六話 元公爵令嬢、初めての友人ができる
入学式は大講堂で行われるらしい。
私は周りに見つからないよう、極力目立たないように歩いて、なんとか目的の場所まで辿り着くことができた。
席は決まっていないようだったから、前すぎず後ろすぎない、ちょうど良い位置の空席に腰掛ける。
……ところまでは、よかったのだけれど……。
「ねぇ、後ろに座ってる方って……」
「間違いなく、ランカスター伯爵家のセシリア様だわ……! 私、一年前のお茶会でドレスを馬鹿にされたから、よく覚えているもの」
「やっぱりそうよね。私は話したことがないけれど……てっきり入学式も派手な服装で来ると思っていたのに……」
「なにか企んでるんじゃない? なんにせよ、警戒しておくに越したことはないよね……」
「ちょっと、気をつけないと聞こえるわよ」
____心配しなくとも、もう全部聞こえてるわよ!!
前に座っている二人のご令嬢の名前は……ダメだわ、思い出せない。
セシリアは社交界に頻繁に顔を出す割に、人の名前を覚える努力を全くしていなかったのよね……。
でも、流石にこのままだと良くないことくらいはわかる。彼女たちから噂が広まってしまえば、学園内でも一瞬で悪女扱いされるもの。
……少しくらいは、誤解を解いておいた方が良いかしらね……。
そう思って、コホン、と小さく咳払いをする。前に座っていた二人がビクッと肩を震わせて、おそるおそる振り向いた。
「……ごめんなさい、私の名前が聞こえたものですから、驚いてしまって……。少しむせてしまいましたの」
「そ、そうなのですね……?」
「えぇ……。それより、以前のお茶会で、私は貴女にとても失礼なことを申し上げてしまいましたよね?」
「え、えっと……」
突然話しかけられたショートカットのご令嬢は相当動揺している……というか、怖がっているようだわ。
いけない、もっと申し訳なさそうな顔をしないと……!
「……私、あれからとても反省しましたの。あの時は……貴女のドレスがあまりにも素敵だったものですから、嫉妬からあんな酷いことを申し上げてしまったのですわ。許してほしいとは言いませんけれど……謝罪させてくださいませ」
「えっ? いや、わ、私こそ、ごめんなさい……?」
ご令嬢が困惑、いや混乱した表情で返事をしてくれた。いいわね。あと一押し……!
「改めまして、私はランカスター伯爵家のセシリアと申します。せっかくの新入生同士ですもの。これからの三年間、よろしくお願いいたしますわ」
ここで、王妃教育で何度も練習した笑顔を披露する。
ショートカットのご令嬢が「わぁ……」と少し顔を赤らめてから、「わ、私はアルドリット子爵家のエドナと申します!」と自己紹介してくれた。
エドナね、覚えたわ。
エドナに続いて、三つ編みのご令嬢も「私はオールポート子爵家のソフィアと申します。ご挨拶が遅くなり申し訳ございません」と挨拶してくれた。
「私、心を入れ替えたは言いものの、まだ友人と呼べる方がいませんの。よろしければ、お二人共仲良くしてくださる……?」
「は、はい! しょ、正直セシリア様のこと、怖い方だと思っていたんですけど……。でも、セシリア様の方が身分が高いのに、子爵令嬢の私に謝っていただけるなんて……! エドナ、感動いたしました……!」
よし!!!
これで悪女の噂のタネを一つ潰すことに成功したわ……!
公爵令嬢時代に鍛え上げたこの表情筋が、まさかこんなところで役に立つとはね……。
……そんなことを考えていた時、式が始まるというアナウンスが会場に響いた。
「……あら、入学式が始まるみたい。それではお二人共、また後で教室でお話しましょう」
「はい、楽しみにしております!」
エドナが嬉しそうに笑ってから、前を向いた。
ソフィアも先ほどより表情が柔らかい。
これは攻略完了……と思いたいけど、どうかしらね……?
……それにしたって、やっぱりこの世界の人達……あまりにも素直すぎないかしら……。
なんというか、好感度が上がるのが異常に早いというか……。
ま、まぁ、物語の世界なんだもの、気にするだけ無駄よね!
この調子で、どんどん悪い噂を塗り替えていくわよ!!
____そんな風に意気込んでいた私は、まだ知らなかった。
この入学式の直後、"運命の出会い"をすることになるなんて……。




