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第十一話:五通の手紙

 精霊の森を抜けたレティア達は街道沿いの小さな宿に泊まることにした。

 ここもフェルスリュートの行きつけの宿らしく、明らかに一般市民でない子供を連れている彼に何も詮索することもなく2部屋を提供してくれた。

「明日にはまた時守の里の周りの森に入るから、今日のうちに入浴は済ませておいて、早めに休んでくれよ」

 そういうフェルスリュートは宿に備え付けの風呂でヘンリーを洗い、自分もさっぱりとした風体にする。

 それが済むと荷物の中から便箋を取り出して、何やら手紙を書き出した。

 もしかしたら大将軍への報告書か連絡のための密書かもしれない。

「そうしていると、少し似ている・・・」

 薄汚れていない、不精に伸びてしまった髭もそったフェルスリュートの顔を見たヘンリーは寝床に横になりながら彼の顔をじっくりと観察する。

 やはりこの人は王族特有の顔立ちをしていると思う。

「はあ?誰に・・・」

 誰かに似てるといわれるのを心外に思っているのか、フェルスリュートはじぃっと見てくる王子に問い返す。

「一番似てるのはクラウス王子。次はソルディス王子・・・バルガス王とは少しだけ違うけどその二人にそっくり・・・」

 実際、バルガスとクラウスはそっくりで、ソルディスのみが違う顔立ち・・・王妃の持つロシキス系統の顔立ちをしている。

 しかしこの王子は、クラウスとソルディスに似ていて、バルガスには似ていないとフェルスリュートを称している。

「あははははははは。面白い王子だな」

 何かのつぼにはまったのか、彼は豪快に笑うと寝床の上の王子の頭を豪快に撫でてやる。

「王子は案外、いい『目』をしているのかもしれないな」

 その意味を聞き返そうとしたヘンリーをその場に残して、フェルスリュートは机の上に乗っていた先程まで自分が書いていた手紙を持って来た。

「王子にだったら手紙これを託しても大丈夫そうだ」

 差し出されたそれをヘンリーは不思議そうな表情かおつきで受け取った。手紙はすべて封筒に入っていてすべてきちんと封がされていた。

 宛名をみると3通には短く名前が、後の2通には『息子へ』と『じいさんへ』、とかかれていて特定の人物を割り出すような内容ではなかった。

「俺にもしものことが起きたら、それを彼らに渡して欲しい」

 不吉なことなど言うなと怒鳴ろうかと思ったが、彼の目が余りにも真剣で、何かを知りながらもその道を進むもののそれに見えて、ヘンリーは何もいえなくなった。

「この2通は弟・・・」

 指差されたのは名前が書かれている2通の封筒。

「後は、俺の妻とその腹の中にいる子供と・・・心配をかけた祖父にあててある」

 両親宛がないということは彼はすでに親を失っているのかもしれない。

 フェルスリュートの手紙をヘンリーはいつも身から外さないほうの荷物に入れた。占い師である彼がどんな未来を見てこんな事を言うのか解からないが、今までの行動の中で無駄だったことは一度もなかった。

「どうやって、探せばいいですか?」

 ヘンリーの当たり前の問いにフェルスリュートはにっこり笑う。

「すべての真相が明るみに出るとき、一人目の弟と祖父が誰なのかわかる。そしてその周りに息子を除く全員が集まっているよ」

 予言めいた言葉を残して、彼は自分のベッドに横になる。

 ヘンリーも彼と同様に自分のベッドの上で布団を被る。

「それじゃ、ランプ消すから・・・」

 その言葉と同時に明かりは落とされ、話はそこで打ち切りとなった。




 翌日、ヘンリーが目を覚ます頃にはフェルスリュートはすでに出立の用意を済ませていた。

 彼はこの数日間で慣れた旅支度を済ませると二人で揃って宿屋の奥に仮設置してくれた食卓へと足を運んだ。

「この先が時守の里の森だろう」

 その森はこの宿から然程離れていない位置にあった。食事をついばみながら地図で確認するレティアとフェルスリュート。ルミエールは体力をつけるために、必死に朝食を平らげている。

 ヘンリーは自分の鞄の中の手紙の存在、昨夜のフェルスリュートの態度と願いが気になってはいたが他の人のいる場所では問いただすことも出来ずに、姉と同じくただ黙々と食事を食べることに専念した。

「今度はこっちの護符を掛けてくれ」

 レティアとの話を終えたフェルスリュートは綺麗なネックレスを出した。

 それは様々な色の入ったオパールのような石で出来た護符だった。

「今、時守の里は閉ざされているからな。こういうのがないと入れないんだよ」

 精霊の森を抜けるのにも効果を発した護符の存在に、3人は興味深々だ。

「この家の人間が、時森の里に行商に行くらしくて・・・わけてもらった」

 フェルスリュートの言葉に彼らはにこやかに笑っている。この護符を分けてもらうのにいったいいくらのお金を積んだのだろうかとも思ってしまう。

「貴殿の分は・・・・?」

「俺は、占い師だから護符なしで入れる」

 レティアの問いにフェルスリュートは小さく笑うと心配するなと3人の少年少女の頭を撫でてやった。

フェルスリュート、王子を放っておいて手紙を書いていました。

この手紙はこの後もずぅっと王子が持つ羽目になります。

彼が敢えて宛先を解かりにくくしたのは、この手紙が届く時期を遅らせるためです。


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