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Case7 筋肉、パンプアップする

 二メートル以上の背丈。常人の頭の幅程度はあろうかというほど盛り上がった二の腕。足は常人の胴体と同じくらいに太い。なんだこれ、人間じゃねぇ。

「よう。お前が藤崎正太郎だな?」

 クソ、またこの手合いか。いったいいつまで続くんだ。

 タンクトップにジーパンを半ズボンになるように改造したやつを着ている。全部、特注品なんだろうな。市販のやつだと腕が入らないだろうし。

「俺と闘え。さあ!」

 筋肉隆々なその男は、俺を指差してそんな事を言う。

 え、ちょっとやめてくださいよ。そんな事をしたら俺、死んでしまいますが。

「ちょっとは待ってくれよな、くノ一ガール」

 後方には突如さっきの外人コンビが現れていた。あれはテレポートというやつか。

 やばい。挟まれた。逃げ場がない。

「貴様は、タカツキ!?なぜこんな所に!?」

 ステラが叫んだ。どうやら筋肉とこいつらは知り合いらしい。

「何、ちょっと特異点の実力を確かめようと思ってな。歴史に選ばれた男なのだろう?それならば強いはずだ。俺は強い相手を求めいている!この筋肉が満足する相手を!」

 何いってんだ、こいつ。あたまおかしいのか?脳ではなくて、筋肉で考えてんのか?

「よくわからないが……まあいい。月島流とかいったな、女。貴様がいかに狭い視野で物事を判断しているか、教えてやる」

 ステラが口を開く。ちょっとやめて。そんなこと言ったら、ゆかりさんキレちゃうじゃないっすか!

「ごめん、ショウ。ちょっと降りて」

「え、ちょっとゆかりさん?」

「わたし、きみならひとりでもあのまっちょなひとにかてるとおもうなー」

「某読みっすよ。やめてくださいよぉ、ゆかりさん!」

 情けない事だが、ゆかりから離れて生き残れる自身がなかった。だってほら。目の前に筋肉が。見るからに筋肉が全てなお方が。

「さっきの続きをやるぞ、女」

「くノ一ガール、もう負けはしないよ」

「望む所!月島流は最強だから!」

 背後で完全に乗せられたゆかりと外人たちが人外バトルを始めると同時に、奴が走ってくる。

「さあ、始めるぞ。構えろ、特異点。高槻力(たかつきりき)、我が筋肉を見せ付ける!!」

「くんなよぉぉぉぉお!」

 つーか、(りき)って。名前まで筋肉に支配されてやがる。

 迫る筋肉。頭を掴まれたら、卵のように簡単に握りつぶされそうな手。やべえ。終わった。これは、死ねる。

 そう思ったその時。

「しょうたろーーーー!!」

 どこかで聞いた声と共に、筋肉を極太ビームが直撃した。

「ふべらっ!」

 訳のわからん叫び声と共に、筋肉が光に消えていく。こんな事をするのは決まっている。あいつだ。

「いやー、危ない所だったね、正太郎」

 ボロボロになった制服を着た女。自称未来人、十五歳。巨乳で童顔。レイラ。

 その手に持っているのはコンパクト。ただのコンパクトではなく、未来の万能ツール、できる君。

 くそ、ただの電波だと馬鹿にしていたのに、こんなのに命を救われるなんて。

 窓の外では交戦状態が続いている。

 今、ソースケが両肩に構えたロケットランチャーを連射した。ロケラン二台って。連射って。やっぱりそれも、未来の兵器なのか?

 その弾道は空中で停止し、爆発した。恐らく、中に浮いている赤い毛の男の仕業だ。あいつも超能力者なんだ。つーかもう、宙に浮いている時点でなんでもありだが。

 未だに校舎の中には生徒がいる。この近くにだって、まだ。逃げられないんだ。人外連中が校庭を制圧し、廊下で暴れ、逃げたくても逃げれない。

 しかもその原因が俺だというのだから、辛い。

 俺が何をした?何もしてないだろ?ふざけんなよ、神様!

 ――だから、俺たちと一緒に来ればすぐ終わるって。

「うっせえ、外人!頭の中に語り掛けんな!」

 ――おお、怖い怖い。

 外人達はというと、ゆかりと戦闘中だった。

 ゆかりの武器はクナイと手裏剣。そして鎖鎌。なんて忍者らしい戦い方なんだ。

「喰らえ、女ァ!」

「だから遅いって言ってんのよ!」

 超能力で校舎を瞬く間に破壊してく金髪外人ねーちゃん。認識不能な速さで廊下を駆け巡るくノ一。そして、俺にひたすら嫌がらせをしてくる茶髪外人。

 ――嫌がらせとはずいぶんだね。

 お前はなんなんだ。暇なのか?だったら帰ってくれよ。

 ――これも作戦のうちでね。どうする?これから「しりとり」でもするかい?日本の遊び、勉強したんだぜ。

 こいつは無視することにした。何を考えているかまるだわからない。

 ――ひどくね?

