Case13 一般人、装着する
ああ、無茶苦茶だ。
俺は昨日まで青春を謳歌していたはずで。今この昼の時間なら、購買部で焼きそばパンを買いに行っていたはずで。それなのに、今俺の目の前では、人外共が激闘を繰り広げていて。
「心が高ぶるッ!魂が震えるッ!そして筋肉がみなぎるぁ!!」
高槻力の拳が今、校舎の壁を貫いた。それを紙一重で避けたソースケが、その左手を高槻へ掲げる。
「死ね」
その手から発せられるレーザー。
「カッ!」
そして例のごとく、叫びとともにパンプアップでビームを反射する高槻力という名のバケモノ。それを目の当たりにしているはずなのに、全く気にせずつっこんでいくソースケは素直にすごいと思う。
「テメェらの好きにはさせねぇって言ってんだろうがよ!!」
黒い翼で宙を飛びまわり、赤髪のヨハンと対峙しているのは天城だ。
ヨハンは天城の心を読んでその攻撃を回避し、逆にサイコキネシスで攻撃を仕掛けているようだが、天城はそれをものともしていない。全身を包む黒いオーラが全てを弾いてしまっている。
「厄介だな、それは」
「今更謝っても許しちゃやらねぇぞ!」
天城はどこからともなく取り出した二丁拳銃を振り回し、ヨハンに襲い掛かる。
一方、俺の目の前ではゆかりとレイラがまたもや戦いを繰り広げて。超能力と忍術の横行が。
「妖刀、月光!」
ゆかりが今、腰に刺した小刀を引き抜いた。嫌な気配を纏ったそれで、ステラに襲い掛かる。
「またそれか」
「これならアンタの妙な力も切り裂ける!」
ああ、やっぱり火とか切れちゃう仕様なんですね。
俺とサミュエルによって一緒に外へ連れ出された宇宙人は、グランドの角で小さく縮こまっている。
そして遠くでは加藤が操る巨大ロボと宇宙人の呼び出した怪獣の死闘が。ビルを破壊し、民家を押しつぶしながら。
なんだよこれ。わっけわかんねぇ。
どいつもこいつも勝手しやがって。俺の思惑なんて完全無視か。ふざけんじゃねぇよ。
「ふはっ。ふははっ。あははははははははははは!!」
あー、なんだこれ。ムカつく。腹立つ。俺を巻き込むなよ。あなたたちだけでやっててくださいってかんじ?
笑いがこみ上げてくる。抑えられない。なんかキレた。
もう駄目だ。我慢の限界だ。どうしようもねぇや。
「そんな貴方に!これ!『なれる君』!」
俺の隣に現れたレイラが、何か手の平二つ分くらいのスティックを渡してくる。
「これさえあれば、誰でも最強になれちゃう無敵ツールだよ!思う存分使ってね」
なんでこいつはこんな笑顔でこんな危険なものを渡してくるんだろう。
「おい、いいのか?俺、本当に好き勝手やっちゃうぞ?」
「いいのいいの。やっぱりね。独裁者は自分に正直じゃなくちゃ」
満面の笑顔で俺に「なれる君」とやらを握らせてくるレイラ。
なんで未来の人間たちはこんなのを送り込んできたんだ?まあ、いいけどさ。
このストレスを解消させる為の道具をくれるんだったら、なんでも。
「ったくよぉ、未来人だかサイボーグだか超能力者だか忍者だか生体兵器だか悪魔だか宇宙人だか巨大ロボットだかなんだか知らないがこの俺が……」
俺は「なれる君」を右手に構えた。そして起動させようとして。
……これ、どうやって使うんだ?
