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五話 元公爵令嬢、義弟を無意識に攻略する

「うん、完璧ね」


 鏡の前で制服のリボンを結んで、朝の支度は完了。もちろん縦ロールはやめて、髪はせっかくだしストレートに下ろしてみた。


 ノエルは直前まで「本当にこのリボンでいいんですか?」と聞いてきたけれど、私はこれがいいのよ。


 元公爵令嬢、そしてランカスター伯爵令嬢たるもの、校則はしっかり守らなくちゃね。


「それじゃあ、そろそろ行くわ。馬車の準備をお願いできるかしら」

「かしこまりました。……一昨日までのお嬢様でしたら、正直不安しかなかったですが……。今のお嬢様なら、学園生活も乗り越えられると思っていますよ」

「ノエル……!」


 そう言って、ノエルは微かに微笑んでくれた。ノエルのこんな穏やかな表情、セシリアは初めて見たんじゃないかしら……。

 なんにせよ、今日は良い日になりそうだわ!


 上機嫌で部屋を出る。その直後。

 少しだけ不機嫌そうな雰囲気を纏ったギルバートが、私の部屋の前で仁王立ちしていた。


「……もう行くのかよ」

「え、えぇ。ギルバートは来年入学よね? 帰ったら学園の話、たくさんさせてちょうだい。きっと役に立てると思うから」

「……なんか、あんた変わったよな。まぁいいや、はい、これ」


 ギルバートがピンクの包み紙を差し出してきた。私はそれを受け取って、早速開封する。

 中に入っていたのは……セント・セシリアの模様が刺繍されている、白いハンカチだった。


 確かセント・セシリアの花言葉は……『温かい心』とかだったかしら。


「もしかして……これ、私への入学祝い?」

「……だったら悪いかよ。母上達が用意しろって言うから、仕方なくだからな。……まぁ、あんたなんかちょっと変わったし、これくらいならいいかって思っただけだからな! 勘違いすんなよ」


 ____この子、流石に良い子すぎない!?


 言い方はぶっきらぼうだけれど……刺繍はセント・セシリアだから特注だろう。

 というかそもそも、あれだけ意地悪してきた相手にプレゼントなんて、良い子すぎるわ……!


 私はハンカチを大切にしまってから、ギルバートを思いっきり抱きしめた。


「っ、はぁっ!? ちょ、なにしてっ」

「ギルバート! 本当にありがとう! 私、学園生活頑張るわね!」

「い、いいから離せって……! てか、胸当たって……!」


 ギルバートに勢いよく肩を押されてしまったので、ゆっくりと離れる。

 そしてギルバートは……真っ赤な顔をして、私から目を逸らすように横を向いていた。


 ……この子、もしかしてチョロいのでは……?

 なんだか心配になっちゃうわ。それとも、これも物語補正だったりするの?


「ねぇ、あなたのこと、ギルって呼んでもいいかしら?」

「は? まぁ、別にいいけど……」

「決まりね! じゃあギル、学校が終わったらまた会いましょう!」


 私はそう言って、ギルの手を包み込んで笑いかけた。

 ギルは硬直しながらも、「お、おぉ……」と返事をしてくれた。


 ちょっとは仲良くなれたってことよね!

 なんか……あまりにも単純と言うか、流石物語の世界ねって感じだけれど……。

 この際そんなことはどうでもいいわ!


 そうして私は鼻歌を歌いながら、ギルと別れたのだった。


「いや……流石にずるいだろ、あの笑顔は……。って、いやいや、俺はこんなんじゃ絆されないからな……!」


 ____ギルが真っ赤な顔で、こんなことを呟いていたなんて知らずに。


 ***


「着いたわね……!」


 馬車を降りてすぐ、目の前にそびえ立つのはそれはもう大きな学園。


 花畑はもちろん、花のアーチや噴水、そしてやたらオシャレなベンチなど、とてもメルヘンな庭が見える。


 流石王立……というか物語の世界の学園ね……。なんだかとってもロマンチックというか……あんまり学園らしくはないわ……!


 でも、ここで頑張るしかないのよね。私はこの世界で生き抜くって決めたんだから。


 今度こそ、幸せな卒業パーティーを迎えるために!


「さぁ、行くわよ!」


 ……こうして私は、学園への第一歩を踏み出したのだった。

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― 新着の感想 ―
ギルバート、かわいいですね! 今後セシリアがどうなっていくのか気になります☆
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