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Case3 黒服、発砲する

「やばい!死ぬ!殺される!」

「逃げるな」

「そりゃ、そんなもんぶっ放してきたら誰だって逃げるだろ!死んでしまうわ!」

「そのためにこうしている」

 黒服の男がサブマシンガンを連射しながら追いかけてくる。街中に銃声が木霊する。

 なんなんだよこれは。おかしいだろこんなの!

 いたるところから悲鳴が聞こえてくる。そりゃそうだ。街中でサブマシンガンぶっ放しているやつがいたら、誰だって悲鳴を上げる。俺はもう泣きそうだ。

 弾丸が俺の頭の真横を通り過ぎた。あと十センチ近ければ、俺は死んでいた。

「止まれ。楽に殺してやる」

 黒服が静かに言い放った。

「死んでたまるかよ!つうか誰だよ、お前は!」

「お前に教える義理はない。とりあえず死ね。まずはそれからだ」

「死んだらそれで終わりだろうが!」

 叫びながら逃走。立ち向かおう何て気はわかない。でてくるわけがない。

 男は無表情で俺を追ってくる。滅茶苦茶怖い。ありえねぇ。なんだこれ、どうして朝っぱらから銃で狙われなきゃいけないんだ!?

 青信号が点滅しかけている横断歩道を渡り、人ごみを避けながら走り回り、裏路地に逃げ込んで、橋を渡る。

 それでも、男は追ってくる。

「あ、いたいた」

 レイラが滑空していた。俺の真横を併走する。

「とんでもない事になってるねぇ」

「あなたにとっては人事ですから? そんな落ち着いていられるんですよねぇ!?」

 なんで俺があんな危ない男に命を狙われなきゃいけないんだ。

 あの時、エレベーターの中で、俺の名前を呼んだかと思ったら、いきなりサブマシンガンを撃ってきた。殺意しか感じなかったからマシンガンをぶっぱなされる気がして咄嗟にしゃがんでいたお陰で、避けれた。もう少しで死ぬとこだった。すげえな、俺。ちゃっかり、あの未来人はバリアみたいなのを張っていた。

 そのまま立ちふさがる男の足元の隙間をすり抜けて逃げた……と、思ったら、なんと黒服がサブマシンガンを片手に追ってくるではないですか。

 マジありえん。

「口調かわってるよー」

 あははー、とレイラが笑う。

 くそ、やっぱり他人事かよ。ふざけろよ。

 そうこうして逃げている内に、来たことのない場所に来てしまった。いりくねった道を滅茶苦茶ににげる。

「死ね」

 男が引き金を引いた。鉛の雨が俺に向かってくる。

「どあっ!」

「あぶないなあ」

 俺は大きく左に跳んでそれを避けた。未来人は当然のように、自分にだけバリアを張っている。

「おい、俺も守れよ!」

「大丈夫だよ。正太郎は死なないようにできているから」

「はぁ!?人は撃たれたら死ぬっての!」

 もう駄目だ。こいつはアテにならない。

 狭い道を走って逃げる。だがそれを続けている内に、壁が俺の前に立ちふさがった。

「行き止まり……!?」

「逃げてたら当たらないだろう」

 そいつは不敵な笑みを浮かべている。慎重は俺と同じくらいか。髪の毛は無造作に伸ばされている。前髪で目がわずかに隠れていた。筋肉質な身体だが、太すぎるわけではない。いわゆる、細マッチョというやつだ。目は獲物を狙う獣のようにギラついていた。もちろん、標的は俺だ。

「どうして俺を殺そうとするんだ」

 俺は聞いてみたんだ。理由をわからないで殺されるなんて納得いかないから。

 けど、黒服で細身のそいつは、全く俺の言葉なんて聞いちゃいなかった。

「ど、どうして君が……っ!」

 目を見開き、宙を浮くレイラを見ていた。シカトですか。ああ、そうですか。

「あ、君、もしかしてソースケ?」

 しかも知り合いなんですか。また電波ですか。

「へー。すごい変わったね。全然気がつかなかったよ。大人っぽくなったっていうか、実際大人になってるって言うか……あれ、もしかして、私がタイムスリップした数年後から来たの?」

「あ、ああ。まあな」

 しかもこの電波未来人と話があってるよ。こいつも同類なのかよ。

「なんで正太郎の命を狙うの? まあ、多分死なないと思うけれど……それでもさ、手の一本や二本はなくなっちゃうんだから、止めたほうがいいよ」

 物騒なことを言う。つーか、そう思うんだったら、なんで守ってくれないんだ。この女は。

「……そうしたかったから、だな」

「おい、そんな理由で殺されたらたまらねぇぞ」

「貴様は黙っていろ」

 ソースケと呼ばれた男は俺のこめかみに銃口を突きつけてきた。

「……嘘です。ごめんなさい」

 俺には発言権はないって事なんですか? 酷すぎやしませんか?

 もう嫌だ。なんなんだよ、この状況。

「土下座しろ」

 男は無表情で告げる。

「は? なんでそんなことしなくちゃなら」

「撃つ」

「やります。やらせてください」

「まあまま。ソースケもその辺にしてさぁ」

「君がそう言うなら」

 レイラの言葉に、ソースケという男は素直に応じた。銃口が外される。

 ほう、なるほど。この女の言う事だけは聞くのか。俺の言う事はシカトもしくは否定されるだけなのか。例え電波が相手だとしても、初対面でそれは泣くぞ? 思春期の男子は繊細なんだ。もっとデリケートに扱ってくれよ。

「それにしても、なんでソースケはこの時代に来たの?」

 そんなことよりなんで俺を狙うのかだろ。まさかさっきの理由で納得したわけじゃないよな。

 と、言おうとしたが、止めた。あまりいい結果を招かない気がしたから。

「いや……その……」

 ソースケとやらは口をもごもごと動かしている。なんだ、こいつ。恥ずかしがってるのか?

