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婚約者の幼馴染に陥れられた私を“私の幼馴染”が論破したら、『やっと本当の君を見せてくれた』と婚約者に抱きしめられた

作者: 唯崎りいち
掲載日:2026/05/18

 私の婚約者様には幼なじみがいる。


 婚約者の公爵令息ユーリウス・グラナートの幼なじみは伯爵令嬢エレノア・フリーデ。


 私は侯爵令嬢フィオナ・ベルグラン17歳で、同じ歳のグラナート公爵家のユーリウス様に学園で告白された。


 「入学してから、ずっとあなたを見ていた」と言われた時には飛び上がるほど嬉しかった。

 私も入学してから一年間、ユーリウス様をずっと見ていたから。


 私が頷くと、ユーリウス様の側近が私の家に飛んで行って、その日に婚約が成立した。


 あまりのスピード感に唖然としたけど、それだけユーリウス様に愛されているんだと嬉しくなって、その夜はドキドキして眠れなかった。


 なのに、ユーリウス様は幼なじみのエレノア様とばかりいる。


 エレノア様のフリーデ伯爵家は名門の家柄で王家の信頼が厚いと言われている。


 ユーリウス様のグラナート公爵家は、ユーリウス様のお父様で現国王の弟だった王子が、分家されて出来た新興の公爵家だ。


 フリーデ伯爵家が貴族として独り立ち出来るように、かなりのサポートをしたと言われている。

 その関係でエレノア様とユーリウス様も、物心つく前から兄妹のように育てられたらしい。


 だから、ユーリウス様から告白される前から、ご一緒されている姿は見ていました。


 ただ、私と婚約してから、その頻度が尋常じゃなく上がっています。


 朝、ユーリウス様が私の家に迎えに来てくれて、一緒に学園に登校するけど、登校して私と別れた後に振り返ると、ユーリウス様はエレノア様と一緒にいるのです。


「フィオナ、また後で」


 そう言って私に笑顔を向けてくれたユーリウス様が、同じ笑顔をエレノア様に向けている。


 私が手に持っていた筆記用具の繊細なガラスペンが手の中で砕けた。


 それから、私が話した後にはユーリウス様はいつもエレノア様と話していて、お見かけするたびにエレノア様が一緒にいます。


「ユーリウス様、こんな所にいらしたのね。また、“大事な話”です」


 少しだけエレノア様の聞こえて来たことがあったけど……。

 “大事な話“ってなんだろう?


 親密そうに“大事な話“をされているユーリウス様とエレノア様の姿に、婚約者ってなんだろうと涙が溢れて来ます。



「まだ悩んでるのか、フィオナ」


 私は幼なじみの公爵令息セオドリック・ヴァルハルトに相談した。


 ユーリウス様は帰りも私を家まで送ってくれるから、私はいつもなら教室でユーリウス様を待っているんだけど、今日はセオドリックと放課後は人通りの少なくなる階段の踊り場にいた。


「セオドリック、ユーリウス様が、また一日中エレノア様と一緒だったの!」


 私は泣きながら話した。


 二人が一緒にいるのを見るたびに胸に棘が刺さっていくように、消えない痛みがふえていた。


 セオドリックは、私の肩を包むように軽く片腕を回すと、ポンポンと頭を撫でてくれた。


「フィオナ……。エレノアのフリーデ伯爵家はユーリウスの父がグラナート公爵家を盛り立てられるようにサポートした関係で、今や貴族社会でも発言権が強いから、エレノアの事も無下にできないんだろう」


