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第十二話:伝えられた惨劇

 サイラスが捕縛され、意気消沈している暇もなく一座はすぐに動き始めた。

「とりあえず、近くの村に行こうか・・・少し情報も仕入れたい」

 グランテの言葉にソルディスは無言で肯いた。

 この先には地図には乗っていないが、10件ぐらいの民家を有する小さな集落がある。

 彼らは精霊の森で暮らす他の村と同じく森の精霊の護符を旅人に売って生計を立てていた。

「なんか、覇気のない村だねぇ・・・」

 覇気がないだけではない。彼らはやってきた一座を警戒している節があった。

 グランテはとりあえず、ソルディスを連れて村の長の元へと出向いた。

 そこには長を勤める老人だけではなく普段は農作業や土木作業で体を鍛えているだろう男が控えていた。

「今年の秋祭りはどのような具合ですか?」

 グランテの問いに長老は静かに首を振る。

「今年は、行いません」

 彼女はその言葉に目を丸くした。

 農耕民族なら秋の収穫を森や季節の精霊に感謝する祭りを行うのは当たり前のこと。よほど村を襲う悲劇がない限りはその事を怠ることなどしないはずだ。

「なにか、あったのですか?」

 占い師の格好をしたソルディスは不思議そうに周りを見渡した。

 そこで一人の女性に視線を止める。その女性は発狂したようにぼぅっとただ一点だけを見つめて、薄く笑っていた。

「あ・・・・・・あああああっ」

 彼の異変に気づいたグランテは視線を凍らせたように女性に注いでいた彼の目を大きな手で覆い、彼の意識を彼女から離した。

「本当の・・・占い師様ですね。すみません。この子はかつてこの村の住人だったのですが、別の村に嫁ぎ、先ほど占い師様が『見た』惨劇にあってしまったのです」

 抱えるようにソルディスの身体を抱きしめるグランテに長老は静かに告げた。

 男達はそのことでグランテ達が普通の旅芸人の一座と判断したらしく、その女性を占い師の傍にこれ以上いさせないように別の家へと運んでいった。

「それで今は外部からの侵入を警戒してるのかい・・・」

 どんな光景をソルディスが見たのか彼女にはわからなかったが、それが衝撃的な光景だったことは震えている彼の身体から伝わってきた。

 しんみりした雰囲気の中、突然家のドアが開いた。見るとソルディスと同じ年くらいの少年が満面の笑みで家の中に飛び込んできた。

「長老っ!お届け物終わりましたよ・・・って、お客さん?外の一座の人?」

「これ、スターリング。行儀が悪いぞ」

 茶色い髪、穏やかな深い藍色の瞳、元気いっぱいと感じさせる少年はじぃっとソルディスを見るとその胸に自分の手を押し当てた。

「あ、やっぱり男ですか」

「間違えてたら、どうするつもりだった?」

 先ほどの厭な幻視を打ち払うような彼の明るさに、ソルディスは正直な疑問をぶつけてみた。

「とりあえず、謝って、平手打ちをくらいます?」

「なんだよ、それ」

 変に間違った丁寧語の、それも疑問系で質問に返してくる彼にソルディスは年相応の笑みを見せた。

 その表情に長老もグランテも目を細める。

「とりあえず、2,3日滞在してくだされ・・・村人の心が少しでも和らぐような踊りを見せてくだされば当村特性の護符や食料をお分けしましょう」

 グランテは長老の申し出に礼を言うとスターリングという少年と楽しげに話しているソルディスに一座に先に戻る旨を伝える。彼は少年に手早く別れを告げるとグランテと共に長老の家を出た。

「いったい、何を見たんだい」

 思い出したくもないだろうが一応、聞いておかなければ成らない。

 グランテのその心がわかっているのか彼は他の人に話の内容を聞かれないために彼女の馬車に向かった。

「彼女の村は理不尽な襲撃に遭って全滅していた。その時、村には老人と女しかいなくて、男達は行商に行っていた。そこに山を越えるルートを通ったバルガス王が現れた」

 淡々とソルディスの口から語られる言葉にグランテの眉根が寄る。

「彼らは時守の里に入る護符を彼らから奪うと老人と男の子供は殺害した。女は自分たちの暴力の捌け口にした後、殺害した」

 ソルディスの頭の中に送り込まれた彼女の見た記憶。

 彼女の記憶から導き出された滅びた村の記憶。悲鳴と怨嗟の声。血の匂い。すべてが鮮明なまでに彼女を通してソルディスに伝わった。

「彼女は致命傷にならなかったから生きていた。生きて地獄を味わった。

 優しかった義父母を殺され、息子を殺され、娘を汚され、自分も汚された。彼女の傍で家族はすべて冷たくなって・・・発狂して村をさ迷っているところを偶然に届け物に来た実家の兄夫婦が見つけて保護した」

 守ろうと伸ばした腕を押さえつけられ、泣き叫び、死のうとしても無理矢理死なせて貰えず・・・村の中で一番美しかった彼女に、男たちは群がって・・・

 あの家の中にいた男性たちは行商から帰り、その村で親・妻・子その亡骸を見た男たちだった。

 彼らはその村に居続けることなどできなくて、亡骸を葬った後、女性の兄夫婦と共にこちらに移住してきた。

「悪かったね・・・いやな情報を読ませてしまった」

「ううん、グランマのせいじゃない。僕は勝手にこういうのを読めてしまうだけだから」

 彼女を発狂させたのは自分の父親。その事実はどこまで行こうとも消えない。

 今までだってあの父がそういう悲劇を生んできたことを彼はその力で知ってきた。

 婚約者のいる女性を監禁し発狂すると野に棄てた。自分と関係を持った女性が娘を連れて現れるとその少女ともども女性を殺そうとした。結婚したばかりの女性の夫を処刑し家族を人質に取り愛人にした。

 そのどれもを彼は父に近づくたびに記憶として読み込んでしまっていた。

「グランマ・・・僕からのお願いです。心が安らぐような鎮魂の踊りを彼女たちにあげてください」

「わかったよ、王子」

 グランテはにっこりと笑うと彼を残して馬車を出て、踊り子たちに今夜の宴の趣旨を伝えにいった。

 ソルディスは頭にこびり付いた惨劇の記憶を振り払うように頭を横に振り、小さく息を吐いた。

第十話でのバルガスの行状をソルディスが自分の異能力で読んでしまいました。どうやら彼の数々の所業もソルディスはすべて知っているようです。

途中から出てきたスターリングという少年は、山賊との一戦の後、生き残っていた男を殺害した少年です。

彼は近隣の村の住人で、両親を無くしており、人手が必要な時期は各村を回り、手伝いや用心棒を、その他の時は家族のいる村に戻り護符作りをしています。

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