第四章 亡国の跡地~Vision in the Mist~ 1話
亡国レインヘブンとは、神の山と呼ばれるシュワレツ山の頂上にある国である。
その国は、魔王が来る前は世界一の人口と力を持っていた国で、この世界の覇者であり、王だった。
彼らは、言霊という独自の魔法を築き、シュワレツ山の頂上から、神様の言葉を聞いていたとされる。
その神様の言葉は、預言書としてまとめられ、現代に残されている。
その預言は、数々の歴史的な出来事を予言しており、その最後のページには、世界の終焉が綴られている。
レインヘブンは、魔王によって、一夜で滅ぼされたとされているが、真実は誰にも分かってない。
―――ただ一つ。確かなことは、レインヘブンが滅んでから、
世界中の言霊使いが魔王によって殺されてしまったということだ。
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・・・・何かがおかしい。
さっきから、フリージアもアレクサンダーさんも、マグノリアちゃん黙っているし、
妖精の国を出てからというものの、何故か空気が重い。
全く、フリージアは何で今更レインヘブンに行こうなんて言い出したのか僕にはさっぱり分からない。
おまけに、なんか霧が出てきたし・・・流石に霧の中登山をするとか自殺行為だから。
「おーい、フリージア。霧が出てきたし、少し、休まない?」
僕は先導していたフリージアに呼びかけた。
「全く、人間ったら、霧の中じゃ目がバカになるのね。だらしないわ。」
・・・そう言われても。魔法で天候を変えることが出来ないクセにそういうこと言わないで欲しい。
まあ、そう反論しても無駄だから余計なことは言わないけど。
「すごい霧ですね。あたりが真っ白です。」
ワトリーがもの珍しそうにあたりをキョロキョロする。
「あんまり遠くに行くなよ、ワトリー。
君は見えていたとしても、僕たちは、遠くは見えないんだから。」
「大丈夫です。僕の目は霧の中でも2.0ですから。」
いや、だから、人の話を聞いてくれって言っているのに・・・・。
ワトリーから見えても、僕たちからは見えないんだってば。
・・・とはいえ、すごい濃霧になってきた。
辺りが真っ白で、近くにいるはずのアレクサンダーさんとか、マグノリアちゃんとか、フリージアも見えない。
見えるのは、白い霧と黒い影だけ。時々、ワトリーの感心する声が聞こえてくるだけだ。
・・・・霧かぁ。
嫌だなぁ。霧っていうのは、妙な力があるんだよな・・・・。特にこの山の霧は・・・・。
と、僕が考えかけた所で、視界の端の黒い影が揺れた。
その影が揺れた所だけ、一瞬だけ霧が晴れて、そこの景色が僕の目に映る。
―――あれは、まさか・・・・・・
そう、そこにいたのは、僕が一目惚れした「あの子」だった。
褐色の肌に、銀色に輝く髪。
間違いない。あの雪の日に、僕を助けてくれた「あの子」だった。
「ちょっと待っていて!」
僕は、いてもたってもいられなくて、すぐに立ち上がり、あの子の元へと走る。
「ちょっと、ロビン!?どこに行くの!?」
フリージアの静止する声が聞こえたけど、今は、止まれない。
とにかく、もう一度あの子に会いたかったのだ。
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「ちょっと、待っていて!」
ロビンの声が聞こえる。
・・・あいつ、この霧の中、どこに行こうとしているんだ。
辺りを見回してみたけど、真っ白で何も見えねえ。
近くにいるはずの奴らも見えねえし、本当、どうなってやがるんだ。これ。
ふと、視界のはじに何かが映った。
見間違えるはずもない。あれは―――シーナだ。
「シーナ?」
俺が呼びかけようとするが、彼女は笑って走り出してしまう。
「おい、待てよ!シーナ!」
頭では、幻だって分かっている。
でも、それでも、もう一度、彼女に会えるなら、俺は―――
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「ちょっと!どーなってんのよ!人間は霧の中見えないんじゃなかったの?」
