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第十三話:仮面を外す者

 ソルディスはグランテの馬車を出ると先ほどの女性を探して村を歩き始めた。

「あ。先ほどの占い師の・・・」

 長老の家の中で見かけた屈強な男たちが突如現れた少年に目を見開いた。

「女の人は・・・?」

「そこです」

 ソルディスの短い問い掛けにその中のリーダー的な存在になっている男が答えた。

 どうやら彼女の夫らしい。彼女を見る眼が悲しみに満ちている。

 ソルディスは彼女に近づくとぼぅっと遠くを見ているその頭を自分の両手で挟んだ。

 自分の目と彼女の目が合うようにして、小さく小さく問い掛ける。

「・・・僕の声、聞こえますか?」

「あ・・・・ああああ・あああ・あ・あ・ああああ・」

 今までの作られた少女の声ではない、少年らしい声に一同が驚く。

 女性は目を覗き込まれた瞬間から瘧にかかったように震えはじめる。

「心の奥へと入ってしまったあなたを出します」

 少年の身体が淡く金色に光だす。

 理力魔法とも精霊魔法とも違う、時守の力を有する者独特の魔法の色だ。

 光は少年の身体から女の身体へと侵入した。

 瞬間、彼女の目が焦点を取り戻す、それと同時に空間を引き裂くような悲鳴が辺りを支配した。

 ソルディスは彼女の目の上に自分の手を乗せると静かに違う光を放ち始める。今度は蒼い光が彼女の中に取り込まれる。

 それがすべて体に入る頃には彼女は大人しくソルディスに身を預けていた。

「何を、やったんだ?」

 彼女の夫は訝しみながら、少年に問い掛ける。

「夢の支配を変えました。記憶を探り、最悪の部分のみ夢にでないように施錠したんです。精神的には狂っているのかもしれませんが、彼女はこれから厭な夢など見ず、あなたと家族とともに過ごした幸せな時の中に生きていきます」

