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第十七話:王女への尋問

 拘束したルミエールを前に、バルガスはおかしくて仕方なかった。

 これは最高の幸運だ。新しくなったロシキス王を操るための手駒を手に入れたのだから。

 仲の良さそうな兄弟だったから王位継承を持つ幼いヘンリーも、あの鼻っ柱が強くバルガスを隣国王と認めないレティアも多分、いや、絶対にこの辺りにいるはずだ。

 目の前の少女を人質に使えば彼らの動きを制することなど容易い。

「すぐ傍に他の兄弟もいるはずだ、探せっ!」

 バルガスの言葉に彼に付き従っていた従者が困惑の表情を浮かべた。

「今はまずいです。これだけ霧が出ていると見つける前にこちらが迷い、森に飲まれます」

 彼の言葉に周りを見ると先ほどよりも深い霧が彼らの周りに満ちていた。濃厚なミルクのように深い霧は森の中にいる王子・王女たちを巧みに隠しているみたいだ。

「仕方ない・・・とりあえず先に王女への尋問に入るか」

 バルガスの言葉に回りにいた男達は色めき立った。

 13歳の王女はその美しさはることながら、まだ誰にも汚されていない固い蕾にも似た清純さと男を誘うような見事な身体を持っていた。

 追われたことにより乱れた髪は、怯えきった表情に相俟って、男達の嗜虐心を誘う。

「誰と、ともに逃げていた?」

 あの内乱が起きる直前、この王女がソルディスたちと一緒にいたことは知っている。罠にはめようとしたルアンリルの動向を見晴らせていた間者が偶然、遠方から彼女達がともにいるのを見つけたのだ。

 もしソルディスが一緒にいるのなら、誰にも知られずに葬り去る事ができる。

 だが肝心の王女は頑なに口をつぐみ答えようとしない。

「私の息子達と共にいるのではないか?」

 バルガスはそう問いながら震えている少女の顎を掴み、強引に視線を合わせる。

 ルミエールは大きく頭を振り、その事は否定する。

 バルガスはその問いに面白く無さそうな顔をしたがすぐに気を取り直し、恐怖で涙を浮かべている王女の顔に自分の顔を近付けた。

 彼女は逃れようと身を捩るが、拘束された身体では中々それもかなわない。

「美しい王女よ・・・な。我の元に嫁いできた日のソフィアを思い起こさせる。だがあれとは違い、お前は他人の手に汚れておらぬ。我が后に迎えるには丁度いい」

 言葉の意味を飲めず、だが危険を感じる彼女は「ひぃっ」と小さく悲鳴をあげる。

 助けて欲しかった。

 守らなければいけないのに、この恐怖から救われるのなら悪魔にでも魂を売り、助けて欲しいと願ってしまう。

「た・・・・すけ・・・て・・・ヘンリィ、レティア・・・フェル・・リュート」

 守らなければ成らない者の名を呼びながら彼女はぎゅぅっと目を閉じた。

 バルガスはその様子に面白がるように彼女の着ていた服を力任せに破く。

「たすけてっ!いやぁっ!!誰かぁっ!!」

 誰でもいい・・・そう願う彼女の瞼の裏に、あの王城で庇ってくれた黄金の髪の少年王子の姿が浮かぶ。

『・・・大丈夫、護るから』

 自分たちを茂みに隠し、大人相手に剣を振るった彼。襲いくる大人たちを切り伏せているのに、不思議と彼のことは怖くなかった。

「助けてっ!!ソルディス王子っ!!助けっ!!」


バシッ


 急に息子の名前を叫んだルミエールの頬をバルガスは打った。

 そして先ほどよりももっと黒くて悪意に満ちた笑みを浮かべて彼女に圧し掛かってくる。

「王女は『あの化け物』が好きみたいだが・・・やがてそんなことも感じられぬようにしてやろう」

 化け物・・・そう言われるソルディスよりも、目の前の男のほうがよっぽどそれに近い。

 ルミエールは最後の勇気を振り絞る。彼が自分に触れたら、自ら、命を絶つことを自分に誓う。

「ぎゃあああっ!」

 突如としてあがった悲鳴にバルガスは顔をあげた。

 ルミエールは少しだけほぅっとしながら声のした法をみた。

 尋問をするバルガスたちを取り囲むように巡っていた霧が声のした方だけ薄くなっている。鳴り響く悲鳴は一つだけでなく、今度は霧の濃いほうから響く。

「何事じゃっ!」

 怯えて動けないだろうルミエールを放って、バルガスは先ほどまで自分たちの行いを見ていた貴族に問い正す。

 彼は怯えたように「わかりません」と答えた。

「霧の中を自由に動きながらこちらを襲っているものがいます」

 他の貴族の言葉に、バルガスは眉を釣り上げた。

 他のロシキスの王子たちが来たのか・・・それともこの霧の結界を張った化け物が姿を現したのか。どちらにしろ狙いは自分のそばで怯えているこの少女に違いない。

 ふたたびルミエールに手を伸ばそうとしたバルガスの喉元に向かい、霧の中から刃が突き付けられる。

「チェックメイトだ。バルガス王」

 現われた見知らぬ男にバルガスは盛大に舌打ちした。

ルミエール一世一代の大ピンチです。

しかし助けに来るのは白馬に乗った王子様でもなく、少々年を食った星替ラル・ソリュードですけれど。

当初の話ではフェルスリュートはもっと普通の人で、襲ってきたのもありきたりな(?)山賊だったのですが、彼が『特殊ちゃん』になってしまった所為でバルガス王の登場とあいなりました。

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