 頬を赤くして俯いて――ああ、なるほど。

「まさかこの女が好」

 すさまじい反応速度で俺の校内に銃口がぶち込まれた。もちろん、やったのは黒服の男だ。

「それ以上言ったら殺す」

ふぅひぃふぁふぇん(すいません)……」

「わかればいい」

 くそったれ、大体わかったぞ。

 不本意ながらも、こいつらが未来人だと言うことを真実だとするならば。

 レイラは俺を「良い独裁者」にするために未来からやってきた。このソースケという迷惑野郎はレイラのことが好きだ。で、追って来た。一緒に未来に帰りたいとでも思ったのか、この男の悲願を達成する為に俺の存在が邪魔だと判断したのか、どちらにせよ俺が死んでるほうがこいつにとって都合がよかった。だから殺そうとした。

 え、何それ。そんな理由で殺そうとしてくるとか、こいつ、やべぇ。ある意味、ストーカーの亜種みたいなもんなんだろうか。

「うーん、よくわからないけど、仲直りしたみたいでよかったよ」

 なにやらレイラがほざいているが、断じて仲直りなんてしていない。

 まあいい。ここで余計な事を言うと、またサブマシンガンを突きつけられそうだ。

「そうだ。正太郎、学校間に合うの?」

 携帯で時間を確認した。八時十分だった。ホームルームが始まるのは八時半。あと二十分だ。

「あー、微妙。結構走ってきちまったし」

「そっか。じゃあ近くまで送ってあげるよ」

 え、ちょっと待て。それは嫌だ。

 この女はそこそこに人の目をひきつけるくらいの容姿は持っているし、それ以前に、服装が目立つ。おまけに、物騒なものを片手に握っている黒服までいる。

 もしもその二人と一緒に歩いているのを目撃されれば、俺ももれなく変人奇人の仲間入りを果たしてしまう。そうでなくても、少なくともよろしくないうわさの一つや二つ、立つだろう。そんなの嫌だ、絶対に嫌だ。

「いいって。なんか悪いし」

「遠慮しないでよ。将来独裁者になるんだから、これくらいなんてことないって」

「ならねぇよ!ともかく、俺は歩いていくから……」

 歩き出そうと踵を返した瞬間、後頭部にひんやりとした違和感を感じた。

「人の好意は素直に受けるものだと思わないか?」

「ええ、そうですね……僕もそう思うんで、その物騒なものを突きつけないでください」

 俺に選択権はないのか。もう色々と諦めるしかないみたいだ。

「それじゃ、行くよ。ついてきてね」

 行き止まりの壁に向かい、レイラはコンパクトを翳した。

 僅かな米粒みたいな穴が壁に生まれる。それは見る見るうちに広がっていき、人一人が通れるくらいの、大きな輪となった。その向こう側は何処か薄暗い所に繋がっていた。

 レイラとソースケがその輪を通り、向こう側へと渡っていく。

 ああ、もう好きにしろよ。未来技術ってすげえな。俺の理解を超えているよ。これは何だ? ワープか? 某ネコ型ロボット御用達のドアか?

「ほら、正太郎も早くおいでよ」

 レイラが手を差し出してくる。とびっきりの笑顔で。

「あ、ああ」

 俺も健全な男子高校生であって、しかも悔しい事にレイラは俺のど真ん中ストライクゾーンなわけで、なんというかその、ちょっとドキドキしてしまう。

 でも、差し出されたその手を握り返しはしなかった。

 理由は一つ。黒服の男、ソースケが物凄い目つきで俺を睨んでいたからだ。

 ――その手を握ったら殺す。わかっているな? 

 声には出していなかったが、そう聞こえた。

「どうかしたの?」

「いや、なんでも」

 輪をくぐり、薄暗い場所に出る。直後、俺達の通った輪は消えていった。

 辺りを見回す。誇りっぽい場所だった。汗臭くもある。様々な道具の影が見える。

「ここは……体育倉庫か?」

「あたり。大正解だよ」

 レイラが倉庫の扉へ手をかけた。

「おい、ちょっとまて」

 扉を開ける前に、俺は声をかけた。

「その格好は目立つって言ったろ。やめとけよ」

 ビキニにガウンの中学三年生が校舎をうろついたら、騒ぎになる事は間違いない。

「うーん、そんな大変な事にはならないと思うけど……」

「問題ないだろう」

 未来人(自称)二名は俺の言う事が納得でないようだ。

 面倒な事になるんだよ。お前らは感覚が狂ってるからわかんないだろうけどな。

「まー、わかったよ」

 レイラの身体をいくつもの繊維が包み込んだ。それは学校の――それも、俺の学校の――女子生徒の制服となる。

 その光景を目の当たりにして、全く動じない俺がいた。なんか、感覚が麻痺しかけてるみたいだ。

「言っとくけど、お前らついてくんなよ」

「え、無理だよ」

「何を言っている?」

 もう、こいつは二人には何を言っても無意味なんじゃないかって思えてくる。



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