「あ、ちなみに『なれる君』の起動スイッチは棒の底だから」
「おお、なるほど。確かにだ。サンキューな」
では気を取り直して。一つ軽く咳払い。深く息を吸って、腹から叫ぶ。
「テメェら、キレたパンピーなめんじゃねぇぞ!」
棒の底のスイッチを押した。
俺の身体が光に包まれる。
瞬く間に、一昔前の特撮ヒーローのようなスーツが装着されていく。
デザイン……び、微妙。
「どう!?カッコいいでしょ!わざわざ軍隊最強の最新式ニューモデル持って来たんだよ!」
目を輝かせて力説するレイラ。
これはあれか。一週回って新しい的な。未来ではこれがイケてる、みたいな。この時代が未来に追いついていないだけ、ってな感じか。
もういいや、なんでも。
「ハイ、これ。ビームキャノンね。弾数無限だから、思う存分ぶっ放しちゃって。こっちはレーザーソード。その気になれば、一キロ先まで刃を展開できるから。背中のブースターは加速力ありすぎるから扱いには気をつけてね。古典的だけどチェーンソーなんてものもあるけど、いる?」
「それは遠慮しとくわ」
さらに色んなものをレイラから手渡される。未来の兵器か。なんか、負ける気がしねぇ。
それにしてもノリノリだな。
テンション上がってきた。
「よし!いっちゃえ正太郎!!」
「うっしゃあ!ボッコボコにしてやらぁ!!」
俺は背中のジェットエンジンを点火し、空を飛んだ。手始めにまず、あのサイボーグを血祭りに上げてやる。
「今までよくも散々やってくれたなぁ。ソースケェ」
俺は空中を旋回していたソースケの前に立ちふさがる。
「な、貴様、それは」
俺の格好をみて驚いているみたいだ。未来の最先端技術らしいからな。
「お前の大好きなレイラちゃんに貰ったんだよォ!!」
レーザーソードを振りかざし、ソースケの両翼を切断する。二つの爆発音が鳴り響き、そしてソースケの身体が地面へと落ちていく。
「貴様ァァァァア!!」
「ぬははははは!愉快愉快!この調子で次いくぞ!!」
楽しい!超楽しい!今まで散々俺の青春を蹂躙してくれやがって。やってやる。やりたいほうだいかましてやる!
「おい、藤崎か?何やってんだよ」
叫ぶ天城の声を無視し、俺は次の相手を探す。
次の目標は……あれだ。宇宙怪獣だ。
「俺の街を踏み潰してくれちゃってさぁ。宇宙人だかなんだかしらねぇけどよ、自己中すぎるよなぁ!」
ソードの刃を最大限まで引き伸ばし、そして一気に宇宙怪獣に向けて振り下ろす。
巨大ロボと戦闘中の宇宙怪獣の、その尻尾を切断。青い液体と共に、その尾が街へ落ちていく。
さらに、苦しみ悶える宇宙怪獣に対し、右肩に装備していたビームキャノンをぶち込む。喚き声のなか、宇宙怪獣に接近。巨大ロボとの間に割ってはいる。
「ひっこんでろ、加藤ォ!」
「その声、藤崎君!?」
混乱する加藤を背後に、俺はレーザーソードで怪獣の身体を切り刻んだ。細切れになったそれらが、住宅街へ落ちていく。
「ひゃははははははは!!気ッ持ちイイ!」
「ふ、藤崎君?」
今の宇宙怪獣がやられたからか、円盤からさらに二体連続で怪獣が転送されてくる。
一体一体小出しかよ。最初から全力出せっての。
「まあいいや、テメェら全員、ぶっ潰してやるからよぉ!」
理性とか知らない。もう知るもんかよ。俺だって、好き勝手やらしてもらう!!
「うるあああああああああ!!!」
全力で吼えながら、宇宙怪獣に突っ込んでいく。
「ふふふっ。やっぱり独裁者ってのは、こうでなくちゃ!イスに座ってるだけじゃなくて、実地に赴いて闘わなくちゃね!わざわざ命令無視して来た甲斐があったよ!」
レイラがそんな事を言っているのを、俺は知らない。