「正太郎、今の内に逃げよう」

 レイラが俺の手を引く。けど、できない。そんな、ゆかりを置いていくなんて。

「待てよ。だったら、あいつも一緒に」

「あいつ?あの忍者?そんなのどうでもいいよ。早く逃げないと、どうしようもないことに」

「どうでもよくなんかねぇよ!大事なダチだ。ほおってなんかおけるか!」

 昔からゆかりとはよく遊んでいた。馬鹿なことをたくさんやって、楽しく笑いあって。冗談を言い合いまくって。理解できないこの状況だとしても、ゆかりを見捨てるなんて駄目だ。

「けどっ!」

「復ッ活ゥ!!」

 なんか、野太い雄叫びが聞こえてくる。いやだなあ、気のせいだといいんだけどなあ。

 ビームに消し飛ばされたはずの高槻力が、教室の中から廊下へその巨体を現した。こいつ、死んでなかったのか。

「ほら、正太郎が早く逃げないから、こいつ起きちゃったじゃん!」

「うるせえ!それより、お前もこいつを知ってるのか?」

 筋肉野郎は一人で勝手に高笑いをしている。こいつは馬鹿だ。それは確実だな。

「……あれは、戦後の富豪、早瀬醍貴が開発した、人体強化の遺伝子コードを組み込んで生み出された実験サンプル。試験管で生まれたあいつは、遺伝子コードの力で人間よりも強く育った。その結果が、アレ」

 まて。今、こいつは何を言ったんだ?さっぱりわからん。

「おい、そこのビキニ。お前は俺様のことを知っているのか?世界で最も筋肉に愛された男、高槻力のことを」

「知ってるよ。あなたのことは未来でも有名だからね」

「そうか、未来でもか。そうだろうな。真の強者は古今東西未来永劫語り継がれるものだ!」

「……そして、類を見ない脳筋であることもね」

 そこだけは高槻力に聞こえないように、小声で呟いていた。

 何を言っているのか、俺にはさっぱりだぞ。

 ――要するにそいつは、実験で生まれた筋肉モンスターってことさ。わかりやすいだろ?

 ああ、なるほど。いきなり理解できたぞ。なんでだろう。不思議だなあ。

 ――ここまでシカトされると俺、悲しいね。

「ともかく、あいつはヤバイの。戦わない方がいい。四の五の言ってないで、逃げたほうがいいの!」

「うっせ、しるか!そんなの、お前らの都合じゃねぇか!」

 ったく、さっきからこいつらはなんなんだ?

 自分たちの目的の為にこんな事をして。全部俺を中心に回ってるみたいだが、俺の思惑なんて完全に無視だ。腹が立つ。

「ようやくやる気になったか、特異点!」

 俺の背後に筋肉モンスターが立っていた。

「こいつ!」

 レイラができる君から数発のビームを発射する。

 しかし。

「ふん!」

 そいつは衝撃波を出した。原理はわからん。ともかく、俺の身体が吹っ飛ばされる。

 そして、信じがたいものを俺は見た。筋肉野郎は光であるビームを弾いてしまったのだ。

 同時にタンクトップがはち切れていた。筋肉がよりいっそう盛り上がっている。ここまで筋肉質だと、気持ち悪い。

「そ、そんな……」

 レイラが唖然としている。俺だってそうだ。狂っているとしか思えない。ビームって工学兵器だろ?ミサイルとかとはわけが違うんだ。どうやって弾いたって言うんだよ。

 ――タカツキは今、筋肉を急速にパンプアップさせることによって彼の周囲の空気を弾き飛ばし、真空にしたんだ。そして、その空気は周りの空気にぶつかり、凝縮。屈折率が変化したんだよ。そしてビームの入射角が臨界角となり、光は弾かれた。

 わざわざ解説ありがとう。サミュエル。

 ――いやいや、礼には及ばないよ。俺も暇だしね。

 こいつ、自分で暇って言いやがった。

 それにしてもだ。この高槻力とかいう筋肉の怪物は恐ろしすぎる。マジで死ねる。

「さあ、始めるぞ特異点。俺とお前、どっちが上か、白黒はっきりつけようじゃないか!」

 いや、もう結果は見えてるんですよ?

 だから止めてくださいって、そんな手を近づけないで。

「俺のダチに……」

 遠くから、どこか聞き覚えのある声が響いてきた。

 こういう時に駆けつける、熱血馬鹿。自分の気に入らないことが許せないあいつ。初心なのに女好きと思われているあの野郎。

 なんで、あいつが。

「天城、なんで来たんだよ!」

 そう言いながら振り向く。

「天……城……?」

 けど、そこにいるのはいつもの天城じゃなかった。

「なにしてんだあああああああああ!!」

 下半身に生服を着た、上半身裸の犬の顔をした男。全身にを黒い毛で覆われている。尻尾も生えていた。手の爪は鍵づめのようになっている、二足で廊下を爆走するそいつが、筋肉野郎に向かってとび蹴りをかました。

 何をしても動かなさそうだったその巨体が、僅かに吹っ飛んで倒れる。

「大丈夫か、藤崎っ!」

 暑苦しいこの声。間違いない。この犬みたいな男は天城だ。こいつも変人奇人共の一員だったと言うわけだ。なんてこった。



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