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第十四話:鎮魂の宴

 辺りに闇の帳が下りたところで集落の中ほどにある広場に祭壇が設けられ、急遽組み上げられた櫓に炎がともされた。

 踊子は豊饒の祭りの時とは違い輝石の装飾は一切つけず、変わりに小さな鈴を腕の周りや足首などに沢山巻きつけている。黒と青を基調とした薄紗の布が揺れるたびに、シャラリシャラリと静かな音が、辺りを満たしていた。


シャン・・・・シャン、シャン、シャシャン・・・


 グランテの持つ月鈴のの音に合わせて彼女たちは祈るように静かに踊り始めた。

 宵闇の中で彼女たちのつけている鈴の音が響く。

 やがてそれにあわせて笛の音が入り、弦楽器の音、太鼓の音と段々音楽が重なり紡がれ始める。

 彼女たちは、音にかき消されないように自分たちの身体についている鈴を震わせ、ただ一心に踊り続けている。

 彼女たちの身体から飛び散る汗が、炎から飛び散る火の粉と共に天へと昇る。その光を見ながら、村人たちは亡くしたばかりの家族の冥福を願う。

「悲しい、踊りだな・・・」

 静かに見ていたソルディスの耳に、クラウスの声が入ってきた。彼はソルディスの忠告を受け、先ほどからずぅっと服喪の面をつけていた。

「火の粉が、星になり森の精霊の元へと亡くなった人の魂を連れて行く。本当はその場所でやったほうがいいんだけど・・・まだ彼らには家族を失った村へと戻ることなどできないだろう」

 だからこそ、せめて遠くからでも祈りの踊りを献げる。

「穢れの地には精霊は入れない・・・この踊りが彼らの魂に届き、死した土地から抜けてくれればいいけど」

 ソルディスの言葉に呼応するように森の奥でいくつもの光がふわりふわりと浮かび始める。ソルディスが驚いて横を見てみると、クラウスがぼぅっとしながらその様子を眺めていた。

 光の周りには森から放出される緑色の光が重なり、癒すように包み込んでゆく。

「幻想的、ですね」

 いつのまにかソルディスの横に来ていたスターリングが、魂の光を目を眇めながら見ていた。

 祈りの踊りを踊りつづける一座の人間以外も、突如として起きた現象に涙を流し感謝の祈りを捧げている。

「いずれは僕の魂もこうなるのかな・・・」

 スターリングの言葉に、ソルディスは「遠い未来のことだけどね」と付け加える。

「ありがとう・・・僕の友人も多く殺されたんだ。だから、ほんとにありがとう」

 ソルディスの父が起こした惨劇と知りつつも、感謝の意を述べるスターリングにソルディスはただ無言で肯き、視線を森へと戻す。

 彼女たちの踊りは、光がすべて消えるまでずぅっと続き、村人は一座に最大の拍手を送ったのだった。




 大将軍・ガイフィードは砦の一番高い位置にある自室で王都のある方向を見ていた。

 国境を守るの自分の所にその内乱の報が届いたのはつい先日だった。起きてからすでに10日も過ぎてから届けられた知らせに、彼は握りこぶしを作り怒り出したい心を静めた。

 とりあえず、いつもより多数の間諜を放って、ディナラーデ卿の動向と王子たちの足取りを追うように指示を出して結果を待った。

 伝えられた情報ではソルディス王子は未だ捕まっていないらしい。バルガス王も・・・上手く逃げているとのことだ。

 またディナラーデ卿は王都から動かず、彼に組した貴族達がこぞって王族の探索を行っているとのことだった。

 これの情報ではいったい何が起きているのかがわからない。

 だが、何かが起こりそうな予兆だけは常に彼を襲い、苦悩させる。

「閣下・・・よろしいですか」

 部屋の入り口から副官であるストラウムの声がして、彼は自分の思考に終止符を打つ。

 入室の許可を与えると、彼はおもむろに部屋に入り一礼をした。

「ガジェットからの連絡はないか?」

「まだです。内乱に巻き込まれたのは間違いないと思いますが・・・」

 無事で居るのなら何がしかの連絡が欲しかった。二人の心配は逃げた王子よりも先に自分たちの部下である青年に向かった。

 彼が将軍の使いとして王子の誕生の宴に出かけたのは、砦の中でもこの二人しかしらない。他の者たちは彼がどこかに出かけ、内乱の混乱の所為で戻ってこれないだけだと思っている。

 彼らは王子と、そして自分たちの部下のことに思いを馳せて、王都の方へと再び視線を向けた。

「あれは・・・なんでしょう」

 いくつもふわふわと白い光が舞い上がっては、緑の光がそれを包む・・・地平の下のほうで繰り返されるそれは星の瞬きにも似ている。

「鎮魂の宴が行われているのか・・・・」

「方向としては精霊の森の方ですね」

 二人は静かに目を閉じると天に・・・森にと還っていく魂の安らかならんことを祈った。




 森の向こうがぽぅっと明るくなったのを見て、フェルスリュートは静かに目を閉じた。

 自分の周りには地面でも寝ることが出来るようになったロシキスの王子・王女たちが眠っている。

『鎮魂の宴・・・』

 星を見ることの出来る彼にはその光の一つ一つが人の姿に見える。深く探れば、その人の人生やしに方まで見ることができるだろう。

 祈りの源を見ると自分の見知った星が数個、そこに見えた。彼らが森のどこかで死んだ魂を救うために宴を開いたようだ。

『あの男から、生まれた割には本当にまともな王子に育った』

 誰にも話してはいないがフェルスリュートにとりバルガス王は憎悪の対象だ。その王子たちに対しても同様に嫌悪の念を持っていた時もあった。

 だがここ数年見ている限り、王子は誰もあの男からの狂気を引き継いでいない。

 元々血が遠いサイラス王子はもちろん、クラウス王子もシェリルファーナ姫もそして何よりソルディス王子があの男とは違うものだと知った時、彼は王国の変革を信じた。

『あんたも、そのはずだよな・・・王子の師匠・・・』

 フェルスリュートは自分の親友の物静かな微笑みを思い出す。ソルディス王子のためならどんな事をも厭わない彼が、この内乱の後、彼をどうやって守るのか考える。

 瞬く星の中に、自分の星、彼らの星、すべてを見、その行く先に小さく笑う。

「まだ、起きてるのか?見張りなら、変わろうか?」

 いつの間にか目を覚ましたレティアが彼に問い掛ける、彼は静かに首を振ると光の方を指差した。

「あれは?」

「鎮魂の宴ですよ。誰かが死者のために祈り、踊っているのでしょう」

 幻想的だが、どこか悲しい光に彼女は「そうか」と返し、ロシキス風の祈りの型を取る。

 世界に返り、やがてまた生まれ来る魂が少しでも安らかであるように、と。フェルスリュートも彼女に追随するように死者の魂へと祈りを捧げた。

迷走編の第一章にあたる精霊の森の章が終わりました。

これで殆どの主要人物は出てきているような気がします。

これから暫く、レティア達中心で話が進みます。

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