Case12 鋼の巨人、怪獣と闘う
もう、無茶苦茶だった。
「いけ、ヴァンガイザー!!」
「べべムラー、迎え撃て!!」
宇宙人の呼び出した怪獣と、佐藤の駆る鋼の巨人が激突する。おいおい、周りの皆さんに被害を与えないようにやってくれよ?
巨大な羽を羽ばたかせ、空高く舞い上がる怪獣。その名もべべムラー。外見はティラノサウルスにプテラノドンの羽を備え付け、腕をゴリラのそれに付け替えたような、なんとも合成怪獣です、みたいなやつだ。ふざけてやがる。
それを追い、上昇していくヴァンガイザー。飛行しつつ、何もないはずの空間からその巨体に見合う巨大な剣を引き抜く。そしてそれをべべムラーに向かって振りかざした。べべムラーはそれを尻尾で受け、両者は拮抗。そして一瞬降着し、そして空中でなんども激突する。
「おい、このサンプルどうする?」
「そうだな。早いうちに船に連れて帰るか」
相変わらず翻訳装置を起動したままの宇宙人。わざとやってるのか?
ちなみに、一人はまだ俺のことをがっちりホールドしたままだ。
そこに、奴が現れる。
「すいません、ちょっと失礼。迎えに来たぜ、ブラザー」
サミュエルだ。なんだこいつ。この壁の中にテレポートできたのかよ。
「なんだこいつ!どうやって入ってきた!」
うろたえる宇宙人たちを無視しサミュエルが俺の肩に手を当てる。
また、意識が捻じ曲がる感覚。
そして気がつけば、俺は超能力者たちに囲まれていた。
宇宙人のおまけつきで。
空中に浮いた俺と宇宙人は、サミュエルの超能力で空中に固定される。離れる事はできなかった。宇宙人が、俺を離さないんだ。多分、外に放り出されてビビってる。
「おい、サミュエル。余計なものまで持ってくるな」
ステラさん、俺もそう思いますよ。
「うーん、でもさ、ステラ。特異点だけじゃなくて異星人まで持って帰ったら、ボスは喜ぶと思わないかい?」
「サミュエルの言うとおりだ。解剖対象が大いに越した事はないだろう」
ヨハンの「解剖」というワードに宇宙人が震えた。こいつ、日本語わかるのか。それとも何か翻訳機を使っているのか。
そして叫ぶ。
「ト、トモダチ!」
もうそれいいって。てか、お前がメガホン持ってたのか。
「ま、結果オーライってことで。さっさとテレポートして撤退を」
「させねーよ!」
どこからともなくやってきたそいつに、俺はさらわれる宇宙人とに一緒だ。
「危ない所だったな、藤崎」
天城だ。黒い翼を羽ばたかせ、物凄い速さで空を突き抜けていく。超能力者達が光る球体やら炎やら、目に見えないが恐らくぶっ放しているだろうサイコキネシス、その全てを回避し、学校へと向かっていく。
「よし、奪取成功、ってな」
グラウンドに着地した天城が、俺に向かっていった。まあ、犬の顔しているせいで、違和感しかないんだけどな。
「トモダチ?」
まだ怯え続けている宇宙人。とりあえず、俺から離れてはいるが。
「うん、もう心配すんなって。こいつはそんな悪い奴じゃないから」
「ショウ!」
「正太郎!」
ゆかりとレイラがやってくる。ゆかりは走って。レイラは空から。ついでに、ソースケも一緒だ。
レイラが俺に飛びついてくる。俺はそれに耐え切れなくて、二人してグランドに倒れこむ。
「無事だったんだね!心配してたんだよ、正太郎」
「お、おい。ちょっとお前」
このアングルは。戦闘で破れかけている制服が。胸元が。やばいって。
「ショウ……?」
ほら、ゆかりがキレた。ゆかりは俺が巨乳を見てると怒るんだ。多分、コンプレックスがあるんだと思う。前にそれを直接言ったらアイアンクローをされた。
「藤崎正太郎、貴様……」
ソースケもキレちまった。レイラが近くにいるから発砲はしないが、とてつもない殺気を放っている。
「別に何も見てませんよ?だからそんな、やめて!頭踏まないで!」
痛い。痛いっす、ゆかりさん。
「ほら、アンタもショウから離れてよ!」
「嫌だ!あなたこそ何?正太郎をいじめないでよ。まな板のクセに!」
「な、あ、うぅ……」
「おおう、藤崎さん。いつの間にこんなセミハーレムを形成しているんですか」
「おい、こら天城!馬鹿なこと言ってないで助けろって!」
ゆかりのストレスは全て俺の顔面にのしかかってきてるんだ。
――おいおい、楽しそうだなブラザー。正直うらやましい。代われ。
そんなアホなことを心の中に語りかけてくるのは一人だけ。
「また来たのかよ、アンタら」
頭からゆかりの足がどいた。視界が明るくなる。
天城がグランドに舞い降りた超能力者に向けて構えている。それは相手も同様だった。
「こっちも仕事でね。やることやんなきゃいけないんだ」
なあ、サミュエル。お前が言っても説得力皆無なんだよ。
――そこはさあ、お互いね。スルーの方向で頼むよ。今はシリアス路線の方向でサ。
敵にこんなこと言っている時点でシリアスじゃねぇ。
「ま、ともかくだ。特異点は返してもらうよ」
そして再び、戦闘が勃発する。