 セオドリックのヴァルハルト家も、軍事的功績からお父様の代で子爵から公爵に引き上げられた新興の公爵家だ。


 ユーリウス様のグラナート公爵家とは何かと反目する事が多いらしいけど、その分ユーリウス様の家庭の事情にも詳しかった。


 いつもこうやってセドリックはいつも私を慰めてくれる。



 私は階段を登って教室に戻ると、私を探しに来たユーリウス様に会う。


「心配したよ。フィオナ、さあ帰ろう」


 ホッとした顔で、本当に心配してくれたんだろう。

 この顔を見る時だけ、私のこころは晴れた。


 私がうなづくと、私の背中にユーリウス様の手が回されて、促されるままにユーリウス様と歩いていく。


「ユーリウス様! その女は厄介ですわよ」


 目の前にエレノア様がいて、私を睨んでいた。


「私、見ていましたわよ。さっきまで、その女フィオナ・ベルグランは、男の腕の中いましたのよ!」


「エレノア……!?」


 エレノアの告発にユーリウス様は驚き、変える支度をしていた生徒たちも一斉にこっちを向いた。


「相手は、ユーリウス様がいつも気にされているセオドリック・ヴァルハルトですわよ」


 ざわざわと周りが動いた。

 「やっぱりね」と言う声が聞こえてくる。


 セオドリックは新興の公爵令息なだけに、注目されやすく、幼なじみの私も学園では知られていた。


 ユーリウス様と婚約する前は、私とセオドリックは婚約するものだと思われていたとか……。


 私の背中に回されたユーリウス様の手がギュッとキツく私の身体に押し当てられた。


 横目で見上げると悔しそうに唇をかむのが見えた。


 ユーリウス様に「私が好きなのはあなたです」と言いたいのに、エレノア様から追い討ちが来る。


「所詮は軍事力しか脳がない田舎の領主です。古い軍事の象徴のベルグラン侯爵家には、軍事力で成り上がった新興のヴァルハルト公爵家がお似合いですわよ」


 私の家のベルグラン侯爵家はエレノア様の言う通り、過去には国の軍事力の象徴と見なされて、未だに領地と領民の幸福を第一に防衛を強化しているような家だった。


 おかげで、新興勢力のセオドリックのヴァルハルト公爵家とは関係が良好で、私とセオドリックも小さな頃から一緒だった。


 だから、たまに愚痴って慰めてもらうくらい普通のこと。

 あなたたちみたいに四六時中一緒にいるわけじゃないのよ!


 ……けど、言えない。


「待て、エレノア。軍事力をバカにするものじゃない。領民を不安にさせない為には軍事力が無ければいけない。領地の安定は税収の安定にもつながるものだ。ヴァルハルト公爵家が子爵から引き上げられたのは、軍事力で王を脅したからではなく、王国での存在価値を見せつけたからだ」


 ユーリウス様の言葉は意外だった。


 セドリックの家とは反目してると思っていたけど……。


 エレノア様は鼻で笑う。


「それと、フィオナ様とセドリック様が仲が良いのは別の話ですわよ?」


 勝ち誇ったように私に目を向けた。


「それが別の話なら、君とユーリウスの良さも、家同士の関係以上の意味があるのか?」


 不意に会話に入って来たのはセオドリックだった。


 エレノアを睨みつけながら続ける。


「婚約者がいる幼なじみに四六時中付きまとうのは、幼なじみ以上の意味があると思われても仕方ないだろう?」


 エレノアがたじろぐ。


 私とセオドリックへの興味だった生徒たちの関心がエレノア様個人へと向かう。


 エレノア様が幼なじみのユーリウス様に熱を上げていることは誰の目から見ても明らかで、知らないのはユーリウス様だけだった。


 勝ち誇ったように私に敵意を向けていたエレノア様が、今では立場が逆転して追い込まれていた。


 軍事力に対する無知をユーリウス様に指摘されて、幼なじみとしての過干渉をセドリックに指摘される。


「待ってくれ、それは僕に対する侮辱でもある」


 ただ、意外な助け舟が現れた。

 ユーリウス様だ。


 また私の心の痛みが刺した。


「確かにエレノアと四六時中一緒にいると思われても仕方ない接し方はしていたが、そこに恋愛感情など一切ない。フィオナとのことを相談出来るのが彼女しかいなかったんだ……」


