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Case14 青春、さようなら



 冷静になってあたりを見回してみれば。広がるのは廃墟の山、山、山。俺の住んでいた街は全てが瓦礫と化していた。学校なんて、痕跡を見つけるのが難しいくらいだ。当然、俺の家も消し飛んでいる。

 夕暮れがまぶしかった。

「ねぇ、ショウ。これ、どうするの?」

「どうしようもねぇよ……」

 ため息をつきながら、ゆかりに答える。

 惨状は俺たちだけでやってのけてしまったのだ。損害賠償とか請求されたらいくらになるんだろう。ていうか、これって捕まったら死刑なんだろうか。いや、でも俺まだ未成年だし、死刑にだけはならないか?

 なれる君を解除して、俺は制服姿で瓦礫の山に腰かける。

「大丈夫だよ。心配しないで。一般の人たちは皆、できる君で安全な場所に転送しといたから」

 にこやかに報告してくるレイラ。素直に感謝するが、でもそれだけじゃこの問題は解決しないんだよ。

 今にして思う。感情的になるんじゃなかった。自暴自棄になるんじゃなかった。もっと、自分を抑えられればよかった。

 なんて言っても、後の祭りってわけで。

 今ここにある瓦礫だけが、目の前にある真実だった。

 各々、つかれきった様子であたりに腰掛けていた。俺の隣にはレイラとゆかり。そして何時の間にか人間の姿に戻った天城。ちなみに上半身裸だ。

 超能力者や筋肉馬鹿もその辺にいる。ソースケにはぶち殺されそうになったが、なんとかレイラに沈めてもらった。加藤は巨大ロボットと一緒に瓦礫の撤去作業中。仲間に置いてけぼりにされた宇宙人が、一人でたそがれていた。俺が円盤を墜落に追い込んだせいで、あいつの仲間はみんな脱出ポットで宇宙へ逃げてしまったのだ。

 それにしても空が綺麗だなあ。こんな雲ひとつない空で、その下にあるのがこんな光景だなんて。だれも、信じちゃくれないだろうなあ。

「お、あれって、ヘリコプターじゃねぇか」

 天城が天に向かって指を刺す。なるほど。確かにヘリコプターだ。でも、なんでこんなとこに?

「ねぇねぇ、正太郎。見てよ。正太郎がテレビに映ってるよ!」

 物凄く嫌な予感がした。

 レイラができる君を翳し、瓦礫の一部に光を当てる。するとそれは四十インチ薄型テレビへと変貌していった。原理は……未来の道具だからもはや何も言うまい。勝手にスイッチが入る。電源もアンテナもないのに、いいのか?

『ご覧ください。この破壊しつくされた土地を』

 画面では、テレビのレポーターが俺たちの街を上空から映していた。瓦礫の中に、いくつかの人影が見える。ああ、今ちょっと動いたの、俺だ。

 なるほど。特ダネを命がけで取りに来たと。なかなかの見上げた報道魂だよ。

『しかもこれは、たった一人の人物によって引き起こされたものなのです』

 なんか、俺一人でやったことになってるし。まあ、八割くらいは俺が暴れてやったんだけど……

『犯人は、彼です。この少年です』

 そして、俺のげんなりした顔がアップで映される。

「ショウ、これはもう……」

「どんまい、藤崎」

「あはっははは……」

 もう、笑うしかねえ。さっきまでとは違う笑いがこみ上げてくる。

 終わった、俺の人生。

 画面は切り替わり、コメンテイター達が議論を交わす。議論といっても、俺をひたすらにぼかすか叩きまくっているだけなのだが。

『こんなことをして、彼は無事で済んでいられると思っているでしょうかね?』

『と、言いますと?』

『みたところ未成年のようですが、極刑もありうる。いえ、確実と言ってもでしょう。これだけのことをしたのですから』

 すみません。ちょっと前まで死刑だけはないかなー、なんて思ってました。

 ため息が出てくる。

「なあ、藤崎。お前、これからどうするんだ?」

「逆に聞くよ、天城。俺、これからどうしたらいい?」

「まあ……とりあえず、捕まるのはアウトだろ」

 それはわかるよ。こんなことしといてなんだけど、俺、まだ死にたくないし。

「とりあえず、高飛びとか?」

 しかし、ゆかりが提案した途端。

『速報です。たった今、この少年を国際的指名手配犯にすることが決定いたしました』

 高飛びは駄目だそうです。

 終わった。詰んだ。無理ゲーじゃないですか。

 そんな全力でうなだれる俺を尻目に、レイラが手を叩き元気に叫ぶ。

「大丈夫だよ。心配しないで!」

 この未来人は何を根拠に。

「捕まって死刑になるんだったら、捕まらなきゃいいんだよ!」

「……は?」

「いや、むしろ逆に正太郎がこの国を支配しちゃえばいいんじゃないかな?そうすれば万事解決。どうせ最後は正太郎が世界の覇権を握って終わるんだから、何の問題もないよね」

