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箱庭シンドローム  作者: 彩音
第三章 妖精の国~What has changed~
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第三章 妖精の国~What has changed~ 2話



10年前。僕たちは苦労の末に魔王を倒した。


道中、辛いことも苦しいこともたくさんあったけれど、それでも、なんとか世界に平和を取り戻すことができた。



―――これで、世界は平和になる。


―――これで、皆が救われる。


僕たちはそう、思っていたんだ―――


------------



「はー!皆なに言うかなー!」



国へと戻る道中、アレクサンダーさんが嬉しそうに叫んだ。



「やっぱさ、俺たち英雄だろう?お金とかたくさん貰えんのかな。」



「ちょっと、アレク。そういうことは考えないのっ。」



横からシーナさんがアレクサンダーさんを叩く。



「いってーな。シーナ。別にいいだろ。そのくらい妄想したって。」



「まあまあ。シーナ。そのくらい言わせておけ。アレクは頑張ったんだ。報われたっていいだろう。」



ダグラスさんが豪快に笑いました。



「そうだよねー。賞金貰ったら、今度は何の魔法の研究しよっかなー。」



僕たちは皆、魔王を倒して浮かれていた。

それも無理はない。長くて辛い冒険の末に今まで散々僕たちを絶望に陥れていた魔王を倒したのだから。



・・・だけど、その浮かれた気持ちが国へと帰った瞬間に崩壊するとは、この時は誰も思っていなかったんだ。



----------



国へと帰るなり、僕たちを待ち受けていたのは、騎士団と、国王様だった。



「・・・・よくやった、英雄達よ。王城へと招待しよう。」



国王様は、国民の前ではそう笑顔を向けて僕たちを王城へと招待した。

僕達は王城で、盛大なパーティがあるのだと思っていた。



だけど・・・・



「騎士団長・ダグラスよ。貴様の騎士団長としての任を本日限りで解く。」



王城についた瞬間、国王様は、冷徹な声でそう命じた。



「何故ですか!国王様!私は・・・・!」



「ええい、黙れ。理由は何であれ、貴様は騎士団としての任務を長期間放棄した。

これは、ルール違反じゃ。よって、この者を処刑とする。」



国王様の命で騎士団の人がダグラスを羽交い締めする。


どうして。なんで。

いくらルール違反と言っても、僕たちは世界を救ったのに・・・・どうして?