フリージアさんがカリカリと起こってます。
・・・ロビンさんも、アレクサンダーさんもどうしたんでしょう。
こんな霧の中、どこかへ行ってしまうなんて・・・・
「ワトリー!アレクサンダーを連れ戻してきて!アタシはロビンを連れ戻すから!」
「了解しました。」
「マグノリア、そこ、動くんじゃないわよ!?」
そういう声が聞こえ、ワトリーさんとフリージアさんは二人を探しに行ったんだと思います。
(見えないので分かりませんが)
霧は深く、何も見えないほどに視界を覆っています。
・・・・こんな霧の中で、何を見たというのでしょうか・・・・真っ白で何も見えないというのに・・・・
その時、霧が少し晴れて、アレクサンダーさんのような人が立っているのを見ました。
「あれ?アレクサンダーさん!そこにいるんですか?」
わたしは声をかけますが、アレクサンダーさんは霧の奥へと進んで行きます。
「待って!アレクサンダーさん!」
わたしは、彼を追いかけて、霧の奥へと入って行きました。
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シーナを追いかけて、俺は、霧の中を全力で走る。
いくら走っても、彼女との距離は縮まらない。
・・・おかしいな。シーナは鈍足だったはずなのに
。
まるで・・・・これは彼女ではないようだ・・・・。
幻かもしれないと、頭では分かっている。
―――だけど、それでも、俺は、無意識に彼女を追ってしまう。
万が一でもいい。彼女に会えるのなら・・・・・・・。
「アレクサンダーさん!どこに行くんですか?」
ワトリーの声がする。
俺は、立ち止まって後ろを向いた。
霧が濃くて何も見えない。
「そこにいるのか?ワトリー?」
「すぐ目の前です。」
「・・・・なあ、今、金髪の女は見えるか?」
「いいえ。」
ワトリーのその言葉で、自分が今、追っていたものは幻なんだと、そう、確信した。
「・・・・そうか。」
初めから、そうだと思っていた。
死んだ人間が生き返るはずもない。
それに、こんな何も見えない程の霧の中で、彼女だけがハッキリ見えていたなんて、絶対におかしい。
・・・・だけど、それでも、騙されていたかった。
「・・・・戻りましょう。」
ワトリーが静かに言って、俺は、うなづく。
もう一度、彼女のいた方向を見たけど、彼女はいなかった。
・・・・やはり、幻だったのか。
「この霧の中歩くのは危険でしょうから。」
ワトリーがそう言って、俺の手を引っ張って元の場所へと案内してくれた。
「・・・・あれ?」
ふと、ワトリーが立ち止まる。
元の場所についたのだろうか?
「・・・・マグノリアさんは、どこに行ったのでしょうか?」
マジかよ。あいつも何か幻覚を見たのか?
・・・でも、何を見たんだ?
「わわっ、まずいですよね?探さないと・・・」
「アテはあるのか?こんな霧の中、動き回った所で、見つかる気はしねーぞ。」
「そうですね・・・それに、ここを動くと、フリージアさんと合流できなくなってしまいます。」
・・・だよなぁ。ここでまたバラバラになるのもよくないだろう。
この幻覚が偶然なのか、意図的によるものなのか、まだ、分からないのだから。
「こういう時は、トミーを使いましょう。」
「トミー?あいつは今、ノルディックタウンに言っているんじゃ・・・」
「大丈夫です。トミーは昨晩、ノルディックタウンをでて、こちらに向かってます。
・・・もうすぐ着くようですね。」
「・・・おい、何で分かるんだよ。」
「僕とトミーには、無線機能がついてますから、お互いに交信が可能なんです。
トミーにマグノリアさんを探すように交信します。」
・・・ベトット博士も、やるもんだな。
こういう便利な機能をつけるなんて、ちゃんと考えているんだな。
「・・・交信終了です。後は、連絡が来るまでは待ちましょう。」
「・・・ああ、そうだな。」
正直、待つのは嫌だが仕方ない。
この霧の中、下手に動くと、事態が悪化する恐れがある。
しかし、この霧は誰かの思惑なのだろうか・・・
だとしたら、誰が、どうして・・・何が狙いなんだ?
END