 こいつ、まさか。まさか、俺に散々わけわからん武器を渡してきたのって。

「もしかしてよ、レイラ。お前、俺をこの状況に追い込むために……?」

「ソンナコトナイデスヨ」

 くそ、この女、こっち見ない。

 もはや怒りすらわかなかった。もうどうにでもなってしまえと、自暴自棄が加速していく。

「なあ、タカツキ。ユーはこれからどうするんだい?」

「そうだな。暫くは特異点と行動を共にしようと思う。奴といれば、相手に困る事はなさそうだ」

「そうかい。奇遇だな。たった今、俺たちもボスからブラザーを見張れと特命を受けたところなんだ」

「おい、サミュエル。勝手に機密を漏らすな」

「ステラ、ちょっとくらいいいじゃないか。彼も俺たちの仲間だぜ?」

「そうだ。そこの赤髪。まだ貴様とはやったことがなかったな。どうだ?一戦、やってみるか?」

「そうだな。悪くないかもしれないな。明日あたり、だな」

「そうか!ありがたい!」

 サミュエル以下超能力者一行と筋肉が楽しそうに談笑している。いやいや、あんたら何言っちゃってるんですか。

「みんな、俺をおいて星に帰ってしまった……」

 向こうでは宇宙人と加藤が話している。なんか、愚痴を聞いているみたいになっているけど。

「大丈夫だよ。元気出せって。ここには宇宙人はいないけど、地球人ならいっぱいいるよ!」

「……トモダチになってくれるのかい?」

「もちろんさ!」

 あつい抱擁を交わす地球人と宇宙人。状況が状況でなければ、感動の場面なのかもしれないなあ。

「なんか私、疲れちゃった」

 瓦礫の上で、ゆかりが大の字に寝転がる。

「お前、さっさと逃げろよ。めんどくさい事になるぞ」

「ショウを守るのが私の使命だから。別に、気にする事でもないよ。最初からわかってた事だし」

「わかってた事?」

「うん。いつかはわからないけど、ショウがこうなるってのは父さんから聞いてたから」

 なんというのか、これも特異点とやらが関係しているのだろうか。歴史の決定事項。俺が独裁者になるということ。月島の家にそれが代々伝えられていたんだとしたら。

 俺は、もう、独裁者になるしかないのか?

 まあさ、ゆかりが一緒にいてくれるというのは素直にうれしいけど。やっぱり、いつも一緒にいる奴がいるってのは落ち着くよな。知らない変人ばかりのこんな状況だと、特に。

「天城は?お前は帰らないのか?」

「ん、俺?俺は大丈夫。さっき携帯で父さんに連絡取ったら、かまわないってさ」

「あれ、お前の父さんって地獄の番犬やってんじゃねぇの?」

「地獄の番犬だって、今時携帯くらいもってるさ」

 いいのか、それで。絵図らを想像したら、物凄くシュールだな。犬が携帯使ってるって。

 はぁ。なんか、どうでもよくなってきてちまった。

「おい、藤崎正太郎」

 なんか、頭に突きつけられたものが。冷たくて硬いものが。あ、これ、覚えある。

「一体、なんのようですか、ソースケさん……」

 やっぱり、無理矢理レイラになだめてもらうだけじゃだめだったか。そうか。そうですよね。まあ、しょうがないですよね。

「立て。修行をつけてやる」

 え?

 今この人、何て仰いました?

「やっぱり、いい独裁者っていうのは、何事も自分が先導に立ち、自分の意志で判断して、自分で闘うような独裁者だよね!」

 そして満面の笑みのレイラ。

「そういうわけだ」

 ……つまり、レイラ流「いい独裁者」になるために、俺に闘う技術を伝授すると。修行すると。そういうことなんですか?

「なあ、ソースケ」

「マスターだ。今から俺のことは、マスターと呼べ」

「……マスター。正直疲れてるんで、明日からでもいいですか?」

「そんな甘えが許されると思っているのか?」

 ですよね。あなたは許してくれないですよね。

「がんばってね、正太郎。これも全部、世界をいい方向に持ってくためだよ!」

「ああ、そうかい。わかりましたよ……」

 また、ため息。

 空を見てみれば、やっぱり綺麗な夕焼けだ。ヘリコプターは、まだ空を旋回している。今、日本中のお茶の間では俺への怒りが爆発している頃だろう。

 そういえば母さんたちに連絡してないなあ。父さんの仕事とかの迷惑にならないといいなあ。

 瓦礫と一緒になくなっていった俺のすばらしい青春の日々の事は、もう、帰ってこないのか。こんな頭の狂ったカオスな野郎どもにぶっ壊された俺の青春。

「さようなら、俺の青春……」

 ああ、涙が出てきそうだ。






 俺が日本を支配し、その後、世界連合軍と全面戦争を繰り広げるのは、それから一年後のことである。





 とりあえず、終わり。



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