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Case6 忍者、抱き抱える

 



俺は颯爽と現れた誰かに抱きかかえられる。小柄な奴だった。その顔は何処か見覚えがあって、つうか、なんだこいつ。すげえ変な格好をしてる。

「OH!見ろよステラ!ニンジャだ!バットリボーイだ!ジャパニーズアサシンだ!この目で見れるなんて!日本に来た甲斐があったなぁ!」

 サミュエルとかいう外人が大はしゃぎしている。そう、俺を抱きかかえるそいつの格好はまさに忍者なのだ。

 人を一人抱えているとは思えない速さでそいつは教室から飛び出し、廊下を駆け抜けていく。お姫様だっこされた状態のまま、俺は呆然としていた。

 こいつ、どっからどう見ても……

「危ないところでござったな」

 忍者が口を開いた。なんだよござったなって。時代劇の見すぎだろ。

「拙者、出自は伊賀の国の者でござる。訳あって藤崎殿を……」

「おい、ゆかり。どうした?熱でもあるのか?」

「……何のことを言っているのか拙者にはわからないでござるよ。ともかく、拙者は藤崎殿の命をお守りする事が使命でござって」

「すいませぇーん!みなさん聞いてくださぁーい!今から月島ゆかりのスリーサイズ言いまぁーす!上からぁ!」

「きゃあああああああ!!止めてえぇぇええ!!」

 忍者が俺を壁に向かって投げつけた。

「ぐはっ!」

 痛てぇ。骨が折れるかと思った。しかも地面に頭ぶつけるし。たんこぶできたし。スリーサイズどころでの話じゃねぇ。

 何時の間にか、身体は動くようになっていた。さっきまでのあれはなんだったんだ?

「ねぇ、何考えてんの?信じらんない!女子高生のトップシークレットをばらすなんて!」

「秘密にするほどもないだろうが……」

「何が!?」

「いえ、何も」

 やっぱり、こいつはゆかりだった。

 口元を隠しているが、明らかにゆかりだ。十年以上も付き合っているんだ。口元が隠れたってわかっちまう。

 ゆかりは忍び装束を着ていた。写真とか漫画とか、そんなとこでしか見たことのないやつだ。なんでお前そんなもの持ってるんだよ。制服はどこへやったんだよ。その前に、いつ着替えたんだ?

「てかさ、なんだよござるって。無理ありすぎるだろ」

「わ、私だって嫌だったんだよっ?だって、父さんがそうしろっていうから……」

 その割には楽しそうに喋ってたなあ、オイ。

「あのね、今まで黙ってたけど、私達月島家は、忍者の家系だったんだ。先祖代々、藤崎家を守る事がが使命なの」

「だからお前も俺を守ってくれたって言うのか?」

「うん。なんかショウ、物凄く物分りがいいね」

 そりゃあな、変人奇人共がこれだけ出てくれば、さすがに耐性だってつくってもんだ。

「見つけた!そこだね、ハットリボーイ……アレ、これはくノ一ガールか?ま、どっちでもいいさ!サインくださーい!」

 サミュエルとかいうのが俺たちを追って走ってきた。こいつもこいつで超楽しそうだな。目を輝かせて。息を切らせて。馬鹿か?こいつ?

「いい加減にしろ、サミュエル。私達の目的は特異点の捕獲だ」

 茶髪から僅かに遅れて、金髪の姉ちゃんがやってきた。

 強調されているボディラインにどうしても目が行ってしまう。なかなかいいスタイルをしているな。出る所は出でて、締まるところは締まっている。レイラはまだ中学生と言うだけあって童顔だか、こっちは大人っぽい。これはこれで、ありだな。

「む……なんだ、藤崎正太郎」

「ショウ、さっきからどこみてんの?」

 それにくらべて、ゆかりときたら。残念ボディにもほどがある。

「今鼻で笑った!笑ったでしょ!」

「あー、くノ一ガール。そろそろ本題に入らせてもらうよ」

 咳払いをしつつ、茶髪のサミュエルが言った。

「藤崎正太郎。君には不思議な力が働いている。あらゆるものが君にひきつけられていると言えばいいのかな。君のその身体を調べさせて欲しい。素直に俺たちに応じてくれれば、野蛮な事はしない。多分」

「多分?多分ってなんだよ」

「いや、こっちの女性の血の気が盛んというかなんというか……」

「どっちでもいいよ、そんなの!ショウは渡さないから。ショウはアタシの玩具だからね?」

 あっはっは。何を言ってくれているんだゆかりさんは。俺は君の所有物になった覚えはありませんよ。

 懐から取り出したクナイを構え、ゆかりは俺と外人二人の間に入る。ちょっと待て。なんだこのムードは。

「そうか。それならば仕方あるまい」

 ステラと言う金髪ねーちゃんが手の平をこちらへ向けた。その顔は楽しそうに笑っている。闘える事が嬉しいというように。

 そして。

「きゃっ!」

 ゆかりの身体が吹っ飛んだ。突然、前触れもなく。

「ゆかり!」

 超能力、なのか?

