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Case1 未来人、不法侵入する





 俺は藤崎正太郎。高校二年生。親元はなれて、一人暮し中。父さんと母さんは海外で仕事をしている。中学生の頃、俺もそれについていくはずだったが、日本に残りたかった俺は、頼み込んで日本で一人暮しをすることを許可してもらった。寛大な両親で本当によかった。

 俺が今住んでいるのは家族三人で暮らしていた頃から使っている、3LDKのマンションだ。一人で暮らすにはちょっと広すぎて、たまに寂しくなる。

 生活費は毎月一度、銀行口座に振り込まれる。それ以上のものはない。小遣いが欲しければ、バイトをしろってことだ。

 元から放し飼いみたいな感じで育てられた俺は、幸運にも道にも誤らずにやってこれた。公立中学で楽しく馬鹿らしく過ごし、高校で勉学に励みつつもバイトや遊び奔走し、自分で言うのもなんだが、なかなかいい毎日を送ってきた。

 昨日までは。





「ねぇ、君が藤崎正太郎?」

 昨日の午後八時。そいつは、突如ベランダに不法侵入をかましてきやがった。

「なんだお前。どっから入ってきた?」

 その女は、見るからにおかしかった。

 まず、服装。街中でお目にかかったことないような、露出の無駄に多い格好。ビキニを着て、それにブーツを履いて、ガウンを羽織る。それだけ。スタイルもそこそこにいいから、目のやり場に困る。とても、まともな奴がするような服装じゃなかった。

 まあ、いっちゃなんだけど、可愛かった。目が大きくて髪は肩の辺りまで掛かっている。唇は……いや、そんな事を考えている場合じゃねぇ。そもそもだ。

「変態か?」

「ちがうよ。私はね、未来人なんだ」

 俺の気のせいだったみたいだ。

 こいつはただの変態じゃない。電波属性まで持っている、ハイレベルすぎる変態だ。

「よし、わかった」

「わかってくれた? よかったぁ。正太郎が物分りのいい人で」

「それじゃあな。風邪引くなよ」

 俺は室内に入り、ガラス戸を閉めて鍵をかけた。

「え、ちょっと、しょうたろー!」

 関わらない方がよさそうな人種だという事は一瞬で理解できた。不法進入で露出狂でおまけに電波。永遠に接点なんて欲しくなかった。

 俺が買ったばかりのロボット格闘ゲームの続きでもやろうかと、テレビの前に戻った。窓の外から声がするが、気にしない事にした。ベランダに侵入できたんだ。きっと、帰る事だってできるだろう。

 俺が床においていたコントローラーを手に取ろうとしたとき。

「ねぇ、無視しないでよ!」

 などという声とともに、床から腕が生えてきて、コントローラーを奪っていった。

「はぁ?」

 信じられな過ぎて、対して驚いてもいなさそうな声を俺は発していた。

 そう、生えてきた。五本の指、手の平、手首、腕、肩、頭と胴体、その他もろもろといった順番で、電波女が床から生えてきたのだ。俺のコントローラーを片手に持って。

「ひどくない? 話も聞かないで乙女を外に締め出すなんて」

 乙女? 何言ってんだこいつ。もはや人間ですらねぇだろ。

「無駄だよ、正太郎。私にはこれがあるから」

 電波は左手に持っていたコンパクトみたいなものを俺に向けてきた。

「超高性能万能ツール携帯版、『できる君』。これさえあれば、できないことはないんだから」

 女が誇らしげに胸を張る。

「馬鹿が、お前は」

「馬鹿じゃないよ!こうなったらできる君で……」

 女がコンパクトを開き、なにやらいじりだした。

 次の瞬間。

「え?」

 俺は、雲の上にいた。夜空が目の前にある。月がでかい。満点の星空が見える――。

 そして、重力に負けて、身体が落下を始めた。

「うあああああああああああああああああああ!!!!!」

 滅茶苦茶に叫んだ。身体が落ちてく。何もない。あそこに光って見えるのって飛行機か。

 え、マジでここって空なのか!?

「どう、これで信じた?」

 横をみやると、さっきの電波が俺の隣で共に自由落下していた。

「あ、ちなみに気圧の差はできる君でなんとかしといたから」

「お前の仕業かよ!」

「もちろん!」

 女がふふん、と鼻をならす。正直、答える選択肢は一つしかなかった。

「ああ、信じる、信じてやる!だからこれ、なんとかしろよ!」

 このままだと死ぬ!「信じる」って言わないと絶対に死ぬ!

「うん。わかった」

 再びコンパクトが操作される。数秒後。

「うわっ!」

 俺は自宅の床に激突した。

「いって……」

 尻を強打したが、それだけだった。痛いだけだ。骨が折れたりなんかはしていない。

 とりあえず、無事に生きて家に戻ってきたみたいだ。

「ね、すごいでしょ。できる君って」

 できる君ってなんだよ。ネーミングセンスが意味不明すぎる。

 いや、それ以前に、この電波ゆんゆんの不法侵入女はなんなんだ?

「……お前は誰なんだよ」

「私はレイラ。未来人だよ」

 これが全ての始まりであり、俺の青春の終わりだった。




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