 ユーリウス様がセドリックに向かって弁明する。


「だとしても、エレノアの異常な距離感に気づかないわけじゃないだろう? エレノアの気持ちに薄々気づいていても切らなかったのは、お前がフィオナに対して誠実じゃないからだろう」


 セドリックの言葉に、さっきまで勢いよく反論していたユーリウス様が黙る。


 私の胸が痛む。


 ポロポロと涙が溢れてきた。


 ユーリウス様は私が不安な事も気づいていて、エレノア様との関係を続けていたんだ。


「すまなかった、フィオナ。僕もエレノアの僕への気持ちに気づいたのは最近なんだ。気のせいかと思っていたし、本当に君の事を相談できる相手は彼女だけで、“大事な話”として聞いてくれていたんだ。だから、すぐに切る決断が出来なかった……!」


 必死に私に謝るユーリウス様……。


 だけど……私への悩みって……?


 私はこんなにあなたを一途に思っているのに、私の気持ちを疑ったのですか?


 私は信じられない気持ちでユーリウス様を見た。


 ユーリウス様はただ誠実に私に向かって頭を下げている。



「お前も悪い、フィオナ」


 いきなり、セドリックの断罪の言葉が私にも向けられる。


「ユーリウスの前で、猫被りすぎだ。お淑やかな侯爵令嬢になれないからって、全くの無言じゃ、ユーリウスも不安になるだろう」


 セドリックが私をまっすぐ見てドヤ顔で言う。


「それは、ユーリウス様に嫌われない為って、何回も言ったでしょう! バカ」


 私は、ユーリウス様の前なのを忘れてセドリックに言い返していた。

 

 あ、バカなんて他人に向かって言うのはユーリウス様の婚約者に相応しくない!


 しまったと思いユーリウス様を見る。


 ユーリウス様は唖然として、私とセオドリックの間を見つめている。


 私の目から涙がまた溢れてくる。


「バカバカバカ、セドリックのバカ! ユーリウス様に嫌われちゃったでしょう!」


 私はセドリックの急所を殴りつけると、走り出す。


 現在の軍事力の象徴の公爵家令息のセオドリックは当然に避けようとするが、体術ではまだまだ私が上。

 遅い回避行動は間に合わず、セドリックの急所に私の攻撃が綺麗に吸い込まれていった。


 セドリックを鮮やかに倒して、逃げようとする私の腕を掴む手があった。


 ユーリウス様の手だった。


「フィオナ! やっと見せてくれた、本当の君を……!」


 ユーリウス様が涙声で……でも、嬉しそうに言って、私を抱きしめる。


 え? ええ!?


「ユ、ユーリウス様、私の本性を知っていたの……?」


「入学してからずっと見てたって言っただろう? セオドリックを何度も投げ飛ばすところを目撃してるよ……」


 投げ飛ばすなんてしたかしら……?

 さすがにそこまではしてないと思うけど……2、3回はやったかな。


 でも、ユーリウス様は私の事を“大事な話”と言って相談していた。


「……良いのか、ユーリウス? こんな……変な女で……」


 苦しそうにお腹を抑えて立ち上がった、セドリックがユーリウス様に聞く。


「変な女じゃないもん」


 私が言うと、セドリックは呆れたように私を一瞥した。


「変な女なんて良いものじゃないな。肉体的には強いくせに、精神的には脆くてすぐ泣いてわがまま放題の、めんどくさい女だ」


 セドリックは容赦なく言う。


 いくら本当の事でも、そんなこと言ったら、ユーリウス様に嫌われるでしょうが!