「おい!ちょっと待てよ!ダグラスさんは魔王を倒したんだぞ!何でそうなるんだよ!」




アレクサンダーが今にも斬りかかりそうな形相で国王様を睨みつけた。



「・・・・ルールはルールじゃ。それが守れないものは死あるのみ。それがこの国の掟なのじゃ。」



国王様は、全く表情も変えず、ただ淡々と語る。


まるで、それが、当然の仕打ちだと言わんばかりに・・・・



「・・・・このっ・・・!」



アレクサンダーさんが剣に手をかける。



「辞めなさい!アレク!手を出したら貴方も同じことになるわ!」



シーナさんが、アレクサンダーの手を握って止める。



「だけど、シーナ!」



「・・・・いいんだ。」



ダグラスさんが静かに呟いた。



「・・・・確かに俺は、規則を守った。それに・・・・こういう展開になることも少しは想像していたんだ・・・・」



「ダグラスさん・・・・。」



アレクサンダーさんが信じられなそうな顔をして呟いた。



ダグラスさんの言い方はまるで・・・・こういうことになることを予想していたようで。



―――予想していたのなら、どうして僕達と一緒に戦ってくれたのだろう。



辛くて、悲しくて、苦しい思いをしても、何一つ報われない結果を予想しながら、どうして剣を振るえたのだろう。



「なあ、アレク。俺の嫁さんと娘に伝えてくれないか?「ごめん」って。」



ダグラスさんは、そう、静かに笑って、騎士達に抱えられて、連れていかれてしまった。



暗く、冷たくて、悲しい闇が僕たちを包む。


こんな、こんな結末は、誰も望んでなかった。



―――彼の奥さんと娘に、僕たちは何を言えばいいのだろう。



こんなの、あまりにも、理不尽すぎる。



「・・・・全く、余計なことをしおって。

お前達が魔王を倒したせいで、商売が成り立たないじゃいか・・・・。

国の大きな利益を損なった罰がこのくらいで済んで良かったと思え。」



国王様の一言は、僕たちを奈落の底へと陥れるには、十分すぎる言葉だった。




あんなに、頑張って、苦労して・・・・それでやっと僕たちは魔王を倒したというのに・・・




感謝の言葉なんて何もなかった。




あったのは、仲間の死という現実だった。




それどころか、国王様は、魔王を倒されたことで、この国の利益が少なくなったと愚痴っている。




――――腐っていたのは、魔王だけではなかった。



この国も、腐っていたんだ・・・・。




絶望的な現実を僕は静かに受け入れた。



こんな悪夢、現実だと信じたくないけれど、

もしかしたら、僕も、心の何処かでそれを予想していたのかもしれない。



―――この国の、この王の狂気を。



だけど、僕達には、どうすることも出来なかった。

魔王を倒して戻らないというのならば、「元からそういうもの」だということだ。



大冒険が終わって、ハッピーエンドを迎える・・・

かと思いきや、また絶望の淵に落とされて、

それでも運命に反抗するような気力は、その時の僕達にはもう、なかったのだから。





それから、アレクサンダーさんは、すっかり変わってしまった。



嫌いだと言っていたタバコに手を出して、何に対しても無気力になって行った。

外に出ることが少なくなり、家に篭るようになっていった。



僕とシーナさんは一緒にこの国を変える為に戦おうと、アレクサンダーさんに問いかけた。



「だからさぁ、アレクサンダーさんの力が必要なんだってば!」



「うるせーな!放っておけよ!」



アレクサンダーさんは荒れていた。

ほとんど外に出ようとしなかったし、ただ無気力で自堕落な毎日を送っているだけだった。



「・・・・アレク。」



そんなアレクサンダーさんを僕とシーナさんは毎日のように説得していた。



「・・・俺は、ダグラスさんを守れなかった・・・。こんな奴が今更立ち上がった所で・・・」



「・・・そんなことないわ。皆で頑張ればきっと・・・」



「・・・・だってよ、魔王を倒したのに、ダグラスさんはこんな仕打ちを受けたんだぞ!

今更・・・・変わるかよ。」




―――必死に説得しても、アレクサンダーさんがうなづくことはなかった。



彼は絶望は深く・・・シーナさんが説得しても、応じることはなかった。



「もう、アレクの分からずやっ。どうして立ち上がろうとしないのかしら・・・。」



いつだったか、シーナさんが、僕に弱音を吐いたことがある。



「・・・・たぶん、アレクサンダーさんはさ、人を信じすぎたんだと思うよ。」



そう、アレクサンダーさんはいつだって、真っ直ぐで・・・・純粋だった。



その純粋さが、僕にとってはすごく羨ましかった。



でも・・・誰よりも人を信じていたからこそ、人に裏切られた時のショックが大きすぎたんだと思う。


今までは、僕たちを騙すやつはだいたい悪魔で、

悪魔のせいにしていられたけど、魔王がいなくなった今、そういうわけにもいかない。



―――この国の国王が悪魔のような性格だった、なんて、そんなの想像できるはずもない。




それを認めてしまうには、アレクサンダーさんは純粋すぎたのだろう。



その考察を、僕はシーナさんに言うと、



「・・・そうね。確かに・・・アレクは今、人を信じることを恐れているわ。

だけどね・・・そういう時こそ人を信じないとダメなのよ。

そうじゃないと・・・ずっと、人を信じられない人になってしまうわ。」



と、強い口調で言った。



「・・・シーナさんは偉いなぁ。何でそうまでして人を信じようとするの?僕にはちょっと理解できないよ。」



そう、僕は魔法使いになると決めた時から人を欺いていたから、あまり人を心から信用しないことにしている。

僕が心を開いて話せるのは・・・家族と、魔王討伐の為に一緒に戦った人たちだけだ。


だから、僕はシーナさんの裏切られたとしても信じようとする気持ちが理解できなかった。



「信じたいから、かな?別に何度裏切られようと私は構わない。私が信じたいから、信じるの。」



シーナさんはそう言って綺麗に笑った。



―――そんなシーナさんが、僕には眩しく見えた。




シーナさんは、ずっとアレクサンダーさんを信じていた。


彼ならこの国を変えることができる、

この国に残っている膿を取り払うことができる、とずっと口癖のように言っていた。



何日も、何ヶ月も、何年も、ずっと、ずっとシーナさんはアレクサンダーさんを説得しようとしていた。





―――だけど、アレクサンダーさんは、最後まで、首を縦に振ることはなかった。




-----------



シーナさんが、亡くなる少し前、彼女が独り言のように呟いていたことがある。




「・・・・早くしないと・・・・もうすぐ運命の転換点だわ。」




今、思えば、彼女は未来を見ていたのだろうか。




自分が死ぬことを予知していたのだろうか・・・・。





でも、それを聞くことはもうできない。



彼女はもう、この世からいなくなってしまったのだから―――




END

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