 ――そういうこと。だから俺たちには絶対敵わない。OK?

 頭の中でサミュエルの声がした。これは、テレパシーってやつか。

 ――ステラはサイコキネシスが使える。俺が使えるのも、テレパシーだけじゃない。大人しくしていた方が身のためだぜ。あのくノ一ガールにもそう言っておいてくれよ。

「もう、何なのこれ。父さん、私聞いてないよ!」

 ゆかりが駆け足で戻ってくる。もう復活したみたいだ。こいつ、意外とタフだな。

「おい、ゆかり。そいつら超能力使えるってよ」

 一応、言ってみる。でも俺は知ってるんだ。ゆかりはこういったって聞かないってことは。

「うっさい!父さんから受け継いだ月島流が、そんなアホみたなものに負けるわけない!」

 ゆかりは自分の家の武術に絶対の自信を持っている。世界最強を信じて疑わないくらいに。

 忍者の家系とか馬鹿らしいと思うが、それだけはよく知っている。だがら引くわけがない。自分が負けるということが、どうしても許せないタチなんだ。

「アホだって?くノ一ガール、今君は、世界中の超能力者を敵に回したよ」

「世界中にそんなに超能力者がいるわけねーだろ」

 いたらいらたで怖い。

 ――シャラップ、特異点。君の頭の中でアルミホイルを噛み潰す音を延々と流し続けるぞ。

 止めてください。お願いします。

 ――わかればいいよ、わかれば。

 クソ、こんなしょうもない脅しにテレパシーなんか使うんじゃねぇよ……

「そういうわけなんだ。ごめんよ、くノ一ガール」

「御託はもういい。始めるぞ」

 ステラが廊下を駆け、ゆかりへと詰め寄った。手の平を翳し、目に見えない力でゆかりを吹っ飛ばそうとする。やっぱり、超能力。だがそれよりも驚くべきなのは。

「な、早い!?」

 ステラが驚愕の声を上げる。俺だって驚いた。ゆかりが突然に消えたのだ。

「遅いよ」

 ステラの背後へと突如現れたゆかりは、そのまま手刀を首元に打ち据える。まさに早業、目にも留まらぬ速度だった。

「まさ……か……」

 ステラが気を失い、廊下へ倒れていく。

「ステラ!」

 サミュエルが叫ぶ。それに反応してか、ステラが目を見開き、地面に衝突する寸前の所で持ち直した。超能力か何かをつかったのだろうか。

「すまない、助かった」

「あのくノ一ガール、伊達じゃないぞ」

「ああ、わかっている。油断しただけだ」

 サミュエルがステラの肩を抱いている。やばい、これ、あいつらを本気にさせちまったんじゃねぇのか?

 などと考えている内に、俺はゆかりに抱きかかえられていた。

 俺が全力で走っても追いつかないようなスピードでゆかりは廊下を駆けていく。その顔は真剣そのものだった。

「逃げるが勝ちだよ、ショウ。あいつらに捕まったら、何をされるかわからない」

「……お前、何か知っているのか?」

「うん。まあ、一応ね。あいつらの言っている意味も大体わかる。まさか超能力者だとは思わなかったけど。とにかく、ショウをあいつらに渡すわけにはいかない。仲間のとこまで、一気に案内するから」

 仲間?仲間だって?これ以上変な奴が出てくるのかよ。

 というかこの状況。くノ一にお姫様抱っこをされながら逃げているって、相当恥ずかしいな。

 などと考えていたら、突然、ゆかりがその足を止めた。慣性力よろしく、俺の身体が前にもっていかれそうになる。

「おい、どうしたんだよ一体」

「敵だ。あいつ、やばい」

 ゆかりの声を聞き、前へ視線をむける。

 そこには見るからに筋肉質な、というかありえないほどに筋肉隆々とした男がいた。




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