プロローグ 厄災精霊、再誕
はて、どうしたことやら―。
先日学院内に異変が起きたのだ。
しかも、それは小さな異変ではない。
大きな異変だ。
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精霊は本来、神の使いであり人々の平和を支えるものであるべきだ。
なのに、凡そ五百年前に誕生し、この世に降り立った精霊は人々の平和を脅かした。
人々を魔力で脅し、作物を荒らし、目に映る建物を尽く破壊した⋯。
そして、その精霊は外界の人間にも手を出した。
下界に降り立った精霊は、町々にバリアの様なものを張った。
下界の人間は、それを脅威と思わず逆に神様の祝福だと勘違いした。
その影響で、下界の人間は殆ど死に絶えた。
そのバリアは、空気中のバクテリアを含んだもの。
バリア内に居る人間は皆、そのバクテリアを吸って死んだ。
一瞬にして起きた大量虐殺だ。
大量虐殺の後は、小さな核を無数に複製し、それを一斉に落とした。
生き残っていた人間はその核によって全滅した。
下界の文明も、建物も、山も川も海も。
何もかも全部がその精霊によって潰えたのだ。
すぐさま我らの祖先は、対処法を考えた。
物体は存在し、弱点も必ず存在する、そう信じていた。
例えば、エネルギーを一度に圧縮して放出し、粉々にする魔法を打つという方法。
それを試した人間は、精霊が跳ね返した爆風によって死んだ。
魔力を分散する代わりに、瞬時に全てを爆発することの出来る魔法を打つという方法。
それを試した人間は、精霊の使った反発によって死んだ。
軌道が消え、接近した時に爆発することの出来る魔法を打つという魔法。
それを試した人間は、逆にその攻撃を真似され、無様に死んだ。
爆風じゃ何をやっても効かない。
なら、属性魔法をならいけるんじゃないかと考えた。
結果、どんな魔法も無効化され、真似され、跳ね返された。
魔法が駄目なら物理はどうだと上空に隕石を落としたが、逆に魔法界が悲惨な状態になった。
物理の法則が精霊に通用しないなら、弓も砲台も金槌も剣も効かない。
そんなことを数十年間繰り返し、気付けば魔法界までもが瀕死状態に陥った。
人々は何人も死に、町は崩壊しかけている。
今まで散々とという程に手を尽くしてきた。
だがもう手詰まり。
そんな時に、とある無名の魔法使いがこんなことを口にした。
「いっそのこと、封印してみてはいかがでしょうか⋯?」
封印。神級の魔法使いのみが使うことを許される、最大の魔法。
それを使用することによって、確かに精霊は封印できるのかもしれない。
現に魔王級の強さを誇る化け物がこの地に降りてきた時には、封印魔法を使っていた。
だが、それ以上にこの精霊は強力だ。
爆発も属性魔法も物理攻撃も効かない。
数十年かけても倒せなかった化け物が、封印如きで本当に鎮圧出来るのか。
大半の祖先の者達はそんな疑問でいっぱいだった。
「気弱な娘には魔法を使うのは向いていない。気弱な娘のことを信じるのも馬鹿馬鹿しい。」
「馬鹿なこと言って、お前は封印魔法が使えるのか?階級は神級なんだぞ神級!!」
皆が口を揃えてそう言った。
その罵倒を退くが如く、魔法使いは言った。
「私、神級です。封印魔法を使えます。」
その一言が場を凍りつかせた。
名が一切轟いていない魔法使いが、自分が神級だと豪語したのだ。
「嘘に決まってんだろ!出任せ言うんじゃねぇ!」
「時間を無駄にする気ですか?」
怯まずに抵抗し続ける魔法使いに、人々は動揺し続けた。
「なら、お前がやってみろよ。」
「できねぇなら俺達が殺してやるよ。」
そんな物騒なことを言い出す連中も居たが、それも気にしなかった。
「やります、やってやりますよ。」
―川に、山に、水に、大地に、降り注ぐ雨の様に。人に、物に、植物に降り注ぐ太陽の様に。光り輝くもの数知れず。富と誇りに満ち、栄光に歓喜する。世の理は平和という秩序の下に、神に与えられた何者にも代えがたいもの。我々はそれらを脅かす怨念、霊、悪魔、厄災、全てを滅することをここに誓う。永久に約束されし平和を守り続ける為に。異空の神よ、我々の願いを叶え給え。民を脅かす厄災を鎮め給え!異空封印!!―
声高らかに言い放たれた詠唱と同時に、精霊の頭上に円形の時空のゲートの様な物が現れた。
そして、精霊を抗う間もなく吸い込んだ。
それだけではない。
精霊に破壊された建物や、殺された人々が徐々に復活を遂げた。
下界も次第に修復されていき、再びの平和が訪れたのだ。
封印した魔法使いは、周囲に称えられた。
「よくやった」「信じていた」などと、掌を返すような褒め方をした。
中には彼女を恨んだ人間も居たらしいが、結果的に魔法使いは英雄になったのだ。
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その精霊を封印した紋章が、学園の詠唱室という場所にあるのだが⋯。
百年周期で古びた封印の紋章を取り替える儀式が、詠唱室では行われる。
そこには無名の魔法使いは居ないが、時代の流れによって神級である封印魔法を使い熟せる人間が増えていたのだ。
その為、大人数で詠唱をし、紋章を取り替えていたのだが。
先日、その儀式が行われる際に何者かが異なる詠唱を唱えていたらしく、儀式は失敗に終わった。
それで何もなかったならそれで良かったのだが、失敗した影響で精霊が目覚めたのだ。
厄災精霊と恐れられていた、精霊が⋯。
詠唱者の大半は、魔力を使い果たし重症。
他の詠唱者も居るが、そこまで使いこなせるわけではない。
そして今、その精霊は⋯。
リンという冴えない魔女に身を寄せている。
はて、本当にどうしたものか⋯⋯。
つづく