「そこが、フィオナの可愛いところですよね」


 ユーリウス様が私の目を見て言う。


 真っ直ぐな澄んだ瞳にドキドキさせられるけど……。


「ユーリウス様……さすがにそれは変です」


 私は思わずユーリウス様に突っ込んだ。



「こんなの納得できませんわ!」


 しばらく放置されていたエレノア様が叫んだ。


 他のギャラリーも——私も、似たような気持ちになっていた。


 ただし、エレノア様に軍事力への無理解や、幼なじみという立場を利用しての工作行為はみんなの元に晒されてしまった。


 エレノア様を囲むヒソヒソ声が大きくなっていく。


 鋭い目つきで周囲を睨みつけるエレノア。


「ユーリウス様を支えていたのは私と私の家系なのよ!」


 叫びも虚しく廊下に消えた。


 誰かが今も言動を拾ったら、まるで自分の家系の方が優れていると言わんばかりのセリフに周囲の反感がもっと大きくなっただろう。


 思わず本音を漏らした事にハッとするエレノア。


 みるみると怒りと羞恥に顔を赤くして、エレノア・フリーデは退場していった。


「……可哀想だな……」


 私の幼なじみのセドリックが、自分を重ねるように言った。


「私を陥れようとした子と、幼なじみがくっつくなんて絶対嫌よ」


 私がつぶやくと、


「それは絶対ないから安心しろ」


 と、セドリックから返事が返ってきたから、安心する事にした。 


「邪魔者同士がくっつくなら良いだろう?」


 と、ユーリウス様。


「俺は邪魔者じゃないぞ。昔からの貴族たちにデカい顔されるのが嫌なら、俺を認めろ。俺は、幼なじみのフィオナを裏切る事は絶対にない」


 そう言う意味では、セドリックはとても信用できた。

 私に嘘をついた事なんて一度もない。


 ユーリウス様は驚きに目を見開く。


 古くからの貴族はこの二つの新興公爵家にとっては目の上のたんこぶだ。


「そうだな、君は信用できそうだ。俺と同じだから」


 ユーリウス様とセオドリックが固く握手した。


 この国も変わって行くのかもしれない。


 私をめぐる二人の男を通して。


 でも、


「セドリック、ユーリウス様と仲良くしないで! ユーリウス様、今度は私の幼なじみを優先するの」


 私が涙目で言うと、ユーリウス様が抱きしめてくれた。


「素直に話してくれるようになって嬉しいよ。僕の一番はフィオナだから、もう君を不安にさせる事はしないよ」


「はい、私の一番もユーリウス様です!」


 私とユーリウス様は仲良く手をつないで帰っていく。


 セドリックと他の生徒たちが呆れている。


 仲良く手をつなぐ私とユーリウス様を見つめるセドリックの一番も私だからね。


 私は一瞬だけ視線を送った。


◆◇◆


 彼女はどこまで分かっているんだろうか?


 セオドリック・ヴァルハルトがフィオナに向ける執着は普通じゃない。


 ただ、僕にもセドリックの家の強大な軍事力を無視できない弱みがある。


 俺の父上が王家から分家して、グラナート公爵になられたのは、ヴァルハルト公爵家の台頭があったからだ。

 この軍事力に優れた新興の公爵家の脅威と、反発する古参の貴族たちとの摩擦が起こらないようにするのがグラナート公爵に課せられた命題だった。


 貴族の調整者や管理者と言えば分かるだろうが面倒くさい。


 フィオナがいればそれも少し楽になる。


 最初はそう言う気持ちで見ていたけど、本気で好きになってしまった。


 セドリックは危険だ。


 ただ、フィオナが彼をただの幼なじみだと思っている間は、彼は幼なじみに徹するだろう。


 ひたすらにフィオナの幸せを願っているから、僕とフィオナの誤解を解くような事も言う。


 フィオナを自分のものにしたい俺とは少し違う愛。


 ただ、フィオナに手を出さないなら、セドリックは利用できる。


 フィオナはずっと僕のそばで笑っているだけでいい。


◆◇◆


「私が婚約しても、セドリックはずっと私を一番に考えててくれるでしょう?」


 公爵令息と婚約したばかりの幼なじみが言う。


 俺のものにするはずだったのに、俺の腕の中に守られながら、ずっと違う男を見ていた事は知っていた。


「ああ」


 誰を見ていてもいい。


 いつでも、お前の帰ってくる場所はここだけだ。


 頭を撫でてやると、にこりと笑うフィオナは、俺だけのものだから。


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