Case11 宇宙人、舞い降りる
皆、唖然としていた。
戦闘は中断され、皆が空を仰いでいる。そこにあるのは巨大な円盤。そう、UFOだ。
「ロマンだ……」
天城が小さく呟いたのが聞こえた。何がロマンだ。何が。
超能力者無言のままそれを見続けている。こういうときに真っ先に発砲しそうなソースケも、じっとして動かなかった。レイラも同様だ。ちなみに、下のほうでは筋肉馬鹿とゆかりが騒いでるのがわかる。聞こえてくるんだ。「降りて来い!俺と勝負しろ!」とか「きゃー!UFOだよ、UFO!写メとんなきゃ!あ、携帯制服の中だ!」とかいう楽しそうな叫び声が。
どでかい円盤の中心部分から、一筋の光が差し込まれる。それは俺の前方に一筋の光る糸となった。次第にそれは太さをましていき、最終的には半径三メートルくらいの光の柱を形成する。
そして、円盤から銀色をした何かが、光の柱を加工してくる。ちなみに、足場なんてものはない。宙に浮いているんだ。
「おおう……」
思わず声が漏れてしまう。
銀色で、でかくて赤い二つの目を持った奴が。やせ細った身体のくせに、頭だけ妙にでかいのが。それが二体。
そいつらが俺の目の前で制止する。
俺を一瞥すると、そいつらは互いに顔をあわせ、日本語でも英語でもアラビア語でも中国語でもない、謎の言語を口にする。これは疑うまでもない。宇宙人というやつだ。
もう笑うしかねぇ。未知と遭遇しちゃったよ。
暫くすると、そいつらはメガホンみたいなものを構えだした。そして言ったんだ。
「ワ・レ・ワ・レ・ハ・ウ・チ・ュ・ウ・ジ・ン・デ・ス」
「うわあ、見事にテンプレですね!」
やばい、思わず口に出てしまった。色々あって、精神の自制がきかなくなってきている。
その俺の言葉を聞いてか、もう一度宇宙人が顔をあわせる。
「おい、話が違うぞ。地球人にはこうすればウケがいいんじゃないのか?」
「いや、おかしいな。確かあいつの持ってきた参考資料はほとんどこうだったんだけどな」
「しょうがない。作戦を変えるぞ。プランBだ」
なんか、メガホンから宇宙人の言葉が日本語に変換されて聞こえてくるんですが。内容ただもれなんですが。
ほうほうそれで?プランBとは一体なんなんですかね。
宇宙人のうちの一人が俺に向き合う。そしてメガホンを構え、俺に人差し指を伸ばしてくる。
「ト・モ・ダ・チ」
……こいつらの言ってた参考資料って、映画だな?
なんかここまでくると楽しくなっちゃうぞ。
俺は無言のまま自分の右手の人差し指を、宇宙人の人差し指へ重ねた。
「トモダチ?」
あえて片言で語りかけてくる宇宙人。もうね、どうとでもなってしまえ!
「友達!」
満面の笑顔で俺は答える。それを見た宇宙人は、互いに向き合ってハイタッチ。楽しそうで何よりですよ。
「じゃ、そういうことで」
え?何が?
宇宙人が光の柱から身体を乗り出し、俺に抱きついてきた。
そして、俺を柱の中へ引き釣り込む。
「えっ?えっ?」
混乱する俺を尻目に、宇宙人のうちの一体が小型の通信機を使い、なにやら喋っている。その声がさっきのメガホンを通じて、日本語に変換されていく。
「指令、サンプル捕獲完了しました」
サンプル?サンプルってあれだよな。実験で使う、モルモット的な。キャトルミューティレーション的な?
何?じゃあ俺、これから人体実験とかされちゃうの?
「え、ちょっと待て。離せ。離せよ!」
全力を出して暴れるが、宇宙人の手は微動だにしない。こんな細い、殴ったら折れそうな腕なのに、どこにそんな力が。
「トモダチ!」
楽しそうに、宇宙人がこちらを見て言う。
泣きたくなった。もう駄目だ。今日はなんてサイテーサイアクの日なんだ。
黒服サイボーグに撃ち殺されそうになるわ、超能力者に襲われるわ、幼馴染は実は忍者だし、筋肉モンスターはやってくるし、ダチは悪魔とのハーフだとかいうし、挙句の果てには宇宙人に拉致されるんですか。勘弁してください。
「正太郎!」
叫ぶと同時に、レイラが光の柱に向かってビームを打ち込む。しかし、それは光の中へ貫通する事はなかった。
今度はレイラに続き、ソースケがミサイルを発射。それに続くように天城が黒い塊を投げつけ、ヨハンとステラが光る発光体を射出する。だが、そのどれもが光の柱を突破できない。
「なんか面倒なのがきたぞ。さっさと帰ろう」
「そうだな。この特異点を解剖して、我が星にデータを送り届けねば」
「……おい、全部聞こえてんぞ」
解剖って。俺、確実に死ぬじゃんか。
宇宙人どもは自分たちの持つメガホンに目を落とし、「あ、スイッチ切るの忘れてたわ」とか(メガホンのスイッチを入れたまま)呟いた後、二体まとめて俺を見て言った。
「トモダチ!」
「黙れ!」
もう駄目だ。俺は死ぬんだ。さようなら、母校。さようなら、母国。さようなら、母星。俺はまだしらぬどこかで宇宙人の科学を発展させる礎になります……
「待て宇宙人!正太郎を返せ!」
「藤崎正太郎、お前を殺せなかったのが心残りだ」
「ショウー!お土産買ってきてねぇー!」
「おい、コラてめぇ!銀色タコ助!ダチをどうするつもりだ!」
「おい逃げる気か!特異点!俺と勝負しろー!」
「さよならブラザー。短い付き合いだったけど、悪い奴じゃなかったぜ」
「ヨハン。特異点がさらわれているんだが、どうすればいい?」
「本部の支持を仰ごう。それまでは待機だ」
なんかよ、皆好き勝手言ってくれてるな。つうかゆかりと筋肉。お前ら、どんだけでかい声してんだよ。はっきり聞こえてくるぞ。
これで終わりか、俺の人生。
さようなら……
「諦めるな!藤崎君!」
なんだ。この声。今日あった誰でもない、けどどこかで聞いたことあるような声――
「来てしまったか、鋼の巨人!」
宇宙人のうちの一人が叫ぶ。いい加減メガホンのスイッチ切れよ。
そう、鋼の巨人。全長五十メートルの、どでかい巨大ロボット。上空から、そいつが俺たちの目の前に舞い降りてきた。
巨大な鋼の翼。胸部にはなにかの紋章が刻まれている。二つの目を輝かせ、装飾の施されたその腕を、こちらへ向かって構えている。
そして、その巨人の肩の上には。
「さ、佐藤!」
同じ学年の、佐藤がいた。あいつだ。前に天城が不良に絡まれている所を助けた、あの佐藤だ。あんな大人しいやつだったのに、最近コンタクトに代えたばっかりのお前が、どうして。ていうか、なんでそんな巨大ロボットの肩の上に乗ってるんだよ。
「ごめん、藤崎君。遅くなっちゃって」
「あ、ああ……」
気のない返事を返すのがやっとだった