 その言葉のとおりに、彼女の顔は彼と共に過ごした時の様に穏やかで優しい顔へと変化していた。

「そうか、彼女のあの悲鳴をもう聞かなくて済むのか」

 彼は大粒の涙を浮かべながら、自分の妻を抱きしめた。その顔が安らかに微笑む。きゅぅっと抱きしめ返してくれる腕はまるで正気の頃の彼女のようだった。

 他の村人たちもその姿に安堵の表情を浮かべた。

 彼らにとり彼女の悲鳴は自分の殺された家族の悲鳴と重なり、それが彼らの心を強い後悔の海に引き戻させていた。

「今日、僕たちの一座が鎮魂の踊りを舞います。どうか見ていってください」

「ありがとう・・・嬢ちゃん」

 優しいソルディスの言葉に、その場にいた全員の顔が和む。彼は小さく笑うと

「僕は、男です」

と、自分の性別をばらした。

 村人たちは美しい少女に見える彼の容姿をまじまじと見、破顔した。

「そうか・・・うちの死んだ息子と同じぐらいだなぁ」

「うちの娘とおなじぐらいだと思ったんだが」

 亡くなった自分の子供たちと重ね合わせて、彼の頭を優しく撫でる村人たちの心に小さく灯った温もりをソルディスは悲しい気持ちで感じていた。

 もし彼女を・・・・彼らの家族たちを奪い、辱め、殺害したのが彼の父親だと知ったらどうなるだろうか。

 それがわからないほど馬鹿ではない。

「それじゃ、僕も準備がありますので」

 ソルディスは一度頭を下げるとグランテの馬車に走っていく。その表情にはどことなく遣る瀬無い苦悩が浮かんでいた。

「「うわっ・・・・・ととととと」」

 馬車に向かうソルディスの前に、長老の家で出会った少年が馬車の陰から飛び出してきた。

 突然のことに双方、ぶつからないために同じ方向へと避け、互いの身体を掴む形で支えあって転ぶのを止めた。

「ご、ごめん。ぶつからなかったですか?」

「あ、うん、ごめん」

 互いに謝りあって、転ばないように掴んでいた手を離す。

 ソルディスより少しだけ背の高いスターリングは少し覗き込む形で彼の表情を見、その目を見張った。

「どこか、痛いのですか?」

 ソルディスは自分で笑っている・・・笑えていると思っていた。

 実際、周りにいた人間も彼が普通どおりに笑っていると思っていた。

 だがスターリングにはその表情がどこか傷ついていて到底笑っているようには見えなかった。

「本当に、大丈夫」

 更に笑って見せようとすると、今度は起こったようにソルディスの腕を掴み自分の間借りしている部屋へとソルディスを連れて行った。

「いつも、そんな顔してるの?」

 他人事なのに、それも今日まだあったばかりの自分に対して心配しながら怒るスターリングの感情にソルディスは正直戸惑った。

 彼が自分をこの部屋まで連れてきたのはソルディスが兄弟の・・・親しい人のいる前では笑うことしか出来ないと察知したからだろう。

「僕の笑顔おかしい?」

「え。笑ってたの・・・・?それ」

 スターリングには彼の表情が凍っているようにしか見えなかった。

 悲しくなりすぎて、どうにもできなくてただ感情を押し殺して、凍らせたそんな表情・・・先ほど長老の家で笑っていたのとは全く違う、辛い辛い表情に、彼は悲しくなってしまった。

「スターリングは全滅した村とも交流があったの?」

 表情を映さない鏡のような瞳が、じぃっとスターリングの顔を見ていた。

「時々、仕事てつだいはしに行ってたよ」

 下手な敬語を止めて、普段どおりに彼はその問いに答えた。

 途端、ソルディスはすぅっ・・・と視線を移動させ、村のあった方へと向いた。その目は現実とは違う何かを凝視していた。

「あの村を襲った人物の中に僕の父親がいるって言ったらどう思う?」

 言葉と同時に自嘲するように彼は笑った。

 泣きそうな瞳で、口元だけ笑いつづける彼の顔は、自分の血に連なる者が起こした惨劇を自分の罪として受け止めている風に見えた。

 スターリングは僅かな逡巡の後、

「あの人たちには黙っておいたほうがいいと思う」

と、手短に答えを出した。

 この状況の中で、いくら女性の精神を救ったからといって彼らの憎悪が収まるとは思えない。

 そしてその憎悪が自分と同年齢ぐらいの少年一人に向けられていいものとも思わない。

「そう・・・・」

 憎悪自体、すべて受け入れようとしていた感のある少年の呟きに、彼はとんっと頭を殴る。

「罪は、それを行った人物が負うべきだ。その男が君の息子だっていうんならまだ親としての責任があるけど、親が行ったことの責を子供が追うべきじゃない・・・これは僕の叔父さんが、僕の兄さんに向かっていった言葉だ」

 兄と自分は父親が違う。兄の父親がどんな罪を犯したのか知らないが、兄はそれを自分の罪であるかのように憎み、悔やんでいた。

 その時に叔父が言っていた言葉に兄はかなり勇気付けられたといっていた。

「いい、叔父さんだね」

 ソルディスはそういうと儚い笑みを浮かべた。

 その言葉をもっと小さい頃から言ってもらえたら、自分はもっと違う者になれたのかもしれない。

「君も宴の準備はするの?」

「ううん、僕は傍観者。一座の人間でもないから・・・」

 スターリングはその答えに然程驚きもせず、「そう」と短く答えた。

「じゃあ、宴が始まるまで、いろんな話をしよう。一座の人間じゃなくてもいろんなところは言ったことがあるんでしょ?僕の兄の格言で『地域の情報を制するものが戦いも政治も制する』っていうのがあるんだ。だから僕はいろんな集落を回って情報を得ているんだ」

 余りにもあっけらかんとすごいことを言い放つ彼に、ソルディスは小さく噴出した。

 それと同じ言葉を彼はとても親しい人から貰っていたから。そしてその口調がどことなく目の前の彼に似ていた。

「いいよ。それじゃ、君の持ってる情報も僕が貰うね」

 やっと普通に笑ったソルディスにスターリングも満面の笑顔で返した。

ソルディスとスターリングの仲が急速によくなっています。タイトルの仮面はソルディスの笑顔、外す者はスターリングを指します。

どこで切るべきか迷っている内に、字数が増えてしまいました。次回はもう少し短い話になるか・・・・未定です。

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