイラスの肩が少しだけ揺れた。
それを見逃さなかったウィルフレッドはオーランドに嘲りの笑みを向けた。
「目と鼻の先にいながら、ソルディス王子たちを逃したわけだ」
「今すぐ・・・一座を追います」
すぐにでも出立の許可を得ようとしたオーランドにウィルフレッドは呆れ、彼に背を向けた。
「遅いな・・・そんな危険なものと一座がずっと一緒に居るわけないだろう。適当なところで分かれているだろう」
彼は最後に一度、オーランドを振り返り冷たい視線で目前からの退去を命じる。
そしてサイラスを支えている兵士に指示を出す。
「サイラス王子は、アーシア姫の所へ連れて行け。それと食事の準備・・・消化の良さそうな物を食べさせてやれ。
こんな弱っていては、詰問すら出来ぬ」
最後にイヤミの一つをつけて、ウィルフレッドは颯爽とその場を去った。
第三章的な部分はサイラスの話です。時間的には霧の森の中でルミエールが襲われている途中ぐらいの時系列になると思います。
暫くは、サイラス・アーシア・ルアンリルの行動で話が進みます。